大学生協でつながる

2024年05月01日(水) | 《特別TOPICS》 

来日した留学生が快適な日常を送れるように。
-アグレッシブでアクティブな活動を支える多重の視点-

京都大学生協留学生委員会は、同大学の留学生を支援する目的で1996年に設立されました。これは日本で初めての試みで、他の大学生協の留学生委員会の規範にもなっています。
編集部では同委員会に所属する留学生と日本人学生に取材し、活動の実際をお聞きしました。

 


左:松島光佑さん(法学部2年)
中:田中紘太郎さん(農学部3年)
右:Dom Roonguangドム・ルンルアンさん(大学院アジア・アフリカ地域研究研究科1年)

京都大学生協留学生委員会Facebookより

 

入部の理由

京都大学生協留学生委員会は、基本的に英語で活動します。
「大学1年生の夏休みに留学を経験し、英語に対する強い意欲を持ちました」と松島光佑さん(法学部2年)。海外の人と関わり英語のレベルアップを目指したいと、帰国後に留学生委員会に入りました。

 

田中紘太郎さん(農学部3年)も入学時から留学関係に興味があり、英語を話す機会を得たいと入部しました。英語が流暢なメンバーが多いので、切磋琢磨するかたちで1年間自身の英語力を磨いてきたと言います。

 

タイからの留学生、ドム・ルンルアンさん(大学院アジア・アフリカ地域研究科1年)は、2023年の春学期に京都大学に入学しました。部活かサークルを希望していましたが、当時はまだ日本語に自信がなく、英語で話せる部活を探していたところに留学生委員会を知り、その活動に興味を持ちました。入部後は日本語の上達が目覚ましく、「英語よりもドムの日本語に頼ってしまう場面もあります(笑)」(田中さん)とのことです。

 

活動の根幹にあるホスピタリティの精神

約30人を擁する留学生委員会は、主にチームに分かれて活動しています。
松島さんら3人は、オフィシャルチームに所属し、新入留学生が住民手続きをする際に通訳としてサポートするなど、京都大学と左京区役所のお手伝いをしました。
新学期はキャンパスツアーを実施し、学内だけでなく近くのスーパーや100円ショップなど生活に便利な場所を紹介して、留学生に喜ばれています。

 

 

一方、ソーシャルメディアの活動を担うのがPRチームです。現在アルバイト情報の発信に力を入れています。留学生が日本でアルバイトを始めるには、最低賃金・労働時間など労働条件に関する法的な権利を理解しておくことが重要です。ドムさんは、実際にアルバイトをしている留学生を招いてその経験をシェアしたいと考えました。
元々ジョブハンティングという留学生向けの就職支援が先行して行われており、そこからアルバイト支援を思いついたのが企画に結びついたのです。

 

彼らの活動の根幹には、来日した留学生が京都での生活で困ることがないようにというホスピタリティの精神があります。生活の細々したことを教えてあげたり通訳を担ったり、留学生と日本人学生が交流できるように心を砕いたり。「京都大学を訪れる留学生の多くは、日本語をまだ勉強し始めていません。私たちは何か手伝ってあげられることがあれば、という考えでイベントを行っています」(ドムさん)。
オフィシャルチームはこの他にも、ウェルカムイベント、各国の料理紹介、クリスマスパーティー、スポーツイベントなど、留学生の生活支援や日本人学生との交流を促進する催しを実施しています。

 

大学との連携

新入留学生が行う区役所での各種手続きについては、留学生委員会でもサポートを検討していたところ、区役所から大学にも、数十名ずつまとまって手続きを行う形の提案があったことから、大学に協力する形で、区役所への留学生の引率、会場での各種書類作成のサポート等を行うこととなりました。
「私たちにしてみればこれが必要だと考えてきたことです」と國見伸行専務理事。留学生委員会の活動が認められたからこその協力要請であったと振り返ります。 

 


國見専務理事

担当吉岡さん

 

これは留学生にとって非常にいいイベントといえます。来日したばかりで日本語もままならない、どの窓口に行ったらいいのかも分からないという留学生にとっては、手続きだけで一日仕事になってしまうからです。
例えば、携帯電話の登録や銀行口座を作るには住民票の写しが必要な場合があります、それぞれに要求される書類が違うので、どの書類を揃えるのかは、日本人であってもよく分からないことがあります。
 


左京区役所での手続きの様子

京都大学留学生支援課の西村さん


「区役所の方が京都大学の留学生のために会場を用意してくださり、留学生に一斉に説明していただいたおかげで全員スムーズに申請を出し、1回でOKが出ました。職員の方も一括で処理できたのですごく楽だったと思います」(松島さん)。
 

アシストをするドムさん・田中さん・松島さん

 

将来につなげて

大学の留学生支援課の方によると、「日本人ともっと交流したい」と感じている留学生も多くいるそうです。
将来は海外で仕事をして英語に関わりたいと言う松島さん。「この活動を通して、留学生が異国で暮らすには、言葉の壁や生活様式の違いなど、困り事が多いと知りました。入学時だけでなく、今後も彼らが不安を感じることなく暮らせるよう、アットホームな雰囲気で活動していきたいと思います」。

 

農学部森林科学科で学ぶ田中さんは、環境問題は日本だけでなく世界全体で取り組まねばならない課題だと考えています。「僕の中には環境問題に携わりたいという気持ちが3割、そのために国際社会で働きたいという思いが7割あります。京都大学には各国からの留学生が集まるので世界の縮図のようですし、海外で働くスキルを鍛えるために頑張りたいと思います」。

 

ドムさんは日本に住み、観光と居住は違うと改めて感じました。「私の出身大学でも留学生と地元の学生には距離があり、交流できる活動があればと思っていました。大学の教師になるのが目標ですが、大学も教育の場としてグローバル社会を意識して、もっとつながり合うことの大切さに気付けばと思います」。

 

国によって価値観や考え方は違いますが、そこで起こる葛藤を乗り越えて新しく来る留学生のために何かをするのは、新入生のためだけでなく自身のためにもなるはずです。國見専務は彼らによる相乗効果で、これまでにない発想がどんどん生まれてきていると言います。「アグレッシブでアクティブな留学生委員会で、留学生が日本人学生と楽しんで活動している。そういう場を提供できるのが大学生協の価値の一つです」。
日本人学生の視点だけでなく、留学生という視点からも問題の本質を見る。京都大学生協留学生委員会の活動を支える豊かな発想力は、そうした多重の視点から生まれてきたと言えます。

 

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