大学生協でつながる

2024年05月01日(水) | 《特別TOPICS》 

早稲田大学生協寄附講座「食と農の再考」
-持続可能社会への転換のために-

春学期全13回(2単位、毎週土曜日3限目、早稲田大学8号館411教室)の授業が4月13日(土)より早稲田大学生協寄附講座「食と農の再考」として開講されました。

 


楜澤先生

第1回の講義では早稲田大学法学学術院・楜澤能生教授(早稲田大学生協理事長)より「私たちの日常的な食生活の在り方が、いかに地球に負担をかけてきたか、また現在の食の生産、流通、消費のあり方を、地域、地球および未来の視点からいかに再構築すべきかを考えるうえで必要な視野の広い基礎知識・思考力・素養を身につけ、習得した知識や思想を、社会活動・生協活動にどのように生かせるかを考えていきましょう。」との講義全体の目的についての説明があり、その後、社会科学のキー概念を解説しながら「本講義ではいかなる立場で食と農について考えていくか」の提起がありました。 

 


第2回授業のようす

授業登録者は新1年生が大半です。その受講者から「留学して日本の食文化の良さに気付き、食のクオリティーが低い海外で、自分の一番大事にしている『毎日3食』の食事を摂ることが億劫になってしまいました。どうしたら自身のライフスタイルが良くなるかな?と考えた時に、『あ~。食と農だ!』って気づかされ、この授業を受けるきっかけとなりました!」と動機を発言。受講されています早大生一人一人の反応や言葉から「大学生協の食事業」を見直すきっかけとなるのではと気づかされています。

 


第2回授業のようす

授業の概要は下記となり、登壇する講師陣は早稲田大学の先生以外の約10名は外部から招いての講義が繰り広げられます。

 


第2回講師 植木美希先生 (日本獣医生命科学大学 応用生命科学部動物科学科食料自然共生経済学教室 教授)

 

13回の講義終了後、
7月末にエクスカーション「農業生産の現場を訪ねる」を実施します。


茨城県石岡市旧八郷村を訪問し、有機農業運動と生協運動の関係の歴史につき、講師からレクチャーを受け、農産物流通の新しい展開について議論します。
また恋瀬地区の山田農園を訪問します。日本農業新聞の写真記者であった山田晃太郎氏は、記者をやめ若き新規就農者として配偶者と一緒に自然農法を始めますが、苦しい日々を乗り越え、地域の仲間にも支えられながらこれを軌道に乗せ、地域における自然農業の中心的存在として活躍しています。
その生産現場を訪問し、13回の座学で学んだ知識や考え方を、山田夫妻にぶつけ、持続可能な農業生産の現状、問題、展望について議論します。

参考文献:山田晃太郎・山田麻衣子・中島紀一『やまだ農園の里山農業-懐かしい未来を求めて』2023年、筑波書房

 

受講者の感想

  • 人間科学部1年
    自分自身が生活している中で知らない問題や考えないことをたくさん教えていただける事が大変勉強になっています。授業ででてくる事柄を調べてみて、将来の環境などに深く影響している事が理解でき、受講してよかったなと思っています。
  • 政治経済学部1年
    もともと農業や一次産業に興味はあり、この授業開講を知り面白そうだなって思って受講しています。実践を用いて自分に直結する話をしてくださるので、問題が自分にも繋がっているという実感は結構あります。また自分がいつも消費しているものにも関わってくると思っています。実際の農家体験もとても楽しみです。
  • 教育学部1年
    授業で「多くの情報や問題について知る」ことだけに留まらず、最後に農場へ行くことができ、農業の場では実践されていることを知ることができる。 自分で見て、学んだことを実際現場ではどうなっているのかというのを知ることができる。このことはとても良い勉強になるなと思い、受講を決めました。農業の現場の問題を消費者がしっかり理解して、消費者からの問題解決は困難だとわかっていますが、それが一番の解決策となり消費者視点が重要ではないとかと思っています。
 

授業概要

  • カーボンニュートラル実現の課題は、カーボンの排出・吸収に関する科学技術開発や、グリーン・ニューディール政策の展開といった取り組みだけでは達成され得ない。気候危機を回避するにはこれと並んで、従来の私たちの日常生活や消費様式を見直し、それを根本的に転換することが求められる。
  • 「好きなものを、好きな時に、好きなだけ」という消費者の欲求が、如何に圃場や動植物に負荷をかけ、BSEや鳥インフルエンザを生み、地力を収奪して来たことか。飽食、食品残さという食の現状が、国内のみならずグローバルサウスの地域社会と環境に甚大な影響を与え、社会的格差をもたらしているメカニズムを認識・理解し、「健康的で持続可能な食生活」へ転換することが、健康の増進のみならず特に地球環境への負荷を軽減し、カーボンニュートラルを達成するのに不可避の条件であるという視角から、私たちの食生活を反省し、あるべき農業生産、食品流通の在り方について考えることを狙いとする。
  • 気候危機をはじめあらゆる環境問題の根源を、人間と自然との関係=「物質代謝」の攪乱のうちに見る視点を提起し、物質代謝の攪乱をもたらしているのが、剰余価値の生産を自己目的とする生産様式であり、それを支えているのが、私たち消費者の日常的な生活様式に他ならないことを認識する。物質代謝の攪乱を正常に戻すためには何が必要か、この課題を日本における食生活と、国内外の食料をめぐる幅広い問題とのつながりにおいて明らかにする。食料・環境問題に関する研究や事例を紹介し、世界や未来にとって望ましい食の生産、流通、消費と環境のあり方について考える。

 

登壇講師陣

第1回 楜澤能生 「総論 持続可能社会における「食と農」」

鍵概念となる、気候危機、持続可能社会、物質代謝、フードシステム、協同組合等々について解説し、本授業の背景、狙いについて説明する。

 

第2回 植木美希 「持続可能な畜産:工業型畜産からアニマルウェルフェアへ」

畜産においても工業型大規模経営が目指されてきたが、今日その見直しが始まり、マイペース酪農等が提案されている。一方、すでにEUでは2012年に狭いケージでの採卵鶏の飼育が禁止された。このような最新のアニマルウェルフェアの取組にも学び、肉食についても考える

 

第3回 小池絢子 「身近な食から考える世界とのつながり」

私たちが食べているカップラーメンの材料はどこから来るか?加工食品の多くに使用されているパーム油の裏側で起きている事実(森林生態系の大規模な消失、火災と気候変動への影響、地元住民の権利侵害、労働問題、農薬汚染等々)を知る。

 

第4回 金子信博 「ミミズの農業改革」

日本の農業では依然として耕うんして,雑草を排除して 1 種類の作物を栽培することが常識となっている。しかし,世界はすでに耕さず(不耕起),地面を裸にしない,そして作物の種類を増やすことで土壌を豊かにする方向に大きく舵を切っている。この大きな改革の持つ意味をミミズの視点から解きほぐし,真に持続可能な農地管理を解説する。

 

第5回 下川 哲 「「食べる」から考える未来社会」

「健康的で持続可能な食生活」の実現にとって必要なことは何か?EAT ランセット委員会が提案する食生活を事例として考える。

 

第6回 玉真之介 「持続可能な農業―家族農業」

今日農業政策は経営規模の拡大を志向し、工業的な仕方で農業生産を展開することによって生産性を向上させようとする。これは持続可能な農業の観点からどう評価できるのだろうか。伝統的な家族農業との比較で考える。

 

第7回 鈴木宣弘 「世界の食料貿易体制と食の危機」

経済のグローバル化、貿易自由化の方向に進んできた世界はいま、気候変動や戦争で、食料安全保障という課題に直面している。特に食料や飼・肥料の自給率が低く、輸入に多くを依存している日本は、これらをいかに確保すべきかの課題に迫られている。こうした緊迫した状況が生じている原因を究明し、危機からの脱却を展望する。

 

第8回 木村-黒田純子 「農薬・化学肥料・食品添加物の規制と食品の安全性」

農薬や化学肥料、食品添加物が人体や地球環境に及ぼす影響についての科学的認識を深める。同時にこれらの物質の利用を規制する法制が抱える問題は何かについて考える。

 

第9回 図司直也 「農村社会の持続的維持管理」

農村人口が高齢化により減少し、農業集落が「消滅」する危機に瀕している。都市と農村との関係構築の在り方を含め、持続可能な農業が展開される場としての農村社会の活性化、再建はどのようにしたら可能かを考える。

 

第10回 久保田裕子 「農と食を結び直す」

生産者と消費者は分断されている。これをどう結び直すか。その試みの一つが「産消提携」やCSA(地域支援型農業)、産直の運動として展開されてきた。その歴史や海外の事例にも学び、両者の新たな関係構築について考える。

 

第11回 湯澤規子 「胃袋から社会をとらえる」

飽食の中、食品残渣が増え続ける一方で、食にありつけない人々もいる。フードバンク、子ども食堂の取組にも学びながら、持続可能社会を展望する上で、私たちの食生活の在り方を見つめ直す。また「食べること」と「出すこと(排泄)」の循環の在り方についても、持続可能社会の視点から考える。

 

第12回 増田和也 「大学生協が果たすべき役割」

剰余価値の生産を自己目的としない協同組合が、正常な物質代謝を前提とする持続可能社会における経済活動の主要な担い手となるであろう。この想定において大学生協は、大学での消費様式をいかに変革すべきか。組合員である受講者と共に考え、実践の手がかりを見出す。

 

第13回 蔦谷栄一 「農的暮らしとは何か―産業社会から持続可能社会への転換」

真の“豊かさ”を享受していくためには、経済的な富だけではなく、関係性・コミュニケーション、地域、そして自然・環境等を大事にした暮らしが不可欠である。GDP志向の工業的社会から生命優先の農的社会へ転換を、持続可能な社会像として提起する。

 

第14回 教場試験

 

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