最近闇バイトのニュースをよく耳にしますが、特殊詐欺に関係する闇バイトの見分け方、自分が知らずに加担してしまった場合に、取るべき対応がありましたらご教示ください。
私は、知らずに特殊詐欺に加担した人の裁判で弁護士の協力をしたことがありますが、「知っていた証拠がないから疑わしきは罰せずでしょう」という感じで裁判をすると負けるようなのですよ。司法は特殊詐欺にすごく厳しくて実刑を言い渡されるので、人生を棒に振ってしまうんです。履歴にバツがつくとすごく不利ですよね。だから何と言っても怪しいところでバイトしないことが一番大事です。
ただ、警察も言い方を間違えています。「闇バイトに注意」なんて言っても、誰も”闇バイト”というキーワードで検索して探す人なんかいないでしょ? 当たり前ですよね。しかもそれを見分ける方法ですが、どんどん見分けにくくなっています。この点が一つ目です。やはり騙す側はあの手この手でテクニックがアップしています。加えてネットにはディープフェイク※みたいな技術もアップされていますしね。
※ ディープフェイクとは、「ディープラーニング(深層学習)」と「フェイク(偽物)」を組み合わせた造語。詐欺などを目的に悪意を持って本物のように合成された偽画像、偽音声、偽映像を指す。
2つ目は、高額報酬、好都合なバイトなんてないということ。相場を考えて、物を運んだだけでウン万円というのはおかしいと思わなきゃいけない。とはいっても、やはりどうしても美味しいバイトがあるんじゃないかと思う若者がいるのですね。でも、そんな話には必ず裏があります。そういうラッキーを得ようという根性が間違っていますよ。地道に働いて、苦しい、辛い、割に合わないという経験をしたほうが勉強になると思っていただきたい。
3つ目は、闇バイトの事例にあがっているものだけではあまり当てになりません。新しい詐欺や悪質商法、特殊詐欺といったものは犯人しか知らないのです。だからどんなものが新しく出てくるのかというのは分かりません。検索して出てくるような事例はよくある詐欺に過ぎなくて、知り得ない詐欺があるのだということを頭に入れておくことが大事ですね。
あともう一つ、ネット情報は便利ですが危険なところが多いわけです。文字や電話だけでは相手が何者なのか確認するのは難しく、なりすましが簡単ですよね。コロナ禍以前は、例えばマッチングアプリで出会った人と結婚するなんてやばいと思う人はすごく多かったのに、今では普通になっています。みんなネットだけの情報で近づくことに慣れてしまっているのだと思います。
しかし、どう考えてみても騙しやすくなるのも事実なので、ネット情報には本当に気をつけなければいけない。バイトをするなら、具体的にその会社の所在地や活動の実態を確認することだと思います。電話で引き受けて何かやってくれみたいなバイトではなく、その会社がちゃんとあるのか、どこで誰がやっているのかをきちんと確認する。未確認で引き受けては危険だと思いますね。
もし関わってしまったら脅されて本当に罪を重ねてしまうことになるので、ペナルティは覚悟して気付いた段階ですぐに警察に行くしかないですね。例えば家族に何かするぞと脅迫されていたら本当に怖いのは分かるけれども、やはり勇気を出して逃げ出すしかないでしょう。警察に全部伝えて全面協力して守ってもらうということが大事だと思います。
最後に、読者の大多数を占める若者世代(大学生世代)に向けてのメッセージをお願いします。
まずは危険な勧誘を仕掛けてくる団体というのは、思っている以上に現実にあるということ。そして、それが身近に存在しているということを知りましょう。タイミングよく仕掛けられると誰でも引っかかる可能性がありますので、自分は例外だと高をくくらないことですね。
人生は常に順風満帆でいられるわけがないので、もしそんな時が来ても焦らずに目先の損得を考えず、もがいていればきっと道は開けるのだと信じてください。私たちの人生やその周りの社会を見ても曖昧で不確かなものだらけですが、そんな自分や社会をちゃんと受け止めて愛せる力が求められると思います。自分を大事にすることはこの社会も大事にすることです。
その上で、他人を信じられるかどうかと言われると、私は信じるべきだと思っています。ただし、お金の話が出てきたら、あるいは今こそ人生の岐路、みたいな大事な質問を投げかけられた時には、その答えを他人に任せるのではなくて、自分で考えてほしい。
そのためにいろいろな情報を集めましょう。オールドメディアからもニューメディアからも、それから人との直接的なつながり、そんな総合的な知識が自分を生かすことになるので、特にこれからの時代、ネットだけに偏って情報を求めてはいけないということを知っておく必要があります。その上で自分が社会を愛して頑張っていれば、きっとうまくいきます。あるいは協力し合うことで社会を切り開いていけます。
大学生も社会人もうまくいかなくて悩むこともあると思いますが、そこにとらわれないのが被害に遭わないためにも大事なことなのかと思いました。本日はありがとうございました。
2025年4月1日 リモートインタビューにて
日本脱カルト協会 代表理事 西田 公昭 氏
関西大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得、論文博士(社会学)。静岡県立大学国際関係学研究科助手、静岡県立大学看護学部准教授を経て、2011年4月より立正大学教授。
マインドコントロールについて実証研究を行い、内外の学会にて発表してきた。一連のオウム事件や旧統一協会などの心理的支配に関わる裁判において、法廷証人および鑑定人として何度も召還される。メディアでも活躍。
日本グループ・ダイナミックス学会会長、消費者庁・こども家庭庁などの検討会委員を歴任し、現在では日本社会心理学会会長、国際連合安全保障理事会テロ対策委員会実行委員会研究パートナー等を務める。著書多数。
日本脱カルト協会 https://www.jscpr.org/