Q1 大学生が実際に遭遇しやすい消費者トラブル事例を教えてください
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堀井長官
- 具体的にどのような相談が寄せられているか、いくつかご紹介します。まず、住まいに関するものでは、アパートの退去時に高額な違約金を要求されたり、もともと合意をしていない修理費を請求されたといった相談があります。
また、SNS広告に関する相談では、SNSの広告から副業サイトに誘導され、情報商材を購入してしまうケースです。情報商材とは、さまざまなノウハウや情報を商品として販売するものですが、購入後に電話で高額なサポート契約を勧誘されることがあります。お金がないので支払えないと伝えても、「借金をして払えばいい」と言われ、断りきれずに契約をしてしまった、という相談や、広告の内容と実際が違っていた、といった相談も見られます。
消費者庁では、若者の意識について調べたことがあります。どんなことに関心があるのか尋ねたところ、理美容や身だしなみに関心が多く、そこにお金をかけているという回答が目立ちました。実際、消費生活相談の内容を見ても、脱毛エステや美容医療などの医療サービスに関する相談が上位に見られます。
具体例としては、SNS広告を見て無料相談に行ったところ、「絶対にお得」などと言われ強く契約を勧められ、断りきれず契約してしまった、というものがあります。また、契約していた脱毛サロンが破産してしまい、施術の回数が残っているのにどうすればいいか分からない、といった相談も寄せられています。最近では、男性がヒゲ脱毛などに通う中でトラブルに遭うケースも増えています。性別に関わらず、身近な分野でのトラブルが増えていると感じています。
これらの事例に共通しているのが、SNSの利用がきっかけになっているという点です。実際、消費生活相談件数では、若者のSNS関連のものが増加傾向にあります。使いこなせる世代だということもいえるかもしれませんが、身近になっている反面、自然に使っていることで警戒していない方が一定数いるのではないかと思います。
まずは、自分と同世代の人や、自分と似た生活スタイルの人がどのようなトラブルに遭っているのかを知ることが、とても大事だと思います。日常生活を安心して送るために、良い情報を得ることも大切ですが、どのようなトラブルが起きやすいのかを知っておくことで、適度な警戒心を持ちながら自分で気づくことで、未然に防ぐことにもつながります。
トラブルで実際に契約などする前に「あれ、ちょっとおかしいな」という違和感に早めに気づくことも重要です。契約する前の違和感が、トラブルの防止につながることも多いと思います。
消費者庁や国民生活センターでは、皆さんが利用しやすい形で情報発信を行っていますので、ぜひ日頃から関心を持っていただければありがたいと考えています。
Q2 消費者トラブルに巻き込まれそうなときに取るべき行動はなんでしょうか
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堀井長官
- まず、相手が特定できるかどうか、そして特定できた相手が信頼できるかどうかをしっかり確認することが大切です。そのうえで、次に重要なのは契約条件の確認です。具体的には、サービスや商品の内容、支払い方法や金額、そして継続的なサービスであれば解約条件の確認が非常に重要になります。こうした契約条件をきちんと見ることがとても大事だと思います。
特に皆さんはネットで買い物をする機会が多いと思いますが、ネットショッピングでは画面上の表示が消費者にとって唯一の情報源になります。そこでは、事業者が販売価格、送料、支払い方法、契約解除に関する事項、さらには氏名、住所、電話番号などを表示することが法令で義務づけられています。こうした義務を守っていない事業者とは契約しない、というくらいの判断が必要だと思います。
さらに、その契約が自分にとって本当に重要か、必要なものなのかを、さまざまな情報から考えてほしいと思います。ぱっと見て「良さそうだ」と思ってすぐ契約することもあるかもしれませんが、重要な契約ほど、関連情報を自分で調べ、比較することが本当に大切です。
例えば、美容や医療のサービスなど、若い方でも関心が高い分野があります。そうしたサービスなら、使用する薬剤がどんなものなのか、自分でも調べ、納得できるように理解することが必要です。
また、投資についても同様です。投資の勉強をして知識をつけることは大事ですが、一方で、儲け話のような勧誘を受けたとき、言われたことをそのままうのみにせず、取引内容やリスクの説明を聞き、自分なりに理解をし、納得できないときは契約をしない、という判断も大切です。
いろいろなケースがありますが、「今決めないと損ですよ」といった急かし方をされることもあります。そういう時に少しでも「おかしいな」と感じたら、一旦時間を置き、冷静になることが重要です。まずきっぱり断って、その場を離れて物理的に距離を取る。その上で、「あれはどうだったのかな」と改めて考える。こうした行動はとても効果的です。
また、具体的な行動として非常に大事なのが、身近な人に相談することです。一人で決めないで、家族や友人などに相談してみてください。特に若い方は親に相談することが多く、親が重要な情報源になっているという話もよく聞きます。ただ、親や家族には相談しにくい場合もあると思います。そうした時は、消費者ホットライン「188(イヤヤ)」につながる消費生活センターなど、公的機関をぜひ活用してほしいです。どんなことでも相談しやすく、これはどこに相談したら良いのかなども教えてくれる窓口なので、気軽に利用していただけると思います。
成年年齢が18歳に引き下げられ、大人として扱われるようになりましたが、だからといってすべてを一人で判断し対処しなければいけないわけではありません。周囲に相談し、さまざまな方法を早いうちから身に着け、冷静に判断できるようになることもとても大事だと思います。
そして、気をつけていても不幸にしてトラブルに遭ってしまうこともあります。そのときは、被害を最小限に抑えるために何ができるかを考えてください。「仕方なかった」「自分の勉強代だ」と諦めてしまうのではなく、動くことが大事だと思います。
Q3 インターネット上の偽サイトやSNSでの偽情報への対処法を教えてください
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堀井長官
- まず、購入手続きをする前に、そのサイトのドメイン名などから、本当に公式サイトなのかどうか、URLを確認することがとても重要です。
また、関係法令では事業者に表示が義務づけられている項目があります。例えば、連絡先として電話番号やメールアドレスがきちんと表示されているかどうか。さらに、商品の価格が極端に安すぎないかという点も重要です。「何割引きでとても安い」など、思わず飛びつきたくなるような場合でも、逆に安すぎるときは疑った方がよいでしょう。
支払い方法が一部に限定されていないかどうか、また海外の偽サイトの場合は日本語が不自然なことがある、という指摘もあります。
SNSでの偽情報については、消費者が誤った判断をしてしまうケースとして、よく挙げられるものがあります。例えば、投資や副業などの儲け話で、著名人になりすましたアカウントが登場し、「この人はテレビにも出ている有名な人だから信用できる」と思い込んでしまう、という例です。しかし、実際にはご本人ではなく、なりすましだったというケースもあります。
また、最近は「個人の口コミのように見えて、実際には事業者が依頼している」というケースも指摘されています。インフルエンサーや有名人が紹介しているようでも、必ずしも本来の口コミとは限らない、ということです。
SNSなどで勧誘が来たときには、まず一呼吸おいてみる、少し疑ってみる、立ち止まって考えてみる。そうした意識づけだけでも、かなり違ってくると思います。
さらに、広告などで効果がわかりにくい商品・サービスについて、「一般には難しいとされることが簡単にできます」といった謳い文句で宣伝されているものもあります。口コミだけを見て判断するのは危険な場合があるので、口コミの書き方や内容がどうなっているか、その商品・サービスの実態と合っているのか、よく考えてみることが大切です。
また、「こんなに変わった!」というような臨場感のある画像が添付されている場合でも、それが生成AIによるものだったり、どこか別の場所から勝手に盗用されたものだったり、全く関係のない画像が使われている場合もあります。そうした点にも注意して、自分にとって大事なものであればあるほど、一つ一つ確認しながらチェックすることが大切です。
そして、「あれ、何かおかしいな」という違和感を覚えたり、説明の内容に不信感があったり、気になる点がある場合には、消費者ホットライン「188(イヤヤ)」に相談してみることが大事だと思います。
Q4 大学生へのメッセージをお願いします(消費者として意識すべきことや、大学生への期待など)
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堀井長官
- 大学生の皆さんへのメッセージということですが、大学進学を機に一人暮らしを始めたり、新しい環境で生活をスタートさせたりと、まさに大きな転機を迎える時期だと思います。これまで慣れ親しんだ地域を離れ、まだ知り合いも多くない状況の中で、新しい生活を送っていく方も多いでしょう。
そして、18歳から成年になりますので、成年になるということは、新たな責任を伴っていく年代でもあります。
こうした環境の変化に伴って、トラブルに遭う可能性も高まります。例えば、住宅の賃貸契約や引っ越しに関するトラブル、新生活に必要なものが増える中で起きる訪問販売によるトラブルや、儲け話に関するトラブル、通信契約に関するトラブルも起こり得ます。
ですので、身近でこうしたことが起こりうるという意識を持つことが大事です。一方で、トラブルを必要以上に恐れて何もできなくなってしまうのは、もったいないことですし、本末転倒でもあります。
大切なのは、押さえるべきポイントをしっかり押さえることです。具体的には、まず「契約内容をよく確認する」こと。怪しいと感じたり、少しでも違和感があれば、はっきりと断ることも重要です。
さらに、「少しでも困ったな」と思ったら、すぐに相談することです。消費者ホットライン「188(イヤヤ)」に相談することもできますし、身近な人に相談するのもよいと思います。早めに相談する習慣をつけておくことがとても大切です。契約前に相談することが特に重要になります。
この「188(イヤヤ)」はナビダイヤルになっていて、お住まいの地域の郵便番号を入力すると、最寄りの消費生活相談窓口につながります。消費生活相談の“最初の一歩”を後押しする仕組みですので、ぜひ覚えておいて、困ったことがあれば「まずは188(イヤヤ)」と思い出していただけるとありがたいです。
また、若い方々、大学生の皆さんにお伝えしたいのは、「消費者でない人は一人もいない」ということです。物を買ったり、サービスを利用したりする以上、生きている限り誰もが消費者で、例外はありません。
そして、消費行動は生まれてから亡くなるまで続くものです。つまり、「良き消費者であるための行動の仕方」を身につけることは、一生役に立つ力になるということです。これは“一生ものの知識”とも言えます。なるべく早い段階で身につけておくことがとても重要だと思います。
家族など周囲の人がいろいろやってくれる間は、あまり意識しないかもしれませんが、大学進学や就職など、環境が変わるタイミングは、自分でそうした行動を身につける絶好のチャンスです。
さらに、消費行動は毎日の積み重ねであり、非常に大きな影響力があります。
日々の選択が、現在の生活だけでなく、未来の社会や環境を変える力にもなります。今、気候変動の問題などとも関係して、「どう行動するか」が大きなテーマになっています。より良い社会のために、身近なところから行動することを、ぜひ「自分ごと」として捉え、日々の実践につなげていただければと思います。若い世代の皆さんには、こうしたアクションも大いに期待しています。
例えば、エシカル消費やサステナブルファッション、食品ロスの削減など、身近でよく耳にするテーマが増えていると思います。こうしたことを行動に移していただけるとありがたいですし、それを発信したり共有していただくこともとても意味があります。
学校教育の中でSDGsを学んだという方も多いと思いますが、環境教育や消費者教育、社会とのつながりについて学ぶ機会も増えています。身近な消費から社会課題を考えることは、非常に興味深く、おもしろい内容でもあります。ぜひ積極的に関心を持って取り組んでいただければと思います。消費者庁でもそのような情報を発信していますので、心配りいただければと思います。