第50回「学生の意識と行動に関する研究会」
大学による防災・減災・被災地支援の継続的取り組み
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司会
第50回目の本研究会では、「東日本大震災から15周年に改めて考える、大学による防災・減災・被災地支援の継続的取り組み」について、研究討論をいたします。
まず初めに、工学院大学建築学部 まちづくり学科教授 防災減災教育センター長の村上正浩先生にご講演お願いいたします。それではよろしくお願い致します。
第50回目の本研究会では、「東日本大震災から15周年に改めて考える、大学による防災・減災・被災地支援の継続的取り組み」について、研究討論をいたします。
まず初めに、工学院大学建築学部 まちづくり学科教授 防災減災教育センター長の村上正浩先生にご講演お願いいたします。それではよろしくお願い致します。
講師 村上先生

工学院大学の村上と申します。建築学部まちづくり学科で、防災に関する研究と教育に取り組んでいます。現在の「防災減災教育センター」は、本日お話しするTKKの取り組みとも関係しています。これまで三つの大学それぞれにセンターを設置して活動してきましたが、それらを大学内の一つの組織として再編し、教育支援機構の中に「防災減災教育センター」として位置付けました。これまでのTKKの取り組みを基盤としつつ、より地域に根ざした防災・減災活動を進めています。
工学院大学における防災教育と大学の防災拠点化
本日のテーマは、防災減災ボランティアを中心とした社会貢献教育、すなわちTKKの取り組みですが、その前提として「大学を地域の防災拠点にする」という考え方を紹介します。この取り組みは2007年頃から進めてきました。内容は大きく二つの柱から成っています。一つは、学生と教職員の安全確保と防災リテラシーの向上です。もう一つは、大学を拠点として地域の防災力を高める活動を進めることです。こうした取り組みは助成金なども活用しながら継続してきました。
その一つが「防災減災ボランティアを中心とした社会貢献教育」です。2009年に開始し、文部科学省の事業としては2011年まででしたが、その後も継続を前提に採択されたため、現在も活動を続けています。センター名称の変更も含め、この取り組みは現在も継続しています。
学生と教職員の安全確保や防災リテラシー向上のため、大学内ではさまざまな取り組みを行ってきました。例えば従来の防災訓練は火災を前提とし、「とにかく逃げる」ことが中心でした。しかし震災の場合、必ずしもすぐに外へ逃げることが適切とは限らず、建物内にとどまる対応も必要になります。そこで、超高層ビル内で震災を想定した「とどまる訓練」を実施しました。これは2007年に初めて行い、日本で初めての取り組みとして紹介されました。当時は「逃げない訓練は訓練ではない」と言われることもありましたが、その後の法改正により、2009年以降は消防計画にも震災対応が組み込まれるようになりました。
こうした活動を通じて、大学を地域の防災拠点とし、その中で活動する人材を育成する取り組みを進めてきました。
地域防災拠点としての活動では、新宿キャンパスと八王子キャンパスの連携も進めています。新宿は超高層ビル型の都市キャンパス、八王子は広い敷地を持つキャンパスであり、それぞれの特性を生かして地域防災に関わっています。
例えば新宿キャンパスでは、2007年から新宿駅周辺防災対策協議会の活動に取り組んでいます。地域の事業所約70団体が参加し、オブザーバーを含めると約100団体が関わっています。災害発生時には工学院大学新宿キャンパスに西口現地本部を設置し、地域事業者が情報の収集・整理・発信などを行う訓練を毎年実施しています。
一方、新宿駅東側では新宿区役所を拠点として本部が設置され、丸井や伊勢丹、複数の商店街が中心となって運営しています。現在は駅周辺の再開発も進んでおり、これらの体制を一体的にする検討も進められています。
また、新宿区とは防災・減災対策に関する協定も締結しています。区内の地域や事業所と連携し、防災・減災対策を総合的に推進することを目的としたものです。
さらに大学は、帰宅困難者を受け入れる滞在施設としての役割も担っています。東日本大震災の際にも実際に対応を行いました。こうした活動を通じて、大学として地域の防災対策を支える役割を果たしていきたいと考えています。
3.11の経験は、その後に協定を結ぶ大きなきっかけとなりました。当時は「一時滞在施設」という言葉もまだ一般的ではありませんでしたが、2007年から取り組んできた活動があったため、大学として一定の対応を行うことができました。課題はありましたが、職員が自律的に動き、帰宅困難者の受け入れを行いました。私自身も約700人の受け入れ対応に関わりました。
職員と学生が主体となり、帰宅困難者を受け入れておよそ一日程度対応しました。私は本部で全体を見ていましたが、職員や学生が指示を待つだけでなく自律的に行動していた点は、2007年からの取り組みの成果であったと感じています。
こうした経験は、大学が地域の拠点として役割を果たす契機にもなりました。結果として社会的にも一定の評価を受け、その流れの中で2012年には正式に協定を結ぶことになりました。
八王子キャンパスでも同様の取り組みを進めています。隣接する中高一貫校と連携し、近隣町会の避難所として利用するための協定を結んだほか、地域町会と共同で防災活動を行うための協定も進んでいます。
都市型キャンパスの防災と帰宅困難者対策
こうした取り組みが必要な理由についても考える必要があります。特に都心にキャンパスを持つ大学では重要な課題です。本学では地震発生時の揺れを想定した解析を行っています。八王子キャンパスの振動台を用いた解析では、東京湾北部地震が発生した場合、新宿キャンパスでは約1メートル程度の揺れが生じる可能性があり、周期が長いため室内の物が飛んでくるような揺れになると想定されています。この揺れを抑えるため、現在は建物上部の29階部分に大規模な制振装置を設置する計画を進めています。本学教員が設計を行い、さまざまな実験や解析を重ねたうえで、清水建設と協力して制振ダンパーの設置位置などを検討してきました。
ただし重要なのは、こうした事態を前提として対策を考えることです。火災時のように「逃げること」を前提とした訓練だけでは十分ではありません。東日本大震災の際、本学では建物から一斉に外へ避難することはありませんでした。地震時に外へ出ることが必ずしも安全とは限らず、危険な場合もあるため、建物内で安全を確保しながら対応することを前提に考える必要があります。
この考え方が、これまで続けてきた取り組みの基本であり、これからお話しするTKKの取り組みにもつながっています。
ここに示しているのは、新宿や八王子で実施してきた防災訓練の様子です。コロナ禍の影響で一時実施できませんでしたが、現在は再開に向けて調整を進めています。
訓練では、実際の地震発生を想定します。電気が止まり火災が発生した場合の初期消火、負傷者が出た場合の対応、エレベーターが使えない状況での搬送などを含めて訓練を行います。
また、実際の災害時には教員や職員がその場にいない場合も多いため、その場にいる人が状況を判断し、責任者を決めて対応する必要があります。この考え方は危機管理で用いられるICS(インシデント・コマンド・システム)にも通じるものであり、自律的に動ける体制づくりが重要だと考えています。
こうした実践を積み重ねながら現在の計画を整備し、大学としてBCP(事業継続計画)も公開しています。ただしコロナ禍で訓練が実施できなかった時期もあったため、今後は体制の見直しが必要です。
その一環としてマニュアルの再整備や資機材の見直しも進めています。特に女性への配慮も含め、卒業研究の学生や女性職員の協力を得ながら、大学内に女性用備品などの整備も行いました。
私は2002年にこの大学に着任しましたが、当時は備品がほとんどなく、現在のような装備は整っていませんでした。備品も1階にしか置かれていませんでした。現在は初動対応に必要な物資をすべてのフロアに分散配置しています。担架や照明器具、応急救護用の資機材など、災害時にすぐ使用するものは各フロアに配置し、食料などは下層階に取りに行くことを前提にしています。
このような配置を行っているのは、訓練を重ねる中で「その場で必要なものをすぐ使えること」が重要だと分かってきたためです。現在は備品庫にも鍵をかけていません。本来であればバールなども入っているため施錠すべきかもしれませんが、緊急時にすぐ使えることを優先しています。

三大学連携による防災教育プログラム(TKK)
こうした取り組みはTKK(三大学連携による防災教育プログラム)の活動とも関係しています。各大学はそれぞれ災害の経験を持っており、そのノウハウを共有することが重要です。工学院大学は大きな被災経験はありませんが理系分野の知見があります。一方、神戸学院大学や東北福祉大学はボランティア活動や社会貢献、国際協力の分野で豊富な経験を持っています。こうした知見を互いに共有できる点が、三大学連携の特徴だと思います。大学としても全学的な体制で取り組んでいます。理事長や学長、常務理事も毎年の訓練に参加しています。2007年頃から訓練を続けていますが、NHKで訓練の様子が報道された際に、保護者から「こんな危ない大学に子どもを預けられない」という苦情が一度だけありました。しかし理事長は、それこそ取り組みを行っている証拠なのだから続けるべきだと言ってくださいました。もしあのとき取り組みを止めていたら、現在の活動はなかったと思います。
こうした考え方が私たちの取り組みの原点であり、三大学連携やTKKの活動にもつながっています。
理系大学であるため、技術的な分析も行っています。住所データを基に学生の居住地域を分析し、地震発生時にどの程度の学生が被災したり帰宅困難になったりする可能性があるかを推計しています。そこから必要な備蓄量も算出できます。こうした分析は学生の演習や卒業研究のテーマとしても取り組まれ、その成果を大学の防災対策に活用しています。
通信インフラについても独自の対策を整備しています。工学院大学では新宿キャンパスと八王子キャンパスの間に独自の通信回線を持っており、安定した通信が確保されています。年間の維持費もそれほど高額ではなく、音声通信であれば多数の回線を確保できる帯域があります。こうした通信体制も大学の災害対策の一つです。
また、これらのノウハウは地域とも共有しています。新宿駅周辺防災対策協議会には約100団体が参加しており、その中でセミナーや講習会、訓練などを実施しています。都心で災害が発生した場合にどのように対応するかを検討する取り組みです。
この活動は2008年頃から始まり、現在の体制になったのは2012年頃です。地域の事業者も参加しており、最近では12月に住友三角広場で一時滞在施設の訓練を実施し、約100人が参加しました。前年には歌舞伎町タワー内のZepp Tokyoでも訓練を行い、帰宅困難者の受け入れや施設運営の方法などを学ぶ機会としました。
こうした取り組みが私たちの強みであり、2009年に始まったTKK、すなわち東北福祉大学、神戸学院大学、工学院大学の三大学連携にもつながっています。それぞれの大学の強みを生かしながら共同で活動を展開してきました。
東北福祉大学はボランティア活動の分野で優れた取り組みを行っており、現在は授業もオンデマンド化されていますが、その内容の充実ぶりが分かります。神戸学院大学も阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、防災教育を継続してきました。東北福祉大学の「学び合い」、神戸学院大学の「分かち合い」、工学院大学の「助け合い」という理念を連携させながら、それぞれの強みを生かして活動を進めています。
目的は、学生教育の充実、大学の活性化、そして危機管理能力の向上です。
危機管理の観点から見ると、三大学が同時に大きな被害を受ける可能性は低いと考えています。南海トラフ地震が発生しても東北福祉大学への影響は比較的小さいと考えられますし、神戸学院大学も地域によって被害の程度は異なります。
東日本大震災の際には、東北福祉大学が大きな被害を受けましたが、工学院大学は比較的軽微な被害でした。そのため残りの二大学が連携して支援体制を整えました。日頃から訓練を行っていたため、すぐに連絡を取り合い支援に向かうことができました。
このように大学が広域に分散していることは大きなメリットだと考えています。
現在はこの三大学連携を基点としてネットワークをさらに広げています。たとえば昨日は、お台場のソナエリア東京でイベントを実施し、三大学の学生に加えて神戸学院大学、東京家政大学、名古屋大学の学生なども参加しました。
私たちは大学間の連携による取り組みを十年以上続けてきました。ソナエリア東京では毎年2日間のイベントを実施しており、こうした活動は各地の拠点を基点として広がっていくものだと考えています。三大学は地理的に近接しているわけではなく広域に分散しているため、それぞれの強みを生かしながらネットワークとして連携していくことが重要です。
八王子地域でも拠点づくりを進めています。工学院大学八王子キャンパスでは、コンソーシアム八王子の枠組みの中で防災カリキュラムを作る構想があり、現在は拓殖大学とも協力しながら検討を進めています。こうした仕組みは、各大学の拠点から地域へ広がっていくものだと考えています。
先ほど触れた「助け合い連携センター」は、現在は名称を「防災減災教育センター」に変更しています。もともとはTKKの取り組みの中で設置されたものですが、今年から教育支援機構の中に位置付けられ、複数のセンターの一つとして正式に組み込まれました。現在の活動はTKKの延長にありつつ、地域の中で大学が防災拠点として機能することを目指すものです。
もっとも、センターの人的・財政的資源は限られています。今年も各地で講演やイベントを行ったほか、大学内訓練の支援などを実施しました。名称は変わりましたが、現在もTKKの枠組みの中で役割を担っています。
TKKは2009年に立ち上げられ、現在まで継続しています。教材の一部は古くなっていますが、各大学の教員が内容を更新しながら対応しています。取り組みの柱の一つが、単位互換を目的とした遠隔授業です。2009年当時はリアルタイム形式で授業を行い、各大学の授業時間の中でスクーリング型の授業を実施していました。
また集中講義形式のスクーリングも実施してきました。私の授業には神戸学院大学や東北福祉大学の学生が参加していましたし、逆に本学の学生が他大学の授業を履修することもあり、その場合は単位として認定しています。この仕組みにより、各大学単独では提供しにくい科目を補完し、学生の学習機会を広げています。
資格取得につながる授業もあります。東北福祉大学では防災士資格に必要な授業があり、本学の学生が数日間の研修として受講することもありました。神戸学院大学の学生や地域の参加者も含め、仙台で実施されていました。
さらにボランティア活動にも取り組んできました。東日本大震災の際には、「あなたの思い出を守りたい」という活動を約5年間継続し、2017年頃まで続けました。こうした経験を基盤に、現在も能登半島地震の被災地支援などを三大学で連携して行っています。
授業の提供方法は、現在はオンデマンド形式が中心です。2009年当時は文部科学省の予算で遠隔授業システムを整備し、各大学の教室でリアルタイム授業を行っていましたが、現在はZoomなどの環境が整ったため、授業を録画して配信する方式に移行しています。授業時間の調整が不要になるため、運用面の負担も軽くなりました。
ホームページではカリキュラムを公開しており、各大学の授業の中から学生が履修可能な科目を選び、単位として認定される仕組みになっています。
スクーリング型授業の一部はコロナ禍で中断しました。例えば防災士研修と東北でのボランティア活動を組み合わせた授業などです。現在も継続しているものはありますが、授業数は全体として減少しています。
工学院大学でも「減災学入門」という授業を実施していましたが、コロナの影響で停止し、まだ完全には再開できていません。以前は東京消防庁の施設を訪問したり、上級救命講習を取り入れたりするなど、実践的な内容を含めて実施していました。今後はこうした取り組みを再び復活させていく必要があると考えています。
現在も継続している活動として、松島でのボランティア活動があります。これは三大学の学生が参加する集中講義として実施しており、現在も続いています。
また、一定の科目を履修することで取得できる「社会貢献活動支援士」という資格制度も設けています。本学ではあまりニーズは高くありませんでしたが、他大学では比較的関心があり、就職活動などに活用している学生もいると聞いています。
三大学間の連携システムも整備しています。コロナの影響で一部の取り組みは止まっていましたが、次年度は訓練を再開する方向で調整しています。
東日本大震災の際にもこの連携は機能しました。当時は遠隔システムを用いて情報共有する仕組みがあり、そのシステムを活用して三大学で連絡を取り合いました。通信がつながりにくい状況の中でも、支援の方法を協議することができました。

その後、MCM回線などの通信手段を整備し、現在はIP回線への移行も検討しています。非常時でも大学間で確実に連絡が取れる体制を維持することが目的です。
また、東日本大震災の際には神戸学院大学に本学の学生がお世話になったこともありました。神戸を訪れていた学生が大学に立ち寄り支援を受けたという事例もあり、こうした点も三大学連携のメリットだと感じています。
毎年の防災訓練にも三大学が参加しています。今年は八王子キャンパスで実施し、学生同士が協力して何ができるかを考える取り組みを行いました。東北福祉大学のノウハウを生かし、高齢者対応などの内容も取り入れながら進めています。
体験型のプログラムとして、実際の体験をしてもらうような場もあります。また、VRも作っているらしく、そうしたものを活用しています。要援護者がどのような状況に置かれるのかを理解しなければ、適切な支援はできません。そういう意味でも、実際に体験することには大きなメリットがあると思います。
神戸の方では、消防に進む学生が多いんですよね。神戸消防に入る学生もいますし、東京消防庁の方も来ています。そこでロープワークなどの実演も行われますし、学生消防団の学生もいるので、彼らが持っているノウハウを披露してもらうこともあります。今回はうちの大学は学生自治会だけの参加でしたが、新宿キャンパスでは研究所の学生たちがいろいろな取り組みを行っていました。
その部分は三大学での連携が十分にできなかったのですが、今でも続いている取り組みの一つです。これはお互いの強みを生かした活動だと思っています。やはり、うちの大学だけではできないことがたくさんありますし、三大学で取り組むことのメリットだと感じています。

学生による被災地支援とボランティア活動
また、工学院大学では、もともとボランティア活動はほとんどありませんでした。私自身もそうでした。今でも被害調査には行きます。地震や火災があれば現地に行きますし、水害があれば能登などにも行きます。建物の被害調査はしていましたが、いわゆるボランティア活動はしたことがありませんでした。東日本大震災のときに初めて、ボランティア活動というものを、この二大学の先生方や学生たちから教えてもらいました。それまで私たちは被害を見ること、調査することが中心でした。しかし、それだけではなく、被災地での支援のあり方があるということを学びました。
もちろん、調査の成果は社会に還元されます。建物の構造など、さまざまな分野に反映されていきます。しかし、その場にいる人々に対してどのように支援を行うかということを学んだのは、東北福祉大学や神戸学院大学の先生方、そして学生の皆さんからだったと思います。
当時はいろいろな取り組みを行いましたが、うちの大学では建築の学生が中心になって活動してくれました。建築の学生には設計ができる人が多いので、段ボールを使った簡易設備を作ることになりました。
私自身も建築の人間なので、即席の設計は比較的得意です。学生時代から模型づくりをしてきましたから、その場で寸法を測り、段ボールをカッターで切り出して、その場で組み立てて机などを作りました。
仕切りの高さについては、学生たちが話し合って決めました。圧迫感が出ない高さをどうするかを事前に検討したのです。建築の立場からすると、高いほうがよい場合もありますが、介護士の方々からは、高くしすぎると中の様子が見えなくなり、状況が把握できないという意見がありました。
一方で、プライバシーを確保するためには、ある程度視線を遮る必要もあります。そこで学生たちが検討した結果、仕切りの高さはおよそ750ミリ程度にしようということになりました。
現場で実際に寸法を測り、段ボールを切って組み立てました。段ボールは縦横の目を90度で重ねると強度が上がるので、その点も考慮して設計しました。
こうして、その場で測り、切り、組み立てる作業を行いました。建築の学生にとっては、普段から模型制作をしているので、線を引いてカットし、組み立てることは得意です。こうした作業は、うちの大学だからこそできる支援だったと思います。
他の二大学の学生は、また別のノウハウを持っていて、それぞれの役割を担っていました。泥かきや荷物運びなども重要ですが、建築の学生ができることに焦点を当ててボランティアを行いました。
作ったものはその後も使ってもらいました。強度をきちんと考えて作りましたから、すぐ壊れるようなものではありません。こうした活動は、うちの大学の強みを生かした取り組みだったと思います。
また、この活動を経験した学生たちは地域に戻り、新宿地域で防災マップを作るなど、さまざまな活動にも取り組んでいました。
さらに、現在漫画家として活動している学生もいます。彼は卒業研究で、防災をテーマにした漫画を制作しました。おそらく工学院大学建築学科の歴史の中でも、卒業研究として漫画を制作した例はほとんどないと思います。
彼はまず阪神・淡路大震災など過去の震災について徹底的に調べ、シナリオを作りました。そして、自分の強みである漫画表現を使って作品を制作しました。その漫画は練馬区の小学校に配布され、本人が学校に行って防災教育にも活用していました。
こうした活動を通して、学生たちが学んだことが地域に広がり、さまざまな取り組みにつながっていったのだと思います。
三大学で行った活動の中でも、特に長く続いたボランティアが「思い出守りたい」という写真修復の活動でした。これには工学院大学の学生が関わっていました。建築の学生が普段使っているソフトにフォトショップがあるのですが、アドビがそのフォトショップを提供してくれました。
その関係で、アドビの副社長や社長も関心を持ってくださり、話を聞きたいということで、私は大崎のアドビのオフィスまで行きました。自社のフォトショップがこういう形で使われていることをとても喜んでおられたようです。社長はインドの方でしたが、この取り組みを世界中に紹介してくださったそうです。建築の学生が使い慣れているソフトだったので、活動にも入りやすかったのだと思います。
ただ、この取り組みを始めるにあたって、私自身にはボランティアのノウハウがありませんでした。そこで神戸学院大学の先生方がこの活動を発案してくださり、東北福祉大学の方々が現地でチラシを配布してくれました。活動しながらチラシを配り、「津波で汚れてしまった写真を私たちが修復します」と呼びかけたのです。
写真の修復については、最初は洗う方法を試しました。しかし、洗うと写真の表面がはがれてしまうことがありました。そこで試行錯誤の末、写真をデジタル化して修復する方法に切り替えました。スキャンしてデータ化し、フォトショップで汚れを取り除くのです。
この修復方法をマニュアル化したのが、工学院大学の学生たちでした。他の二大学には卒業研究という仕組みがありませんでしたが、工学院大学の学生には卒業研究があるので、ボランティア活動を行いながら修復方法を整理し、マニュアルを作成して公開するところまで進めました。こうした活動が成り立ったのも、三大学が連携していたからこそだと思います。
発案は神戸学院大学でしたが、各大学が役割を分担して活動を進めました。また、社会貢献学会からの支援もあり、企業の協力も得ることができました。フォトショップは無料で提供され、パソコンはエプソンから提供していただきました。スキャナーやプリンターなどの機材も、企業の方々が協力してくださったものです。
さらに、写真修復の専門家としてアマナの方が来てくださり、フォトショップを使った修復方法を教えてくださいました。こうした支援もあって、この活動は三大学の連携の中で生まれた大きな成果の一つだったと思います。
写真の依頼は、神戸学院大学や東北福祉大学の学生たちが現地でチラシを配り、被災者の方々から受け付けました。写真は神戸に送られてきますが、津波の泥でひどく汚れている状態でした。その後、水害の被災地からも依頼が来て、マニュアルを提供したり、写真修復の方法を活用していただいたりもしました。
津波で汚れた写真は、単に洗うだけではきれいになりません。泥のにおいも強く、作業は大変でした。全員マスクを着けて作業していましたし、津波の泥にはさまざまな細菌が含まれている可能性もあるので、けがをしないよう注意も必要でした。
工学院大学では地下の実験室を活動場所として貸していただきました。神戸では通常の教室を確保してもらいましたが、こちらでは地下の実験室を使わせてもらいました。とにかく写真が濡れていて臭いも強いので、まず乾燥させる作業から始めました。
最初は洗う方法を試しましたがうまくいかず、スキャンしてデータ化し、フォトショップで修復する方法をとりました。しかし、この作業も統一したやり方がなければ効率よく進めることができません。そのため、作業を進めながら運営方法や作業手順のマニュアルをみんなで作り上げていきました。
学生たちは本当によく頑張ってくれました。外部のボランティアの方々も多く参加してくださりました。例えば、ある赤ちゃんの写真は、泥で汚れてほとんど見えない状態でしたが、フォトショップで修復するときれいな状態に戻すことができました。
当時は今のようにAIが自動で処理してくれるわけではありません。フォトショップのスポイト機能などを使い、周囲の色を少しずつ取りながら、手作業で修復していきました。
この活動は、一つの大学だけではできない取り組みでした。各大学がそれぞれの強みを生かして役割を分担したからこそ実現したのです。最終的には約5年間で、3万6千枚ほどの写真を修復し、依頼者に届けることができました。
現在は写真修復の活動そのものは続いていませんが、学生たちは「やってよかった」と感じてくれています。被災地に行かなくてもできるボランティアとして始まった活動でしたが、こうした経験が今の活動の基盤になっています。
能登半島地震への支援など、学生を被災地に連れて行き、教育の場として学ばせる取り組みも続いています。ニーズがあれば、このような活動が再び復活することもあると思います。
防災教育ネットワークの拡大と今後の課題
現在は多くのボランティア団体が活動していますが、学生たちが社会のニーズに応えて活動するのであれば、各大学のセンターを通じて分担しながら取り組むこともできるでしょう。実際、能登半島の支援でも学生たちが活動していましたが、能登豪雨の影響で途中で中止になり、帰ってきたこともありました。三大学から学生が集まり、お祭りの支援に行きました。人数は300人ほどではありませんでしたが、多くの学生が参加しました。今年も活動があり、来年も実施する予定で、9月の日程もすでに決まっています。来年も三大学で参加しようという話になっています。
現在もさまざまなボランティア活動があります。今回の活動には三大学そろって参加できたわけではありませんが、うちの大学の学生も参加しました。例えば、足湯のボランティアなどのノウハウを教えてもらい、仮設住宅に行って活動したりしました。
また、最近流行っているモルックをご存じだと思いますが、うちの大学には日本代表の学生がいて、四年生のその学生が現地に行き、モルックを通して住民の方々と交流していました。こうした活動を行った学生たちは、もともとボランティア経験がほとんどないメンバーでしたが、ノウハウを教えてもらいながら現地で活動を展開していました。
こうしたボランティア活動も、今行っている取り組みの一つです。本来なら写真を差し替えればよかったのですが、間に合いませんでした。ただ、イベント自体はとても盛況でした。1日で200人ほど来場していたので、2日間で400人以上の方がブースに来ていたと思います。
私は土曜日に、大学の神奈川支部の後援会で講演をした後、そのメンバーと一緒に会場へ行きましたが、本当に多くの来場者がいました。一般の方もたくさん参加しており、会場の館長からも「ぜひ来年も実施してください」と言われました。そのため、おそらく来年も活動を行うことになると思います。また、大学の取り組みとしてもぜひ活用してほしいと言われていますので、今後さらに展開できることがあれば活用していきたいと考えています。
このような活動は、東日本大震災から15年となる現在でも続いています。10年の節目のときにもイベントを行いましたが、その際にも多くの大学が参加してくれました。こうしたネットワークは、少しずつ広がってきていると思います。
神戸には神戸の流れがありますし、八王子や新宿でも取り組みが進んでいます。特に八王子では、大学コンソーシアムの枠組みの中で新しい取り組みが始まりつつあります。こうした活動がつながっていけば、さらに多くの大学が参加できるのではないかと思います。
何かきっかけがあったときに学生が集まり、一つの事業を立ち上げていくというのも一つの方法だと思います。これは昨年8月に行われたイベントの様子ですが、阪神・淡路大震災30年の節目に合わせたものでした。多くの学生が集まり、とても良い機会になりました。
さまざまな大学の学生が集まり、自分たちの取り組みを共有し合うことは、とても意義のあることだと思います。金沢大学の学生も参加しましたし、熊本学園大学の学生も来てくれました。
熊本学園大学は以前水害の被害を受けているので、その支援についても一緒に取り組めないかという話をしています。このように大学同士のつながりができ、カウンターパートがいると活動は進めやすくなります。今後もこうした活動は広がっていくのではないかと思います。
現在も、このネットワークを広げるためにさまざまな活動を行っています。全国でも多くの大学が取り組みを行っていると思いますが、一つの大学だけでできることには限りがあります。こうした活動が、点から線へ、そして面へと広がっていくことが大切だと思います。
また、理系・文系といった枠を超えて協力できることも、この活動の大きなメリットではないかと感じています。
時間もそろそろですが、だいたい50分ほどお話ししたと思います。こうした取り組みは工学院大学というよりも、三大学の連携の中で進めてきた活動です。
このあと質疑の時間もありますので、よろしければご質問をいただければと思います。どうもありがとうございました。
※研究会では、村上先生の講演の後、全国大学生活協同組合連合会の佐藤学生委員長から「大学生協連・会員生協の取り組み報告」と題して、防災・減災・激甚災害の活動について報告した。その後、休憩をはさんで会場およびオンラインでの質疑応答と討議をおこなった。
記者からご質問をいただきました
全国大学生協連 広報調査部の責任で、講演録を起こしております。










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