蓬莱さんは気象予報士に加えて防災士としても活動されています。大学生が意識すべき防災対策や、災害時にできることについて教えてください。
10代20代って、根拠のない「俺は死なへん」みたいな謎の自信があるじゃないですか。だから防災ってなかなか意識しづらいと思うんです。でも、将来的に防災の知識は必要になるので、遅かれ早かれちょっと触れておくといいですよ。今、自然災害が多い時代で、異常気象だけでなく、南海トラフなど国の存続を脅かすぐらいの大きな地震も指摘されている。過去の統計データを見ると、南海トラフは40年以内の発生確率が80%以上で、皆さんが生きているうちに経験したことのないような地震が太平洋上で起きる確率が非常に高いんですよね。
また、今気候変動の影響で昔よりも雨の降り方が激しいですよ。だから以前より熱中症で亡くなるリスクが高いし、同じ勢力の台風が来ても昔より雨の量は多いんです。気温が上がると空気中に含める水蒸気の量も多くなって、海風が入り、上空に寒気があるような時は雨の降り方は昔よりも激しくなります。それはこの先悪化傾向があって、きれいな右肩上がりで増えるわけはないけれど、ギザギザしながらどんどん上がってきている。
例えば、水って高いところから低いところに溜まるでしょう? だから高架下なんかは水が溜まりやすいんですよ。そこを夜、車を運転していてわからずに突っ込んじゃうと、50cmでもう車内から出られなくなるんです。車は沈むと停電してしまう。電動だったらドアもウインドウも開けられなくなります。マフラーって、だいたい大人の膝丈ぐらいなんです。そこが水につかると、もう車は止まっちゃうんですよ。
防災の知識を得る機会があれば、そのチャンスにぜひ知っておいたほうがいい。大学で講習があったらちょっと顔を出すとか、テレビで防災の番組をやっていたら見てみるとか、どこかのイベントでAEDの使い方講座があったら実際にやってみるとか。大学生協が企画したAED講座とか救急応急措置のやり方とか、大雨に対する講座とかが、それらが例えば文化祭の一角であったら、そういう機会を逃さないのが一番だと思います。
確かに「防災について知ろう」と発信しても参加者は少ないですけど、3.11の話と絡めて発信したら、反応が大きかったということがありました。
「防災」というコンテンツにしちゃうと、興味を引かなくなりがちなんですよ。でも冷静に考えたら今世界的な気候変動で、ヨーロッパなんて500年に1度の干ばつで雨が降らなかったりする一方、大雨で国土の3分の1が沈んでしまう所もあったりする。日本でも毎年どこかで大雨による災害が起きています。
東日本大震災も記憶に新しく、日本は地震のリスクはいつでもどこでもあるような状況です。その災害から身を守るための知識がいるかいらないかというと、そりゃいります! サバイバルの知識も絶対あった方がいいじゃないですか。
堤防はここ数十年、古ければ100年前に作られたもので老朽化してきていて、それらでは太刀打ちできないような大雨も今降ってきています。下水道の処理システムも、少なくとも50年以上前のものです。少しずつ直して補強はしているものの、大雨で側溝から水が溢れて道路が冠水してしまうこともあります。キーワードとして、大学生の皆さんは今まで“守られる側”でした。でも、これからは皆さんが“守る側”になるんです。ですから、災害の知識は自分を守るためだけではなく、あなたが誰かを守るための知識として備えておくべきです。ちなみに、災害があった地域で、そこに大学があった町は、学生がボランティアで復旧の手伝いをしてくれてすごく助かったという事例も数多くあります。
最後に、大学生に向けてメッセージをお願いします。
20代は不安です。ノートに自分の考えを書き出すのはおすすめです。
ノープランでやっても勝てないしリスクもあるので、ある程度作戦を考えてなるべくリスクを減らしていく。そうして自分が勝てる場所を探す。負ける場所で合わない仕事をずっとやってもつらいじゃないですか。あなたが勝てる場所は絶対どこかにあるはずなので、その場所を見つけるためには勇気を持ってどんどん行動することが大切だと思います。
もしうまくいかない時があっても、ぱちんとピースがはまればもっと力を発揮できる場所が絶対あるはずです。勇気を出して行動してほしい。マイナスのことばかり言ってくるドリームクラッシャーは適当にあしらった方がいい。僕も、気象予報士になろうとした時、天気予報の動画を見せた時にいろいろなことを言われましたよ。でも自分の情熱のほうが勝つんです。だから、自分の気持ちの方を優先させたほうが良いと思います。コロナだろうがコロナでなかろうか関係ない、そこを言い訳にしたらだめですよ。
大人になっても同じです。僕も正直、学生時代にできなかったことっていっぱいあるし、あれやっておけばよかったということがあります。
その気持ちは今エネルギーに変えて、挑戦と行動することを大切にしています。人に言うからには、自分も何もしないわけにはいかないと、いいプレッシャーをかけています。
僕がいまの仕事をキャリア10年以上やってみて何となく見えてきたのは、いまだに不安になることがあるということ。でも10年続けられたから、もしかしたらこの仕事は僕に向いているのかもしれないという自信。最初からは分からなかったですよ。でも、10年飽きずに続けられた結果、天気の勉強をまだまだやりたいし、やりたいアイデアはいっぱいあるから、まだしばらくモチベーション高く続けられるかもと。
挑戦する気持ちは、大学生だろうが社会人だろうが一緒です。なんでもいいから前向きに取り組んでいる人は素敵で、やらずにマイナスなことばかり言っている人は魅力的ではないですね。大変な時代ですが、チャンスもある時代、お互い頑張りましょう!
大学生が元気になるようなお話をたくさん聞かせていただいて、本当にありがとうございました。
(2023年5月23日 リモートインタビュー)
蓬莱 大介(ほうらい だいすけ)氏
1982年兵庫県生まれ。2006年早稲田大学政治経済学部卒業。在学中よりバンド・演劇・タレント活動などに挑戦、さまざまな挫折を経て25歳で気象予報士を目指す。約1年半の勉強を経て2009年第32回気象予報士試験に合格。2011年3月より読売テレビ気象キャスターに就任。レギュラー担当番組は『かんさい情報ネットten.』、『情報ライブ ミヤネ屋』、『ウェークアップ!』など。防災士としても活動中。一男一女の父。
2014年に(株)ホウライズオフィスを設立し代表取締役。株式会社ウェザーニューズ※と業務委託契約。
著書『空がおしえてくれること』(幻冬舎)、『気象予報士・蓬莱さんのへぇ~がいっぱい! クレヨン天気ずかん』(主婦と生活社)など。2023年秋頃に天気の絵本を出版予定。
コラム「空を見上げて」(読売新聞全国版)など。全国各地で講演活動なども行う。
※株式会社ウェザーニューズは、千葉市に本社・グローバルセンターを置く日本の気象情報会社。