財団について

理事長挨拶

一般財団法人全国大学生協連奨学財団
代表理事 武川 正吾

greeting
一般財団法人全国大学生協連奨学財団
代表理事 武川 正吾

長年、大学教員生活をしていると心を痛める瞬間が毎年あります。それは教授会の席で学生の休学・退学など身分変更に関する決定を行うときです。退学の場合、本人の勉学意欲の喪失による場合もありますが、大半は、本人またはその周囲でおきた不幸によってもたらされたものです。2008年のリーマンショックのときは保護者・扶養者の失職によって退学を余儀なくされた学生がいました。2011年の東日本大震災のときは実家の被災によって退学を余儀なくされた学生がいたと記憶します。

私の学生時代は日本育英会(現在の日本学生支援機構:JASSO)など公的な奨学金も安かったのですが、学費も安かったので、アルバイトをすれば学費や生活費をなんとか稼ぎ出すことができました。現にそういう下宿生が入学当初のクラスにいました。当時の育英会の奨学金は貸与型でしたが、無利子であって返還免除の制度も充実しており、また、返還免除の適用を受けなくても、現在のように奨学金による多額の借金に苦しむというほどの返済額ではなかったのです。

ところがその後、国公立・私立ともに学費の値上がりが続き、また公的な奨学金にも利子の付くものが導入されました。その結果、現在の大学生は家計支持者の扶養家族に入らないと、学費や生活費を負担することが困難になっています。かつてのような苦学生の存在すら許されないと言えそうです。このため大学生が扶養者を亡くすということは、精神的なつらさは昔も今も変わりませんが、学業を続けるうえでの経済的なつらさは昔よりも今の方が大きいと言えそうです。

そうしたなか全国大学生協連による給付型の「勉学支援制度」が1992年にスタートしました。当初の財源は学生総合共済の剰余金の運用益によってまかなわれました。学生総合共済そのものが、たすけあいの精神によって成り立っていますから、この制度は学業継続のための協同のあらわれでした。その後、全国の大学生協組合員の寄付や各生協からの賛助会費を財源に加えて、たすけあいの度合はさらに大きくなりました。そして全国大学生協連創立60周年記念事業として全国大学生協奨学財団が設立され、旧制度は現在の「たすけあい奨学制度」に発展解消しました。

たすけあい奨学制度による給付額は10万円と少額です。扶養者が亡くなったことによる経済的な困難をすべて解決するものではありません。しかし山椒は小粒でもぴりりと辛いと言います。たすけあい奨学制度が学業継続のための第一のステップになることは間違いありません。そしてなによりも、顔も知らず会ったこともない遠くにいる友人からの支援が、身近な大切な人を亡くしたときの喪失感を減じる役割を果たしているということが重要です。受給者、寄付者、卒業生から寄せられた「たすけあいメッセージ」のなかから、そのことを汲み取れます。

※24年から12万円に引き上げられました。