CASE 4

中学校ではICT機器を使った授業は、
高校より多く展開されています!
苦手教科の克服には、教科書・教材の
多様化は必然的なものですね!

早稲田大学高等学院
武沢護先生吉田賢史先生
≪CIEC(コンピュータ利用教育学会)理事≫

高畑先生・宮井先生


 

 

聞き手:大学生協東京事業連合 森川佳則
 

──武沢先生、吉田先生、本日はありがとうございます。
今回早稲田の高校での授業についてなんですが、まず電子教科書を始めようと思ったきっかけを教えて下さい。

武沢:
私たち文科省のイースクールという情報化を推進する授業に応募しまして、それは二年間のプロジェクトだったんですがそれに採択されたと・・その中で特に高校の情報化の授業をどのように改善していくかを吉田さんを含めてスタッフと相談をして、電子教材の活用ともう一つはクラウドサービスを活用した授業を展開しようとそのような話になったのです。


──武沢先生と吉田先生の役割分担というのはどのようなものなんでしょうか。
吉田:
武沢先生の方は授業の方で電子テキストを実際に使って頂くという役割で、私の方は電子テキストのログを分析するというような役割を担っております。


──では、武沢先生中心にお話頂きたいのは実際に学生さんがICT機器を使っている様子、何か導入する際であるとか導入している授業中の際に困ったことや特徴的な様子など、授業の様子をお教え下さい。
武沢:
従来の高校の授業では紙媒体のテキストを使っているんですが、最近やっぱり子供達を見ていると、漫画とか、それからWEBなどをスマートフォンで閲覧している光景が非常に多く見られる。休み時間もスマートフォンを見ながらやっていると、そういうものが授業の中でも活用できないかなと思ったのが、一つですね。


──武沢先生は高校ですが、吉田先生は中学のご様子とかICT機器の活用とか高校と違うものでしたか。
吉田:
中学の方ではICT機器を使った授業というのは、高校よりは多く展開されているようには感じております。高校と同様、携帯を持ってきてはいけないとか、授業中に使用してはいけないとかのルールが特にないもので、担当者が使用していいかどうかを判断して自由に活用出来る環境が整っています。これは中学も高校も同じなんですけども、そういった意味で中学の授業ではスマートフォンを使って検索する場面もあれば、「Loilonote」というツールがあるんですが、そのツールを使った授業を展開されている先生もいらっしゃいます。


──では中学も高校も、早稲田に関しては、ICT機器を持ちこんで授業を受けるというのは当たり前になっているというふうに考えてよろしいでしょうか。
武沢:
そうですね。パソコン室が3つしかないんですが、例えば普段の授業で、何か検索をさせたいという時には、まだまだコンピュータを個人的に持っている生徒は少ないんですが、「スマートフォンでちょっと検索してみなさい」というようなのは授業ではよく行われています。
各教室基本的にWi-Fiが整備されていますので利用出来るという、環境にはあります。


──今回、大学生協のシステムを導入したとしても学生さんが特に違和感が無かったということですかね。
武沢:
個人的な感想で言うと、好きだっていう子と、いやまだ紙だという子に分かれる傾向に感じますが。

吉田:
中学はまだ電子教科書は未導入なんですが、教科書を見る子は多分どういう状況でも見ると思うんですよね、見ない子、見るのが苦手な子というのは電子教科書によって見る機会が出来て来るのではないかなと思います。


──まったく私も同感です。
今まで、紙の教科書を開けるのが苦痛だった子が電子ならば目先が変るというのは他の大学でも出てきています。一方その興味を持続させられるかどうかということについては、教員の非常に強いテーマだと思います。
他の先生でもいろいろ授業の最中に機能を使い変えてみたり、開けさせる工夫にクリッカーを使ってみたり、いろいろな努力をされています。
そのあたりをしながら、学生の興味を持続して今まで紙の勉強が嫌いな人が、目先が変って持続するようになるとよいなと、私は思っていますがいかかですか?

武沢:
そうですね。 とにかく選択肢が増えるのは非常にいいことで、例えば授業中を見ていると、パソコンルームで授業をしている時には、スマートフォンにあるテキストを机の脇に置いてパソコンの画面で検索しながらやると、紙だとこう仕草(ページをめくる)に無駄があるんですが、非常に彼らは上手に使っている風景はよく見ますね。


──大学も、もうすぐそういう世界がくるということでしょうね。まだまだ大学の先生の中には使い慣れていないんじゃないかとか、まだまだ(先のことだ)と考えておられる方もいるようですが、もう数年後には、そういう子たちが大学に上がってくるということなんですね。
武沢:
アンケートをとったんですが、例えば通学の途中に閲覧出来るとか、高校生ってたくさん教科書を持ってやって来るわけですが、自分達の持ち物が軽量化出来るというのも実感していると思いますね。


──アンケートはおおむね電子化については良好だと思っていいですか?
武沢:
まあ、おおむね良好ですね。


──では、吉田先生にお伺いします。今回、武沢先生のログを見ていて何か特徴的な中身であるとか、ご自分の研究にフィットすることはございましたでしょうか。
吉田:
非常に特徴的なところとして、紙のページでもあるんですが、目的のページをイメージでおさえている子が、さっと開いて「このページ違う」とかいって(思って)見たりもどったりしますよね、そういう特徴が電子テキストでも見受けられところがあり、それが「読む」一つの特徴なのかなと思います。
また、紙のテキストと違って、電子テキストの場合は検索語で目的のページにすぐに移れるんですよね。その用語が書かれているページをどんどん見ていくことが出来るので、紙にはない素早い目的達成が期待出来る。順番通りに進めたい学習スタイルの人もいれば、素早く目的を達成したいという学習スタイルの子もいるので、そういった(後者の)子たちにとっては、紙媒体よりかは、電子テキストの方が向いているのではないかと感じています。


──電子デバイスに向いている学生さんと向かない学生さんがいるという風に考えたほうがいいのですか?
吉田:
おそらく紙媒体で教科書を見る学生は、電子テキストでも同じように見ていくのではないかと思っています。それは、実際にログをもう少し分析していかないとわからないかなと思っています。


──特徴的な学生さんがおふたりいたと先ほどお話を伺いしたのですが是非そこもお話ししていただければと思います。
吉田:
ひとりの子は指示通りそのページを開いておそらく作業しているのか、ずーっとそのままページが動かない。作業が終わったら次のページに移る・・という形で一定期間ページが移らない時間があるのですが、もうひとりの生徒さんは、やたらページ移動が多いんですね。多分作業も言われてパッと見るのだろうけど、この後何をするんだろうということがすぐ気になって次のページを見てしまう。先をすごく見たい生徒なのかな・・という風なところをちょっと感じておりました。
で、私は授業を担当していないので武沢先生に尋ねた・・というところです。

武沢:
それは、クラスの担任にも確認してみたところ、吉田先生の言うとおりだと。まさにジャストフィットというか、ひとりの(前者の)生徒はきちんきちんとやるタイプで、もうひとりの後者の生徒は興味がいろんなところに分散するような雰囲気を持つ・・・まさにログで確認できたというのは非常に面白いので、一人一人の子(個)に応じた授業、指導ができれば非常に教育的にも有効ではないかと感じたわけです。


──特性が出てきたところに対して、それぞれに対して的確な教育法であるとか指導方法が出てくると、それぞれの人が伸びていくチャンスになろうかと思います。とても面白いチャレンジですよね。
武沢:
これが例えば、一人一人にフィードバックすることによって自分を振り返るというようなことができれば、非常に学習効果があがるという期待があります。


──データログを使った研究について、いろいろな方が世界的に始めたところですが見えることであるとか、そこからわかること・・是非今後も生協も一緒になって研究していきたい、お手伝いをしていきたいと思っています。 あと、ログを取られることについて学生さんたちの理解というのは逆に何か問題であるとか・・・
武沢:
特にあまり障害はないですよね。


──今後、生協であるとか生協の電子ビューアに期待することなど是非お聞かせください。
武沢:
今は、情報科だけがこの取り組みをしてるんですけども、先日生徒から他の教科の電子化はないの?
という風に尋ねられました。非常に便利で(ヘビーユーザーかもしれないんですが)、使い勝手がいいので是非他の教科も電子化をしてほしいという高校生からの要望があり非常に印象的でした。


──その作業是非お手伝いさせてください。
吉田:
スマホだとどうしても帯域が狭いので、ページ送りにタイムラグが出てきてしまうケースがあるということが数人から(意見が)ある。それは、通信速度が第5世代になれば解決されることかなと思うのでそんなに大きな問題ではないのですけれども、できるだけ軽い方が子供たちは使いやすいのかなというところです。非常に期待したいツールで、今後中学でも利用させていただけるとありがたいと考えています。


──今回は「実験」ということですが、これが『あたりまえ』の世界観を教員の皆様と生協でともに作れればよいのかなと今日のお話を通じて思いました。いかがでしょう。
武沢:
はい。我々もいろいろチャレンジしていきたいと考えていますので、是非、我々の取り組みをご協力いただいて、新しい教育の実現のために取り組んでいきたいと考えています。

吉田:
そうですね。国が定めた教育の方法というものだけではなく、やはり私学ですので新しい教育を作っていくという視点でいろいろチャレンジングなことを展開できたらなと思いますので是非ご協力いただけると助かります。


──今後ともよろしくお願いいたします。  

 
武沢 護(たけざわ まもる)
IT教育研究所 研究員 2005年-2010年
メディアネットワークセンター 兼任研究員 2010年-2012年
-1978年 早稲田大学 理工学部 数学科
-1980年 早稲田大学 理工学研究科 数学専攻
(所属学協会)CIEC(コンピュータ利用教育学会) 理事 /早稲田大学数学教育学会 副会長
(研究分野)微分トポロジー、情報数理、科研費分類、数物系科学 / 数学 / 幾何学
情報学 / 情報基礎学 / 情報基礎理論
 
吉田 賢史(よしだ けんじ)
早稲田大学高等学院 教諭
博士(理学) 課程 甲南大学
甲南大学オープンリサーチセンター 客員特別研究員 2005年04月-2008年03月
-1991年 甲南大学 理学部 応用数学科
-1997年 甲南大学 自然科学研究科 情報・システム科学専攻
(所属学協会)コンピュータ利用教育学会 (CIEC) 事理、学習分析学会、
教育システム情報学会、日本教育工学会、日本数学教育学会、教育情報学会、
情報処理学会、電子通信情報学会、人工知能学会
(研究分野) 学習分析[数学教育、教育工学、情報教育]