学長・総長インタビュー

明治学院大学

村田 玲音 学長

コロナ禍を超えて20年後の大学へ

利益や効率だけにとらわれない “Do for Others” の精神。

鶴貝 明治学院大学では「キリスト教による人格教育」のもと、創設者ヘボン博士が生涯貫いた精神 “Do for Others(他者への貢献)” を教育理念に掲げていますが、大学としての特徴といえば、どのような点が挙げられますか。

村田 本学では、先生がおっしゃられた建学の精神・教育理念に基づき、学生に身につけてほしい5つの教育目標を定めています。それは「他者を理解する力を身につける」「分析力と構想力を身につける」「コミュニケーション力を身につける」「キャリアをデザインする力を身につける」「共生社会の担い手となる力を身につける」の5つ。学生が学ぶ各学部学科の、人材養成上の目的・教育目標、卒業の認定・学位授与に関する方針(ディプロマ・ポリシー)、教育課程の編成および実施に関する方針(カリキュラム・ポリシー)、そして各授業科目は、この建学の精神、教育理念、5つの教育目標の下に設計され、提供されています。

鶴貝 学生が5つの力を身につけることで、自信をもって社会を歩んでいくことができるよう、そしてその力を使って社会で活躍できるように育んでいくということですね。

村田 はい。そのために正課のカリキュラムに加え、グローバルマインドを育む国際交流、ボランティアスピリッツを身につける活動、自立へとつながるキャリアデザインなど、さまざまな形で学習や経験のできる機会を提供しています。国際交流においては、海外留学制度をはじめ、留学生をサポートする「バディ制度」など、世界とつながる多くの機会を設けています。また、伝統的にボランティア活動にも力を注いでおり、学生の自主的な活動を支援する他、「ノートテイク」をはじめとしたさまざまな学生生活支援も行っています。さらに、キャリアデザインに関しては、単に就職先を見つけるだけでなく、学生が自分と向き合うこと(自己理解)、社会人となって働くことと向き合うこと(社会・職業への接続)を重視し、学生の社会的職業的自立を支援する体制を整えています。
本学は歴史の長い大学ですが、創設者のヘボン博士からの伝統で、社会が求めがちな利益追求や効率追求とは少し違ったところに、教育の重点を置いてきたと言っていいでしょう。

充実した大学生活の秘訣は自分の居場所をいかに作るか。

鶴貝 新型コロナの感染流行によって、国も、企業も、さまざまな対応を余儀なくされてきました。こうした中で大学教育の現状を先生はどのように捉えていらっしゃいますか。

村田 小学校から高校までは、生徒たちは学校の比較的近隣の地域から通っていることが多いですよね。しかし、大学となるとそうはいきません。本学のように国際交流による多文化共生をめざしている大学では、日本各地から学生が集まることはもちろん、海外からも多くの学生がやってきます。新型コロナ禍を経験して私が痛感するのは、世界中から集まった学生たちを講義に参加させ、適正な大学教育を提供することの難しさです。通常であれば至極当たり前の、大学としての責務をいかに果たしていくか。本学だけでなく、どこの大学の先生方もこのコロナ禍を通じて、改めて考えさせられたのではないでしょうか。

鶴貝 もう一つ、学生側の視点に立った大学の在り方というものもあると思うのですが、そのあたりはいかがでしょう。

村田 学生側に視点を移すと、高校までは学校に行けば教室がある、担任の先生がいる、時間割も決まっている。すべて学校側で準備をした、いわば「お仕着せ」をまとって学校生活を過ごしているわけです。ところが大学に入ったとたん、そうしたものは全て無くなり、改めて自分の学生生活を、学びも含めて自身でコーディネートしていかなくてはなりません。だとすれば、そこへ上手に導いていくことも、大学としての大切な役割だといえます。私自身、学生たちには「周りに流されず、自分の考えで履修すること」「なるべく少人数で学べるクラスを選ぶこと」「積極的にサークル活動に参加すること」「ゼミがある学科の場合は、必ずゼミに入ること」を薦めています。

鶴貝 確かに、ゼミやサークルで培った人間関係が、一生を通じたお付き合いにつながることも少なくありません。

村田 そうだと思います。こうしたグループに入ると、大学の中に「自分の居場所」ができてくるんですね。あそこに行けば仲間がいて、いつでも「やぁ、元気?」って声をかけてくれる。
そういう状況をできるだけ早く作れれば、キャンパスライフはきっと楽しくなるし、そこには思い出もたくさん生まれるはずです。大学で過ごす全ての時間が、より充実したものになるのではないでしょうか。

感染の収束・拡大に対して、フレキシブルに対応できるシステムを。

鶴貝 本学ならではのよさも新型コロナによって、失われかねない事態に陥ってしまったことも事実だと思います。

村田 私が学長を引き継いだのが、まさに新型コロナが深刻さを増してきた2020年4月。オンラインでの講義の実施については、当初からある程度想定はしていたものの、学年の始まりを例年通りの4月6日にするか、連休明けの5月11日にするか、6月1日が月曜日だったので切りのよいその日にするか、本当に悩みました。どの選択肢が正しいのか決定的な決め手があるわけではないので、私自身が決断をするしかなかったのです。結果、4月20日からのオンライン講義の実施を決定したわけです。

鶴貝 他の大学と比較しても、これはかなり早い実施だったのではないですか。

村田 そうかもしれません。4月21日には、新型コロナウイルスの影響で(雇用の喪失や収入の急減など)家計が急変し、勉学の継続に支障をきたした方を対象にして、特別な奨学金による救済措置を行う旨をホームページで発表しました。また、オンラインによる遠隔講義を始めるといっても、すべての学生にオンライン環境が整っているわけではないので、そうした環境整備を援助するものとして一律5万円の給付を決定しました。春学期は、可能な限りの講義再開と支援の実施を実現するだけで精いっぱい。正直、余裕がありませんでしたね。

鶴貝 十分な準備期間が取れませんでしたよね。
ただ、激動の春学期を経て、秋学期を迎えるにあたってはどうだったのでしょうか。

村田 本学の授業形態をどう構築していくかについて、6月頃から議論を始めました。こういう大きな問題を考える時には、最初に根本的なprinciple(原理・原則)を決めた方がいいんです。本学が掲げた原則は二つ。まず、明治学院大学の教育の基礎は対面授業である、ということ。二つ目は、学生・教職員の安全を第一に考える、ということです。この二つを両立させて授業を進めるため、授業を始めるに際して教員と学生の双方に、対面か、オンラインかの選択肢を与えることを考えました。もちろん、大人数で行われる講義はオンラインに置き換えますが、それ以外は、予め教員に対面か、オンラインかを選んでもらいます。オンラインを選んだ教員には1年間オンラインで講義を行ってもらう。教員が対面を選んだ場合、学生は対面でも、オンラインでも、どちらでも選んで受けることができるようにします。
対面を選んだ場合は、対面での講義と同時にオンラインでもその様子を流すようにするわけです。このシステムは非常に自由度が高くて、新型コロナの収束・拡大にもフレキシブルに対応することが可能です。事実、ゼミ生の中には、「先生、10月まではオンラインで受けさせてください」、とか「コロナが怖いので、来週からオンラインで受けさせてください」という人もいました。そういった学生の要望にも対応でき、現状では概ねうまくいっているのではないかと思っています。

大学という小さな宇宙の象徴的存在として、これからも。

鶴貝 では、Post コロナについて、先生はどのようにお考えですか。

村田 国際交流とボランティア、キャリアデザインは、本学が力を注いでいる点であり、大きな特徴でもあります。しかし、新型コロナの感染拡大によって、その機会やスキルを育むことが難しくなってしまったのは、紛れもない事実です。こうした状況がいつまで続くのか、それは未だ誰にも分かりません。ただ、新型コロナに対応するために私たちが行ってきたさまざまな取り組みこそが、新たな可能性を示唆しているようにも思うのです。オンラインでの授業や会議が当たり前になった今、インターネットでの国際交流だって違和感なく受け入れられるはずです。ボランティア活動もまた然り。オンラインの特性を活かすアイデアがきっと生まれてくるはずです。

鶴貝 確かに新型コロナ前に完全に戻る、なんてことは考えづらい。本学の長期的な計画としてはいかがですか。

村田 いつか明治学院の中に理系の部局を作ることができたらいいなと考えています。本学には既に文系のターミナルはいくつもあるわけですから、ここに理系のターミナルが加われば、真の意味での文理融合を実現することができるのではないでしょうか。データ・サイエンス、AI、人工知能… とこれからの時代を考えれば、そうした試みには大きな意味があると思いますね。

鶴貝 それでは、最後に大学生協への期待、要望があればお聞かせください。

村田 今は昔…(笑)、ですが、私が大学生になった時、初めて大学生協を知って驚きました。日用品から文房具まで、必要なものが何でも揃っている。その上、本が10%引きで購入できる。本が大好きだった私にとっては、まるでテーマパーク。授業の合間は、よく大学生協で本を読んでいましたね。大学は小さな宇宙であり、街だと思うんです。ある意味で、その象徴ともいえるのが大学生協なのではないか、と。大学生協を利用したことのある人にとっては、多くの思い出が生まれる場所でもあるのではないですか。ただ惜しいかな、普段はことさら意識されることもない。そういう意味では、もう少しアピールしてもいいのかもしれませんね(笑)。

鶴貝 本日は、ありがとうございました。