未来への約束。ライフ・イノベーションのフロントランナーへ。
藤村:新潟大学では75周年を迎えて、2030年に向けたミッションとして「将来ビジョン2030」を掲げています。まずは、牛木先生がこのビジョンの策定に込められた思い、その狙いについて教えていただけないでしょうか。
牛木:私が学長になってはや5年になりますが、就任当時はちょうど国立大学の独法化が進み、各大学がこの後どうなっていくのかをビジョンとして掲げる必要性に迫られていました。新潟大学でも75周年を3年後に見据えた2021年、改めて自学の10年後を考えるべきだろうとの思いに至り、「将来ビジョン2030」を策定することになりました。そして、新潟大学は激動の21 世紀の中で社会に必要とされ、さらに輝き続けるために自らが果たすべきミッション(使命)を、「未来のライフ・イノベーションのフロントランナーとなる」ことと定めたのです。
藤村:新潟大学は総合大学であり、10学部5研究科を備え、学生数(院生も含む)1万2,000人という全国の国立大学の中でも10番目に大きな大学です。そんな新潟大学が2030年を見据え掲げた目標とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
牛木:具体的な目標として、私たちは6つのビジョンを策定しました。最初の教育・学生支援ビジョンでは、「新潟大学は、日本の若者と社会人、外国人留学生が時間と空間を超えて集い、安心して学び、各々が自己の学びをデザインしながら多様性を受け入れ活かしあう、未来志向の総合大学となる。その中で、デジタルとリアルが融合した教育を推進し、絶えず変化する未来社会に貢献できる人材を育成する、日本海側屈指の学部・大学院教育拠点となる」としました。
次に研究ビジョンとして、「新潟大学は、個性ある最先端研究と多様な基礎研究を育む環境を整備する中で、ライフ・イノベーションに関わる全学の知を結集した研究フラッグシップを作り、未来社会に向けて価値ある国際水準の研究を生み出していく研究志向型の大学となる」ことを掲げ、3つ目の医療・病院ビジョンでは、「新潟大学は、医歯学総合病院において質の高い医療を提供しながら、高度医療人および社会に求められる医療人を育成し、地域社会と連携して課題を解決するとともに、国際水準の先端医療の研究・開発拠点となる」と記しました。
さらに産学・地域連携ビジョンでは、「新潟大学は、地域での対話や産学協働を活用した教育・研究活動を推進し、新潟という地方中核都市を起点とした地域創生と個性化に寄与することで、新たなライフ・イノベーションを生み出すための、社会と地域の共創の拠点となる」とし、国際連携ビジョンでは、「新潟大学は、日本海側に位置する新潟から世界に開かれた『知のゲートウェイ』として、世界と協働した知の創造を推進し、国際感覚に満ちたグローバルキャンパスの中で、高度で多様な頭脳循環の場となる」、最後に経営・組織改革ビジョンとして、「新潟大学は、学長のリーダーシップの下で組織の最適化を図り、新潟大学基金を核とした外部資金の充実と、その他の学内外の多様な資源の活用を通して、地域とともに持続的に発展する活力溢れる大学となる」ことを定めました。
藤村:掲げられたビジョンをよく見ると、すべてのビジョンが「新潟大学は~となる」と、極めて明確な宣言として表現されていますね。
牛木:2030年には「そうなる」と明記していますから、もしそれが達成できなければ、その責任は私にあるというわけですね(笑)。
藤村:2030年にビジョンを達成するために、第4期の中期目標・中期計画には具体的な戦略が記されました。。
牛木:中期目標・中期計画では、その戦略を詳細に記していますが、私自身は大きく「教育」「研究」「社会共創」の3つに分けて整理しています。
まず教育においては、柔軟かつ機動的に教育プログラムや教育研究組織の改編・整備を推進することで、多様に変化する時代の変化に対応できる人材を育成するとともに、特定の専攻分野だけでなく、ダブルメジャーとも言える他分野の知見にも触れることで、幅広い教養を身に付けさせます。また、DXに関する教育プログラムを機動的に構築し、数理・データサイエンス・AIなど新たなリテラシーを身に付けた人材を養成します。
次に研究においては、先端的な研究やインパクトのある研究の推進はもちろんですが、基本原理の解明や新たな発見を目指した基礎研究と研究者の興味に基づく学術研究の卓越性と多様性も重要です。また、地域から地球規模に至る社会課題を解決しながら、より良い社会の実現に寄与するためには、人文社会系を含む幅広い分野の研究や学際的研究の展開が必要です。総合大学としての「知」を結集し、社会変革につながるイノベーションの創出を目指します。
藤村:教育と研究については、教学的な面からも理解がしやすいですが、社会との共創とはどのようなものなのでしょうか。
牛木:一言で言えば、教育と研究によって培われた成果をいかに社会に還元するかということです。人材養成機能や研究成果を活用して、地域の産業の生産性向上や雇用創出を促進し、地域の医療や文化の発展を牽引、地域の課題解決のために、地方自治体や地域の産業界をリードします。さらには、新潟大学が2030年に向けて掲げるミッションである「ライフ・イノベーションのフロントランナー」として、持続可能な未来社会の実現に向けた、SDGsに関する実証をキャンパス等で行うことを進めます。
藤村:地方の国立大学にとって、地域との関わりが極めて重要であることに疑いの余地はありませんが、一方でこれからの時代を見据えた人材育成や大学のあり方を考えるとグローバルという視点を欠かすことはできません。
牛木:おっしゃる通りで教育、研究、社会共創の3つの戦略を貫く横串がグローバルなんですね。地域の中でのグローバル化であり、グローバルな世界の中での新潟大学ということですね。実は、そこが新潟大学にとって、最も弱い、遅れている部分だと思っています。事実、1万2,000人の学生のうち、新型コロナウイルスのパンデミックの影響もあるのですが、現在の正規留学生は500人程度。これをどうにかして増やしていかなくてはいけません。
藤村:パンデミック以外に留学生が少ない原因はどこにあるのでしょうか。
牛木:海外へのアピールが足りないことがありますね。それから留学生に対するサポートはもっと良くできると思います。今後さらにグローバル化が進んでいく中、世界中から優秀な研究者、留学生を集め国際競争力のある環境を整えていくこと、いわばグローバルコモンズの整備が最も重要な課題です。留学生がキャンパス内で不自由なくコミュニケーションをとることができて、快適に日々を過ごすことができるような環境づくり。外とか内とか、留学生とか日本人学生とか、そんなことは関係なく、誰もが当たり前のように互いを認めて、生かし合う、ダイバーシティーが確立された空間をつくること、それこそが真のグローバル化であると考えています。
藤村:グローバル化のための具体的な取り組みとして、現在着手されていることがあれば教えてください
牛木:現在、外部資金を活用して新しい学生寮をつくる計画が進んでいます。3年後に竣工を予定していますが、この新学生寮は留学生と日本人学生の分け隔てなく、混住することを前提としています。外国人も日本人も同じ、さらに言えば男性も女性も同じ、そこに線を引かなくてもよいような世界でありたいと思いますし、そういう理念がキャンパスに広がると良いですね。
食堂についても大学生協さんにご協力いただいて、グローバルコモンズという視点から多様な食をご提供いただけるとよいのでは
ないかと思っています。そんなグローバルな取り組みを一つ一つ進めていくことで、いずれ留学生はもちろん、多くのステークホル
ダーに選んでもらえる新潟大学になっていけるのではないでしょうか。
藤村:75年という新潟大学の歴史は、新潟大学生協の歩みでもあります。これまでの新潟大学生協、そして、これからの新潟大学生協に対するご意見、ご要望などがありましたらお聞かせください。
牛木:これまでにいろいろとお話をさせていただいたように、現在2030年に向かって新潟大学ではさまざまな取り組みを行っています。それらはひとえに新潟大学への認知を国内外に広め、そのプレゼンスを確立する、いわば新潟大学らしさのためのブランディングです。そういう意味では、大学生協さんにも新潟大学にある大学生協であることをもっと意識した事業を展開していただけたらと思います。食堂の運営や購買の店舗展開など、事業という側面で見れば標準化することがセオリーなのかもしれませんが、新潟大学のパートナーとして考えればブランディングの一翼を担う存在であってほしいと思うのです。
例えば、農学部で収穫された酒米を原料とし、本学の学生と職員が醸造に加わった日本酒「新雪物語」ですが、せっかく新潟大学の酒として出すなら、工夫がほしいところです。今回、75周年を記念してラベルのデザインは私がしましたが、かわりにこれまでの日本酒メーカーだったらやらないことに挑戦してもらっています。具体的には、日本酒の味わいというのは数値化できるのですから、ガスクロマトグラフィーを使って出したデータを二次元コードで見ることができたり、仕込みの様子を見ることができるようにしました。このような情報を提供するのは、なぜなら、それがサイエンスであり、新潟大学がアカデミアとして出す意味がそこにあるからです。
藤村:新潟大学の大学生協として、これまでの常識を疑い、挑戦することが重要というわけですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。