テーマ:
「市民たちの社会とその言語的基礎―日本社会と日本語について考える」

講師:水林章先生(上智大学名誉教授)
コメンテーター:水林彪先生(早稲田大学名誉教授)
去る11月1日、フランス文学の水林章先生(上智大学名誉教授)を講師にお招きし、昨年出版された『日本語に生まれること、フランス語を生きること』(春秋社)をテキストに講演会が開催されました。テーマは「市民たちの社会とその言語的基礎―日本社会と日本語について考える」。今回の講演会は、早稲田大学法学部が主催し、早稲田大学生協および大学生協連東京ブロック教職員委員会(読書推進ワーキング)と学生委員会が共催のコラボレーション企画です。
会場には、早稲田大学法学部生のほか全国の大学生や教職員、一般市民にも参加を呼びかけ、早稲田キャンパス法学部会議室には約50名が、Zoomには44名が集まりました。
トピック
- なぜ『日本語に生まれること、フランス語を生きること』を書いたのか
- ルソーから学んだこと:近代国家・近代的個人の思想
- 日本を理解する:日本的社会の根本的構造
- 日本社会と日本語:日本語の根本的特徴について

水林章 先生
水林章先生は、18歳の時に森有正の文章に触れたことがきっかけでフランス語を学び始めます。そして、50年以上にわたりフランス語の教師としてキャリアを積み、18世紀フランス文学、特にルソーの研究に深く関わってきました。2011年1月に『他者から来た言語』(Une langue venue d'ailleurs)をフランスのガリマールから出版。同年3月11日の出版イベントに向けて渡仏した際に東日本大震災が発生し、それ以降の日本政治と日本社会の劣化を目の当たりにしたことをきっかけに、「日本を知るための読書」を始めました。
冒頭に示した今回のテキストは、日本を客観的に見るために日本語の外に出てフランス語で文章を書き続けてきた水林先生が、例外的に日本語で書いた著書です。講演ではこの本をベースに、日本を知るために体系的に行った読書や、丸山眞男や福沢諭吉、石母田正、加藤周一ほかさまざまな作品の読書を通じて浮かび上がってきた日本社会の歴史認識、普段使っている日本語とフランス語の言語の違い、日本社会とフランス社会の構造の比較などについて迫りました。

水林彪先生
この講演に続き、コメンテーターで兄の水林彪先生(早稲田大学名誉教授)が講演内容から気になるトピックについて、法学・歴史学の観点で解説してくださいました。
両名のお話を通じて、参加者は言葉や法、日本の社会構造などをあらためて考えるいい機会になったようです。
質疑応答では、著書や当日の講演内容について参加者から多種多様な質問が集まりました。言語と社会の変化、日本の近代化や天皇制の歴史的背景・教育の課題、言語と社会関係の相互規定性、日本語とフランス語の文章構造の違いなど、終了時間ギリギリまで活発な議論が繰り広げられ、2時間にわたる講演会は、熱気に包まれたまま終了しました。
PROFILE

水林章(みずばやし・あきら)
1951年生。東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学、パリ第7大学博士課程修了、明治大学、東京外国語大学、上智大学、早稲田大学法学部でフランス語・フランス文学を講じる。
『ロベール・仏和大辞典』(小学館、1988)の編集委員をつとめ、さらに1994年から2007年にかけて学術的書物を6冊刊行したあと、2011年よりフランス語での執筆活動にたずさわる。
現在までに、ガリマール書店から7冊、アルレア出版から1冊を上梓。アカデミー・フランセーズ仏語・仏文学大賞(2011年)、フランス書店大賞(2019年)等受賞、フランス・レジオンドヌール勲章シュヴァリエ受章(2017年)、『壊れた魂』(みすず書房、2021年)で第72回芸術選奨文部科学大臣賞受賞(2021年)。
今回のテキスト

水林章
『日本語に生まれること、フランス語を生きること』
春秋社
定価2,860円(税込)
ISBN 9784393333976