蓬莱 大介 氏インタビュー やりたいことに挑戦し続けた20代、挫折を繰り返しながらもたどり着いた生涯の道。

気象予報士試験合格からキャスター就任まで

合格はしたものの

気象予報士の資格を取ってから、ニュースキャスターとして活躍されるまではどんな過程があったのでしょうか。

気象予報士試験は年2回あって合格率が5%。確かに難しいです。その試験の合格者は世の中に1万人以上います。僕も何とか1年半勉強して合格したんですよ。でも試験に合格したらテレビでお天気キャスターができるかと思っていたら、そうじゃなかったんです。気象予報士の資格って車でいうと普通免許みたいなもので、それではF1のプロドライバーにはなれません。このF1ドライバーになるまでにまたキャリアが必要なんですよ。
僕の時代は、お天気キャスターになるには、男性だったら気象の会社で10年勤めたりしないと無理だと言われていました。当時の僕のノートには、「世の中にお天気おじさん、お天気お姉さんはいるけどお天気お兄さんはいない。だからまだいないお天気お兄さんを目指す」と書きました。でも、いざ合格したらキャリア10年いると言われて、そんな10年経ったらお天気おじさんと一緒やん(笑)。


大学卒業後、下積み時代のころ

何か作戦考えなきゃなと思いました。2009年当時はiPhone3GSが出たばかりで、動画撮影にも対応していたんです。YouTuberっていう職業なんてなかったけれどYouTubeはあって、一般の人が少しずつ動画をアップし始めた時期でした。
そこで僕も携帯の動画撮影機能を使って、天気予報の練習をしようと思いました。毎日、自分で気象庁のホームページから天気図をプリントアウトして画用紙に貼って、自分で原稿も書いて、見よう見まねで「今晩は。何月何日の天気予報です」って練習したんですよ。

天気予報の動画を毎日撮り続ける

1日1回は天気予報をやるって決めて、テレビ局の前に行ったり、街中、公園、水族館などで撮影しました。自分で撮る時は固定のアングルなんですけど、友達といる時は撮影役を頼んだり、今の妻とのデート中にも頼んだりして、ロケのリポートの練習も交えて、とりあえずやり続け、撮りためていきました。
そうやって撮りためた動画を、気象の仕事してる人やテレビ局の関係者に会う機会があると見せて回ったんです。そんなことしてる人いなかったんで、少なくともやる気は伝わるかなと。でも、結構門前払い食らうんですよ。「こんな小さい画面、誰も見ないよ」、「しゃべりが面白くないな」、「君は何をやっているんだ」。キャスターの方にもボロカスに言われたこともありました。

でもそうやっていろいろな人に見せて回るうちに、唯一「面白いよ」って言ってくれる人がいて、その人にウェザーニューズという天気の会社を紹介してもらいました。そこで動画を見せたら、「いきなりお天気キャスターは無理だけど、気持ちは伝わった」ということで、その会社にアルバイトで入って、天気予報の原稿を書く仕事をさせてもらえました。そこで働きながら勉強して、仕事が終わった後に毎日動画で練習を続けたんです。

その後、読売テレビでお天気キャスターを探しているという話があって、動画をテレビ局の人に見てもらうと、「ちょっと読売テレビに来ない?」って言われて。で、いきなりキャスターは無理だからと、読売テレビの裏方の仕事を1年間させてもらいました。
そのうちに読売テレビで新しいお天気キャスターを探すオーディションがありました。全国からキャスター経験者やキャリアを積んだ人たちがきて、そこに横並びに立ったって勝てるわけありません。そこで僕は裏技を使いました。プロデューサーに「僕、こういう動画を毎日やっています」って見せていたんです。何回か見せると、「ここ、こうしたほうがいいよ」とアドバイスくれたりすることもありました。そうしていくうちに、「こいつちょっとずつうまくなってきたな」とか、「やる気があるな」って、何となくテレビ局の人が愛着持ってくれたんですね。それが、オーディションで同じぐらいのレベルで誰選ぶってなった時に、「あいつはやる気があるからいけるんじゃないか」って大抜擢につながったんです。

行動することの大切さを伝えたい

講演会などで若い人から「キャスターやりたいんです」、「上手になりたいんです」と相談されることがあります。「僕みたいに毎日携帯で動画撮って自分で見たらいいじゃない?」って言うんですけど、みんな結局やらないですね。

それでも講演会で過去の動画を見せ続けるのは、みんなに行動することの大切さを伝えたいからなんです。はなから諦めるんじゃなくて、何かやりたいというエネルギーが湧き上がってきた時は、それに従って行動すればいいと思うんです。僕の場合は本屋さんで気象予報士に出会って、情熱のエネルギーが湧き上がってきたので行動に移しました。そして、動画撮ってキャスターの練習をした。とりあえずやってみようと思ったんです。だからこの動画を見てもらうことで、少しでも刺激になったらいいなと。僕も最初からできたわけではないので。

「行動してみる」って言葉ではよく聞くんですけど、実例を出していただいてすごく納得できました。

僕は皆さんぐらいの年齢のとき、社会人になって40すぎて、飲み屋で後輩とかに「俺、諦めずに演劇続けていたら、もしかして売れたかもしれんな」みたいなことを酔っ払いながら言うのは超ダサいと思ったんです。挑戦するのって、将来不安でめちゃくちゃリスクあるじゃないですか。確かにいったんレールから外れると、元に戻るのってすごく大変なんですよ。経歴にブランクがあるほど、復帰しにくくなるんです。でもそこから外れることを恐れて何もせずにそのままにすると、多分モヤモヤしたまま人生が終わってしまう。

大丈夫、何とかなりますよ。僕の経験からすると、仕事辞めて25歳でフリーターになっても、資格取るなりすれば20代は何度でも戻れます。舗装された道路の上から隣の草むらに行くのが怖いんですけどね。足元見えなくて、つまづく石があるかもしれない。落とし穴があるもしれない。でもそっちの草むらに行かないと宝物はなかったりするんですよね。だから、人生ここポイント!と感じた時は、勇気出して、特に人があまり踏んでいない草むらに宝物探しに行くっていうのも時には必要なんじゃないかな?