立命館生協設立50周年記念キャラクター「こーぷん」
背中のゼンマイは協力して回すことでみんなで一緒に進んでいくという意味が込められています
最近「2045年問題」という言葉を耳にすることが多くなりました。これは、近年AI、すなわち人工知能が著しい進化を遂げており、2045年には
※1シンギュラリティが起きるのではないかと言われていることを端的に表現しているものです。
将来的には避けられない人工知能との共存、そんな中、立命館生協では2024年10月のホームページリニューアル時より「AIこーぷん」が始動しています。
「AIこーぷん」とは何か? 疑問にお応えすべく、その始動までの軌跡をたどります。
※1シンギュラリティ・・・技術的特異点。現時点で予測されているスピードでAIが進化を続けた場合、人工知能の性能が人類の知能を上回ると見込まれる瞬間点のこと。
CONTENTS
【AIこーぷんの概要】
「AIこーぷん」は、立命館生協が先進的なAI技術を活用し、業務効率化と利用者サポートの質向上を目指して開発したチャットボットシステムです。背景には、急速に進化する人工知能と「2045年問題」に象徴される未来への不安があり、AIの可能性と課題に直面する中で、一職員の探求心からこの取り組みが始まりました。
主な特徴は以下のとおりです:
- 24時間対応のサポート:AIを活用することで、業務時間外でも利用者の問い合わせに迅速かつ一貫した回答を提供します。
- 標準化された情報提供:従来、各担当者により対応にばらつきがあった問い合わせ内容を、データベース化された情報を基に、誰が利用しても同じ質の高い回答が得られるように設計されています。
- 継続的な改善と連携:小松店長を中心とした職員の試行錯誤によって、実際の業務や新入生対応の現場でのフィードバックを取り入れ、より実践的なツールへと進化しています。
- 立命館生協の理念との融合:50周年記念キャラクター「こーぷん」に象徴される、協力と共に前進するという理念を体現し、利用者や学生が未来のAI社会に適応し、共に成長する環境作りを推進します。
この「AIこーぷん」は、立命館生協のホームページリニューアルと連動して実装され、今後のサービス向上と業務効率化に大きく寄与することが期待されています。
きっかけは仕事の悩み

立命館生活協同組合
学びと成長事業店
(旧 学びと成長事業チーム)
店長 小松 奨之佑
生成AIが研究者のみならず、一般の人に認知され始めたのは2023年に入ってからでしょうか。「AIこーぷん」生みの親、立命館生協の小松奨之佑店長は、2023年10月に古巣の学びと成長事業に異動になり、新学期の座長を任されました。
店舗の通常業務に加え、パソコン講座の組み立て、やるべきことの多さに疲弊する中で、8月にChatGPTを利用するアカウントを個人的に無料で作成していたことを思い出します。なにげない「仕事が辛いです」という問いかけに「お察しします」という優しい言葉。更には「ストレス発散の場も必要ですよ」、「朝日を浴びましょう」、「食事の習慣、睡眠の習慣をきちんとつけましょう」などの具体的な解決策も提案してくるChatGPTに心許した小松店長(笑)、大学では数学を専攻していたものの、元々プログラミング等に興味があったこともあり、もう少し自分に寄り添ってほしいという思いから、自分についての情報を出していくことになります。
理系ゆえにのめりこむ
どんどん回答の精度が上がるにつれ無料での利用に限界を感じ、課金をしてより良いモデルを利用することに決め、自分が作ったプログラム上で質問したら回答してくれる仕組みができたことに感動し夢中になります。ならばプログラムを作る段階からChatGPTにさせることができるのではないかと、指示を出すと対応してきたことで「これはすごいぞ」とさらにトキメキ度が上がりました。与える情報に対して適切な回答が得られる経緯を試行錯誤し、これを自分のツールとして利用して何か作ってみようと思ったのはその年の12月で、同時に、望んだものがつくれそうだという期待と、ソリューションの提案者を得たような感覚に驚きを感じたことから、思いつくまま何かを作ってみようというフェーズに入ります。
年末年始に帰省し、休みを利用してパソコンに向かい、作ってみたいことを実行するとエラー、修正を尋ねると修正方法を提案してくる、それを適用して上手くいくこともあれば、別のエラーが出てくることもある。トライアンドエラーを繰り返し、要は一人でベンダーとやり取りをしているようなことがパソコン一つでできることに感動しつつ、このペースでいけば何か作れそうだと思い始めた矢先の2024年、年始早々にコロナに罹患してしまいます。出鼻をくじかれた鬱憤を晴らすべく奮闘した小松店長、1月中旬にあらかじめ指定の様式で保存したテキストに基づいてChatGPTが回答するというプログラムを完成させました。これが今の「AIこーぷん」のはしりとなります。
一筋縄ではいかない
次の段階では何をしようか、どうせやるなら業務に役立つものがいいと考え、データ化した就業規則に基づいて回答してくれるような仕組みを作ってみようと考えた小松店長は、ここで初めて上長へ自身の行動を打ち明けます。ChatGPTを使い、作れそうな仕組みを説明した上で、もう少し作業を継承するために就業規則のデータが欲しいという相談でした。了承を得て、3月から変更予定のひな型のデータを手に入れ、次の段階へと奮闘します。
データをChatGPTで使える形式に変換した上でやり取りを開始してみると、上手く回答する時もあれば、回答しない時もある。OpenAIに回答してほしい質問と回答をセットで情報としてリクエストするわけですが、一度に送れる情報量に限りがあるため、その上限を下回るデータしか一緒に送れないわけです。プログラム上で送ったデータを参考情報として、状況にあった文章を引っ張ってくる必要がありますが、例えば親族の呼称である「父」「お父さん」等で入力が違えば、回答が一致しなかったりするわけです。適切にプログラムを組まないと上手くいかないのだということも経験で感じ取れるようになり、その検証作業に半月から一カ月はかかりました。
業務外での作業に限界を感じる
2月に入った頃には、結構な精度できちんと回答する段階までたどり着きました。この段階で小松店長が感じたのは、ChatGPTが事前に学習するデータには、社会的な認知度に関わらず、きちんとした情報を入れさえすれば精度は上がるということ。今回のように就業規則を学習させれば、労務関係の仕事をする職員に雇用関係の質問が集中することなく、24時間きちんと回答するのではないかということでした。
しかし適用前とはいえ、預かったひな型のデータを流出の危機に晒すわけにもいかず、インプット作業は昼休みのスキマ時間を利用してバージョン管理のシステムにアップ、それを自宅で修正して、行き詰った時にはChatGPTに問いかけてみる。まさにChatGPTとの濃密な試行錯誤を繰り返すうちに、このことが仕事として成立するのであれば、業務時間内に作業したいと感じ始めます。そこで思い切って、こういうものが作れるのではないかという目途が立ったこと、これを使って活用する流れになるのならば、業務時間内の作業を行いたい旨、お願いをして了承を得ました。
生協の業務としての関連性を見出す
2024年3月に入り、来店での新入生の対応、オンラインでの説明会など新学期業務も佳境を迎え、新入生や保護者からの問い合わせも例年通り殺到します。生協加入はいつまでなのか、パソコン購入の必要性はあるのか、似たような質問が、しかも何度も繰り返されます。ふと、これはチャットで解消できるのではないかと思いつきました。本部に教材系の問い合わせがあったり、パソコンについては担当以外ではきちんと返答できなかったり、対応する人や場所によってバラつきのある対応をAIによって標準化できるのではないかと考えたのです。
そんな時、十数年前に作成したままの立命館生協のホームページをリニューアルする話が持ち上がり、そこにタイミングが合えば、このAIが質問に対して回答する仕組みが載るといいなという、いわば渡りに船な状態になり、広報のリニューアルプロジェクト発足の運びとなります。
その流れと並行して、ホームページにAIのチャットボットをのせるにあたっての費用面の調べを進めていきます。重要なのは、小松店長が膨大な自分の時間を割いて作ったものを業務時間内に進めることを了承してもらえたとしても、彼の異動もありうるということ、そうなると開発の費用や期間、ベンダーに任せる場合も含めて、海外の会社などさまざまなことを同時に調べました。
紆余曲折ありましたが、最終的にAIのチャットボットは小松店長が作成し、ホームページは業者に依頼することになり、リニューアルが決定した10月までに、AIチャットボットをホームページに載せることができるようにしなければならないことが確定したわけです。
生協だからこその課題
そこからは、より良い精度の回答を目指して進めることになりました。例えば「〇〇はいりません」ではなく、温かみのある提案、それができるようにならなければ生協らしいものではないと考えたため、そのように回答させるように工夫を凝らすことに更なる時間を費やすことになります。
加えて大変だったのは、時期によって刻々と変わる新入生への対応です。推薦生の説明会では、すぐに生協加入を案内できますが、2、3月の時期では国公立との併願の学生もいるため、まだ入学を決めていない学生に対してすぐに生協加入を案内することは不適切で、時期やタイミングなどのそれぞれに応じた提案や案内をしないと回答は成立しないことになります。そこで、手続きの締め切り、口座の案内、ミールシステムの情報など、あらゆる質問とその回答のセットを、ひたすらに小松店長が入力する作業が続きました。
ホームページのリニューアルが10月21日に決まり、2025年度の新学期に実際に利用されることを考えると、質の良い情報をさまざまな角度から入れておく必要がありました。例えば共済の質問に関することをコンプライアンスチェックするにあたり、AIはタイミングによって言葉が変化するため、回答を申請することは実質難しく、申請にあたってはあらかじめ入力する情報に対してのコンプライアンスチェックを依頼しました。今後は望ましいやり方を、他部署と共に探っていく必要があります。
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2025年1月時点での、同一質問者とのやり取り
一つ前の質問をふまえた質問者のお礼に対しては、きちんと回答できています
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深夜でもチャットであれば、回答することが可能です
数多の苦労と現在地
実際に稼働を始めても、新入生とおぼしき人とのチャットが進んでいくにつれて、まだまだ情報が足らないところも見えてきます。やはり質問のデータベースの充実を図るには、小松店長一人では限界があり、対面での店長会議で実際に使ってもらい、実感してもらうことで、情報の追加をお願いしたりしました。またユーザーが質問をし、AIが回答したことに対して追加で質問を返してきた場合、既存では会話のやり取りを踏まえた回答ができません。質問をされたら、その質問に近い文章をデータベースから取ってきて回答するため、一つ前の質問を踏まえた追加の質問に対して上手く答えられないことが今の課題になっています。
また大学が案内すべき情報に対して、安易に回答しないことをレギュレーションとしているため、「それは回答できません」等の端的な回答をする場合があります。質問する側にとっては、大学主催のイベントか大学生協主催のイベントかの違いなどは分からないから質問するわけなので、適切でない回答をしている場合があることも事実です。そのため、更なるデータベースの拡充が不可欠です。
現在は質問と回答のセットですが、PDFを解読させてデータベース化することが課題です。人間側がデータベースに情報を追加する手間を省く仕組みも必要だと感じていて、今も情報収集や勉強をしている状況です。
「AIこーぷん」のこれから

立命館生活協同組合
専務理事 風折 昌樹
小松店長から初めてこの話を聞いた時、「すごい・・・」と思い「なんかやれそうやね、やってみようよ」と向き合った風折専務理事の想いとしては、
業務のスリム化や人による対応の違い、営業時間外の対応などを、AIを活用することで標準化できる可能性があることから、前向きに取り組みたいと思ったとのこと。また
新入生などの利用者側が、今後AIを活用した社会で活動していく時代になっていくことを考えると、「AIこーぷん」でその環境下に慣れてもらうこと、小松店長を始めとする職員側はAIを活用できる学生を増やすこと、ひいては「AIこーぷん」を育てる作業も学生が担ってくれるようになることによって、サービスだけでなく生協としてその中で学生を育てることができる可能性もあるのではないかと、模索されています。
興味を持たれた方、話だけでも聞いてみたい方
立命館生協 風折専務理事
まで、ぜひお問合せください。
実際に「AIこーぷん」を体験してみませんか
新入生応援サイト|立命館生活協同組合