2014 アメリカ大学食堂視察 報告書

(4)視察のまとめ

1. 大学のフードサービスに対する考え方と優先度

今回の研修で訪れた各大学へは、2014年7月に全国大学生協連がNACUFS(TheNationalAssociationofCollege&UniversityFoodServices、全米大学フードサービス協会)へ加盟した事で訪問が可能となりました。同じ大学でフードサービスを提供する側の組織として認知された上での訪問であった事から大学運営当局の様々な方から大学におけるフードサービスの考え方やその優先度について話を聞く機会に恵まれました。どの大学にも共通していたのは、フードサービスを単純に食の提供として捉えているのではなく、大学の戦略として重要視していた事があげられます。

中央が、ミシェル副学長

最初に訪れたカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)のミシェル副学長(アドミッション・広報部局担当)は、大学生活の基盤であるhousing/diningは重要な仕事と考えているとお話しされました。その理由は「食事をきちんと摂ってもらいエネルギーを蓄え、学業に専念してもらうため」だとの事で、【健康な食事が豊かな学びにつながる】との認識が大学として確立されていました。

マサチューセッツ大学アマースト校でも、大学では【学問と食生活を学ぶこと】を基本としているので食事は非常に大切で、そのためにミールプランを実施していると伺いました。学内フードサービスの使命は『持続可能で環境に配慮した方法で、地元、地域および世界の料理を健康で風味豊かな様々な食事を提供することで、キャンパスライフの経験に貢献すること』と定め、飲食空間をコミュニケーション促進の場、コミュニティを形成する場として位置付けながら、トレーサビリティーが効いた新鮮な食材をいつでも、どこでも食べられるのが当たり前の学生達へサービス提供し続けながら、満足度を高める努力を怠っていませんでした。(売上は、この 15 年間で 28 億ドル→85 億ドルへと向上させ、カスタマー評価は、10 段階評価で「5」の評価から、8.5~9.0 までになっています。)
よく食べる学生は、よく学べるとの話は、どの階層の職員の話しの中でも聞かれた事だった事からも、この考え方は目指すべきビジョンや、大事にする価値観を体現しようとする大学の共通認識になっていました。

アマースト校の食堂の使命

アマースト校の食堂のビジョン

アマースト校の食堂が大事にする価値観

ミシガン州立大学のプレート【州立大で食べよう!】

ミシガン州立大学では、フードサービス事業が、オープンキャンパスでの保護者の重要関心事であるということを事業部門、大学幹部が認識して取り組んでいました。お話を伺った建物には【州立大で食べよう】とのプレートが掲げられ、各大学のミールプランでは、家族や友達がキャンパスを訪れた際に使用できるチケ ットが含まれていました。

この基本認識があればこその、施設投資であり、食育への取組みに繋がっていました。訪れた各大学の施設はいずれも莫大な投資をされてリニューアルされており、多くのフードコートを持つような食堂レイアウトを基本とし、座席配置や照明、壁等にも多様な雰囲気を持つよう工夫されていました。
また、授業のカリキュラムの一部を受け持ったり、食堂メニューの簡易レシピの配布、食育関連の様々なイベントの開催等、サステナビリティとリアルフード(近郊で採れた野菜等の使用)を考慮した様々な食育プログラムも実施されていました。もちろんその原資の大枠の考え方は、ハウジング(大学寮の運営)とフード(食堂事業)の収入は一体的に運用され(ブレンディング)、ミールカードを義務付ける事で圧倒的な経営基盤を持っている事が背景にあるので日本の大学に於いて全く同じ事が出来る訳ではありませんが、大学職員の方々にアメリカの大学職員と同じ考えを持ってもらうことは可能だと思われます。

アメリカでは「食」を中心に大学生活を考えることにより、健康、生活、勉学、そして将来までも描いています。食材にこだわり美味しく、健康に注目し、カロリーと量を考えて提供しており、営業時間も朝食か夜中まで営業しているので、食事を大学へ来て食べることにより、勉学だけでなく生活の面でも大学へ行く必要が有り、大学へ来ることにより勉強する事になります。その結果規則正しい学生生活ができるので、勉強をする事に専念できるので就職もできるはずだとの考え方です。

大学職員へ食堂のホール拡大や昼食時間の拡大も合わせてのアピールと一緒に保護者へのアピールしていく事が今後重要に思われます。大学生協から大学に対して発信していくこと、発信していくに足るフードサービス事業にしていくことこそが重要です。「豊かな食事・食を楽しむ ≒ 様々な選択肢がある・さまざまな業者がある」という発想から広げ、「給食的発想」ではない健康的な食事という視点を、どこまで広めていけるかが問われています。