第10回全国院生生活実態調査 概要報告

2019年6月10日
※データの無断転載はお断りします

全国大学生活協同組合連合会(以下全国大学生協連)は、2018年秋に第10回全国院生生活実態調査を実施いたしました。

全国院生生活実態調査は、大学院生の生活実態を調査し、院生生活を向上させるための調査で、2016年からは2年に1度実施しています。全国規模で大学院生の生活について調べた調査は希少で、「普段どんな生活をしているかわからない」と言われることが多い大学院生の生活の実態を知る上で貴重な調査となっています。

<今回の調査結果の主なポイントとして以下の点があげられます>

1
大学院生の収入支出額が増加している傾向は学部生と同じである。また、奨学金は敬遠傾向にある。大学院進学後のアルバイト経験(TA・RA含む)、収入額は増加傾向にあり、時給単価上昇や働き口の増加により大学院生にとってアルバイトしやすい環境になったことが要因としてあげられる。
2
悩みやストレスがあると回答した人は61.8%と、2007年からの調査の中では過去最低値となった。要因としては「将来の進路(就職活動)」好転が大きいと考えられる。学生の売り手市場に加え、就職活動をするうえで大学院進学が「希望の職種に就けるのが有利」「不利だったことは特に無い」と答えた院生が多い。選考の早期化によって研究に費やす時間が十分に取れることも併せてあげられる。
3
英語力向上のために日常的に行っていることがあると答えた院生は26.0%であり、文系のほうが理系より約10ポイント高い結果となった。一方で、英語学習で重要視している能力は文系・理系で大きな差は見られなかった。

はじめに 調査概要とサンプル特性について

<調査概要>

調査の目的

大学院生の経済的生活、日常生活、研究生活、進路、生協事業のとらえ方などを明らかにし、結果を大学生協の諸活動や事業活動、大学院生の研究生活向上にいかす。

調査方法

Web調査。各生協の組合員名簿などから抽出し、調査回答用のURLを案内し、回答を得た。

調査実施時期 

2018年10月15日~11月19日

調査対象 

全国の国公立および私立大学に在籍する修士課程(博士課程前期)・博士課程(博士課程後期)・専門職学位課程の大学院生

回答数 

3,975名

<サンプル特性>

  • 第10回全国院生生活実態調査は19大学生協が参加、3,975名から回答を得た。
  • 前回調査の構成と比較し、私立大、自宅生比率が増加した。また、今回から性別の無回答も集計可とし、5.6%であった。

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1.大学院生の経済生活

収入、支出ともに増加
5年前から大幅に増加したアルバイト収入とあわせ、仕送り額も増加傾向
一方学部生時からの貸与奨学金が支える学費の負担感は大きい

(1)1ヶ月の生活費(図表1)

※1ヶ月の生活費はサンプルによるデータのばらつきが少ない修士課程についての報告とした

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1)自宅生の生活費

① 収入
「合計」81,300円(16年+4,470 円)、「小遣い」19,000円(同+1,120円)、「奨学金」20,900円(同-3,760円)、「アルバイト収入」29,700円 (同+8,930円)。

② 支出
「合計」80,700円 (16年+6,470円)、「食費」18,400円 (同+1,220円)、「趣味・娯楽費」14,000円 (同+1,440円)、「交通費」9,600円 (同+1,340円)、「貯金・繰越」15,800円(同+3,730円)。

2)下宿生の生活費

① 収入
「合計」139,700円 (16年比+15,440円)、「仕送り」68,700円 (同+9,600円)、「奨学金」36,300円 (同+1,120円)、「アルバイト収入」29,500円(同+11,630円)。

② 支出
「合計」138,900円 (16年比+17,160円)、「住居費」52,900円 (同+4,850円)、「食費」31,300円 (同+1,750円)、「貯金・繰越」10,800円 (同+2,790円)、「趣味・娯楽費」14,600円 (同+2,130円)。

(2)奨学金・学費(図表2)

  1. 日本学生支援機構の奨学金の「貸与を受けている」は34.1%、「申請したが受給していない」2.5%、「申請しなかった」63.4%である。貸与受給している割合は13年44.7%、16年39.5%と減少傾向にある。また住まい別には自宅生26.6%、下宿生39.6%と下宿生の方が多く貸与されており、文理では文系21.0%、理系39.1%と理系院生の貸与受給が多い。
  2. 日本学生支援機構やその他の貸与奨学金を「受給している」34.7%(自宅生27.0%・下宿生40.3%)のうち、21.4%(自宅生15.9%・下宿生25.4%)が将来の奨学金返済について不安を感じている。特に下宿生は学部課程時から継続して奨学金を貸与受給している院生が24.2%と自宅生の12.0%を大きく上回るため、返済に対する不安も大きい。
  3. 学費免除については、「全額免除」(自宅生6.2%・下宿生12.3%)、「一部免除」(自宅生8.0%・下宿生13.6%)と免除の程度に関わらず、生活費負担が大きい下宿生に多い。
  4. 留学生は「全額免除」31.4%、「一部免除」36.8%、「免除されていない」31.8%と、それぞれ同程度であった。
  5. 学費の負担は、複数回答で「親」64.5%が最も多く、それに次いで「本人(奨学金)」13.9%、「本人(貯金・アルバイトの賃金など)」12.2%であるが、「本人(貯金・アルバイトの賃金など)」は、文系22.9%に対し理系6.4%と、研究活動などによりアルバイト時間が制限される理系が低い値を示した。
  6. 現在の暮らし向きの感じ方については2016年比で「楽である」(「大変楽である」+「まあ楽である」)が2.6ポイント増、「苦しい」(「やや苦しい」+「大変苦しい」)が0.5ポイント減となった。院生の「楽である」が41.8%に対し学部生は58.5%、一方「苦しい」は院生22.0%、学部生9.1%と、学部生と比較すると院生の「苦しい」が多い。

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(3)アルバイト(図表3・図表4)

  1. 現在65.7%がアルバイト(TA・RA含む)就労しており、10年42.3%→13年42.8%→16年60.0%増加している。また1ヶ月のアルバイト収入額も増加傾向にあり、大学院生にとってアルバイトをしやすい環境になったことがうかがえる。
  2. 住まいによるアルバイト収入額の差は小さいが、生活費の支出額が大きい下宿生は自宅生と比較して収入に占めるアルバイト収入の構成比が低く、奨学金や家庭からの仕送りに依るところが大きい。
  3. 理系や医歯薬系の院生は学部課程時から大学院進学後のアルバイト継続性が高く、医歯薬系の修士課程は学部生時代にアルバイトした人の8割以上が現在も継続してアルバイトをしている。
  4. TAやRAは16年、18年ともにその年度内で6割弱が経験している(16年59.0%・18年58.7%)。18年は文系34.4%に対して理系が65.6%と多く、講義内で演習や実験が多いことが要因として考えられる。

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2.大学生活

希望の職種に就くために大学院進学は有利

(1)研究生活(図表5・図表6)

  1. 院生の登校日数は平均4.9日/週と、学部生の4.4日/週と比較して多く、また文系院生の4.3日に対し,理系院生は5.0日と多い。
  2. 主な研究場所は、修士課程、博士課程ともに「所属研究室」での研究が全体の8割(全体85.1%・修士87.2%・博士78.5%)を占めるが、特に理系は94.0%(文系55.3%)と高く、研究室中心の生活を送っている。
  3. コアタイムの有無については、コアタイムが「ある」は25.6%(文系6.6%・理系29.8%・医歯薬系38.6%)専攻ごとの差が見られる。
  4. コアタイムがある人の研究の時間帯は、全体でみると9時台(10.1%)から10時台(11.4%)の開始、終了が17時台(12.2%)という回答が多く、19時以降の院生も3.3%いる。
  5. コアタイムがある院生を100とすると48.0%が8時間以上のコアタイムとなっており、平均時間は文系(6.2時間)、理系(7.7時間)、医歯薬系(8.2時間)であった。

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(2)キャリアについて(図表7)

  1. 大学院へ進学した理由としては「高度な専門知識や技能を身につけたかった」59.5%(文系63.6%・理系58.9%・医歯薬系55.4%)、「自分の興味をより深めたかった」51.0%(文系63.1%・理系47.4%・医歯薬系48.5%)という理由が多く、理系ではさらに「就職に有利だと思った」が53.8%(文系13.1%・医歯薬系29.6%)、「進学するのが当たり前だと思っていた」も36.6%(文系5.2%・医歯薬系25.4%)と多い。
  2. また学部と同じ大学への進学は74.2%(文系41.0%・理系86.5%・医歯薬系66.3%)で、この理由としては「今までの研究を続けたかった」が37.2%で最も多いが、「他大学の院に行くよりも楽」(17.3%)という回答も多い。
  3. 一方学部とは違う大学院に進学した(20.3%)理由として、「別の分野を研究したい」(6.3%)という回答は、理系では13年の7.1%から18年は4.7%と減少している。現在志向の傾向が強まっていることとあわせ、理系の2割が大学入学前から修士課程に進学することを決めており、大学院進学を念頭に大学選びを行っていることも考えられる。
  4. 社会人を除いた院生のうち大学院進学後に就職活動を「した」が50.5%、「していない」が49.5%。就職活動をした院生のうち大学院進学が有利であったこととしては「希望の職種に就ける」を14.0%があげており、不利だったことは「特にない」が36.3%で最も多い。
  5. 就職活動の際の情報源としては「インターネットの就職情報サイト」(33.1%)や「企業のホームページ」(28.1%)、「先輩」(27.1%)が多くあげられており、また就活の進め方としては「自由応募のみ」(31.7%)、「自由応募と推薦の両方」(15.2%)が全体では多くを占める。しかし文系と医歯薬系の就活経験者(それぞれ34.9%と44.1%)を100とした9割程度(それぞれ91.7%と88.9%)が「自由応募のみ」であるのに対し、理系は就活経験者(55.9%)を100として「自由応募のみ」が54.7%、「自由応募と推薦の両方」が36.5%と専攻による違いも見られる。

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3.日常生活

大学入学前から読書に積極的傾向が見られ、文系は学部生との読書時間の差が顕著
ストレス減少の要因は進路への不安減少も大きいか

(1)悩みやストレス(図表8〜11)

  1. 悩みやストレスが「ある」は61.8%と07年以降過去最低値となった(07年81.5%・10年75.3%・13年68.7%・16年72.3%)。男性(57.6%)と比較して女性(73.7%)が高く、専攻別では理系56.9%、医歯薬系69.3%に対して文系が72.9%と高い。
  2. 悩み・ストレスの原因としては「研究活動」45.0%、「将来の進路」33.2%、「自分の性格や能力」27.6%と続く。
  3. ストレスが「ある」(全体の61.8%)に対して、リフレッシュの手段を「持っている」が41.9%を占めており、ストレス有対比では文系65.0%、医歯薬系65.9%に対し理系は69.4%と理系が高い傾向にある。
  4. 意識的に週1回の運動を「行っている」は44.2%であり、男性(48.7%)が女性(34.4%)より運動の機会は多い。運動の内容としては「筋力トレーニング」19.1%、「ランニング」11.7%、「競技系」11.2%の順に多い。
  5. 1週間の運動時間は1時間以上2時間未満が8.9%、2時間以上3時間未満が8.5%を占め、平均の運動時間は3時間18分(男性3時間21分・女性3時間5分)であった。

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(2)メディアの利用(図表12〜13)

  1. 政治や社会の情報を入手する際によく利用するメディアとしては「ニュースサイト・まとめサイト」が64.1%、「テレビ」が54.2%であり、「新聞」は23.7%であった。
  2. そのうち最も信頼がおけるメディアは「ニュースサイト・まとめサイト」26.7%、「テレビ」24.2%、「新聞」15.5%の順で、「ニュースサイト・まとめサイト」は学部生と比較して信頼度が高く、「テレビ」は利用、信頼度ともに低い傾向が見られる。そのほかに学部生より利用されているメディアには「本・雑誌」「Facebook」などがある。

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(3)英語学習と読書時間(図表14〜15)

  1. 大学院生が英語学習で重要視している能力は「スピーキング」が39.1%、「リーディング」が30.9%と続き、文系と理系では「スピーキング」がそれぞれ36.9%と38.9%、「リーディング」もそれぞれ33.9%と30.1%と意識の差は小さいが、医歯薬系の「スピーキング」は44.6%と重要視する意識が高い。
  2. 英語力向上のために日常的に行っていることが「ある」は26.0%で、文系(32.7%)医歯薬系(30.5%)が理系(23.1%)より高い結果となった。英語学習に費やす時間の平均は1週間に5.9時間。文系7.5時間、理系5.4時間、医歯薬系4.6時間であった。
  3. 1日の平均読書時間について、「0」分と答えた院生は修士課程で39.1%、博士課程は22.6%となった。専攻別では文系が11.7%、理系は43.3%、医歯薬系が41.3%。
  4. 理系院生の8割以上が1日に90分未満の読書時間であるのに対し、文系院生は5割程度、240分以上が9.6%に上る。研究の場面で文献を扱う文系院生に比べ実験など長時間拘束されがちな理系院生は、十分な読書時間を確保できていないことが考えられる。
  5. 読書時間の傾向は男女の差が小さく、専攻や研究室の状況によって読書時間が決まると思われる。
  6. 70.7%の院生留学生は、毎日30分以上を読書に充てており、留学生以外の院生(全専攻平均)では同じ時間を充てている割合が36.9%であるため、毎日読書をする留学生院生が多いことがわかる。
  7. また学部生と比較して院生の読書時間は長く、特に文系は1日の読書時間「0」分が学部生の43.8%に対し院生は11.7%と、読書傾向が大きく異なる。
  8. 大学院進学前の読書傾向も、高校時代に1日に「全く読まなかった」の割合が学部生の31.0%に対し院生は23.5%と低く、また院生が学部生であった時も「全く読まなかった」は25.5%と現在の学部生と比較して読書時間が確保されていた傾向が見られる。

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