岡田 隆(バズーカ岡田)氏 身体づくりには「人生を変える力」がある!~心地よい空間から半歩でも踏み出して、みんな 成長しよう~

トレーニングを継続するために

筋トレは強烈で正確なリズム調整要素

コロナ禍で生活リズムが作りづらくなり、大学生協の調査でも朝食の摂取率が下がってきて、1日2食で過ごしている学生が多いなどの現状があります。

これは完全に筋トレで解決です。身体のリズムは、身体に刺激を入れることで作られます。無理矢理に脳で決めて、この時間に起きてこれをやるというのは無理があります。人間は自然と眠くなるし、自然と起きるし、自然と空腹になる。空腹でないのに、朝食なんて食べられません。
自分の生活で思うのは、筋トレが強烈で正確なリズム調整要素になっているということです。例えば、私が筋トレを終えるのは仕事終わりで、夜12時くらいになります。その後、12時半か1時くらいに食事をします。すぐ寝ると消化吸収によって睡眠の質が落ちるので、もう1時間ぐらい起きて仕事をして、風呂に入るなどして2時くらいに寝ます。そうすると、入眠がすごく良い。この筋トレの時間がちょっと前倒しになると、寝つきが悪くなります。もう、明らかに筋トレが自分の睡眠や摂食行動に影響を与えていると感じるのですね。

すごく忙しくて筋トレができないときがあります。そういうときにはいつも、自己効力感(「自分ならきっとできる!」と思える力)が下がり、無力感が自分の心を覆いつくします。筋トレが人生であるが故に「筋トレできないってもう最低だな」と思うし、あとやはり筋肉を生涯にわたって成長させていくときに、一日たりともスキップしたくないんですよ。スキップすると停滞し、最終到達地点が下がるじゃないですか。その生理学的な現象を理解しているので、本質的には一日も休めない。だから、すごく無力感に苛まれるわけです。

一方、忙しい時、心がつらい日に筋トレをやると何が起こるか。筋トレで強烈に身体が疲れるし成長を促したいから、ちゃんとした食事をしたいという気持ちになり、身体をつくり直す栄養素が入ってきて、栄養的なリカバリーが起こります。また筋トレで重いもの挙げると、精神は興奮します。その興奮は長く続かず、次にリラクゼーションを必要とします。筋トレによる強烈な刺激で心が整って、スムースに寝られます。神経的なリカバリーです。それで翌朝から好循環に入れるんですよ。筋トレをやり遂げたという自己効力感が上がりますから、メンタル的なリカバリーにもなりますね。
筋トレをしないと、空腹にならないからご飯もおいしくないし、心が整っていないから不安なことや自己効力感のなさに心が占拠されて、寝られません。で、翌日はパフォーマンスが下がるという負のスパイラルに入ります。だから私は、つらいときほど筋トレや何か運動をすると、好循環に入れるということを、私自身の生活で理解しています。筋トレで心をハックするのです。

これを本当に実感したのは、自分の生涯で身を切られるほどつらい思いをしたときのこと。でも、その日の夜にふさぎ込んで寝るのか、ジムに行くのか迷って、ジムに行ったんですよ。そうしたら、次の日から平常運航に入れました。これで、本当に筋トレの重要性を実感でき、筋トレで心を整えられると確信しました。夜寝る時間が不規則だとか、朝食を食べないということは、自分のリズムをつくるための刺激が入っていないということです。

別にこれは、筋トレでなくても、散歩でも走ることでもいいと思います。私たちの祖先は、アフリカで狩猟採集をしていました。私たちは世界中にあっという間に分布したわけですが、数百万年もの長きにわたって繰り返し行われてきたこのリズムは、どれだけ現代生活が豊かになっても変わらないと思います。だから、運動というのは身近で超大切なリズム調整要員だと思います。私は悩んでいる人から電話が来たら、「お前、筋トレやれ」と言って電話を切ります(笑)。

心が疲れている学生にも「いったん身体を動かしてみようよ」と言ってみることは大切かもしれませんね。

そうそう、運動すると交感神経が高ぶって、次に副交感神経が優位になってリラックスすると食事もおいしいし寝られるし、本当にいいことしかない。今、多くの人が自宅でトレーニングを始めたということは、通勤や自然な運動が減ってしまったからそういう方向に流れていったと思います。とても自然なことだと思います。
学生さんも自分の身体を整える術を早く身に付けておくと、社会生活でつらいときにも対処しやすいと思いますよ。

食事の概念を壊してみる

私は、筋トレをやるとしたら基本的には仕事が終わり、帰宅して夜になります。暑くて汗もかいているから、先に汗を流し、すぐ夕飯を食べてしまう。そうすると眠くなって筋トレができないという悪循環になります。どこで筋トレをすべきでしょうか。

一度食事の概念を壊したほうがいいですね。3食食べるとか、食卓で座って食べるとか、そういうごく当たり前に思われていることを、一回壊してみてはどうでしょう。食べて咀嚼して消化して吸収するって、流れとしては時間がかかりますよね。食後にある程度時間をおかないと、筋トレのエネルギーがない状態です。かといって消化を待つのは時間がもったいない。実は今、私は消化時間をこのインタビューに充てているんですよ(笑)。開始10分前に、鶏肉とオートミールを食べました。それは、このインタビュー終了後に、脚のトレーニングをしようと思っているからです。そのときにはちょうど血液中に栄養素が満たされているだろうし、空腹感も少なく気持ちの入ったトレーニングができると思いました。
だから、職場か職場の近くで夕食をとる。そうすると帰宅するまでの時間で消化が進み、血液の中に栄養素が広がる。胃も少し軽くなっている。それで、帰宅後すぐに筋トレしてシャワーを浴びて、もう一回食べるんだったら食べて寝る。そうすると、筋トレの効果も上がるし、時間的にロスもないです。

自己効力感を下げない

刺激を与えるという観点でいいますと、身近に入れやすい動作って何かありますでしょうか。

ジムに行くのが最も効果的ですが、行けない場合は、自宅でやる筋トレでも十分効果があります。筋トレとは別に、有酸素運動も身体にはすごくいいですよ。心臓や血管という身体の中の重要なインフラを強くしてくれるので、心筋梗塞や脳血管疾患のような血管の病気になりにくくなります。また、心肺機能が高まるので、持久力が付きます。同時に仕事の体力もつき、生活全体の質が上がります。ということで、私は有酸素運動もとてもいいと思います。

ただ一方で、身体は新しい刺激にすぐに慣れてしまうので、体脂肪を落としたい人たちは、あえて有酸素運動をルーティン化しないほうがいいと思います。毎日の通勤で歩くのは確かに身体にいいことなのですが、慣れるのを防いでランダムに歩く日、歩かない日を決めると心としても楽だし、身体が刺激に慣れないので変化を起こしやすい。ですので、有酸素運動は習慣化して継続するものだ、というような固定概念を壊して、「できるときにやるということでメリットがある」と思ってもらえればいいと思います。

ちょっと買い物に行くときに歩く、今日は一駅前で電車を下りて歩く。そんな簡単な気持ちで歩くだけでも身体は変わってきます。筋トレも同じで、ガチガチにルール化すると、逆に自分を苦しめてしまいます。そして、できなくなったときの自己効力感の下がり方が半端でないです。私も今、筋トレに関しては、どうしてもできないときは休み、良質な休養を翌日の筋トレに還元することにしています。翌日の筋トレで101点をとりにいくのです。そうすると、休んだ時の自己効力感の下がり具合があまり激しくないので、ルーティン化しすぎないことを、ポジティブに捉えたほうがいいですよ。

大事なのは、継続すること

無酸素運動を行う場合でも基本的には同じですか。

生涯において毎日続けていったら、すごく高い所に行くと思います。でも、皆さんは別にそういうところまで目指していないですよね? トレーニングを一生続けていけるコツは、いいペースで付き合えるかどうかだと思います。私もよく最適なトレーニングの頻度を語りますが、それはあくまで理想論。これができないからだめだと思ってやめてしまうのは全くもったいないし、やると決めたら全部やるのだとすると、心が苦しくなる。けがや心のバーンアウトを防ぐためにも、ちょっと余裕を持った付き合い方をするといいですね。

私も筋トレをやるときに、無理して自分を追い込んでいたと思います。少し余力をもって続けるのが、長く続けるコツだと分かりました。

齋藤さんが今からボディビルダーになりたいというのだったら、もっとやるしかないのですが、そうじゃなかったら、いい付き合い方を見出すのが一番です。自分の1週間のスケジュールを見て、この日はできないから前日に激し目にやっておくとか、逆に前日に激しくやっても翌日休めるからもっと追い込めると計画する。やめたら終わりです。継続すること以外に、身体を変える方法はないですから。

休みの効用

研究の世界でも一つ分かっていることは、3週間やったら1週間休むということをずっと繰り返していく人は、3クールぐらいすると休まずにやっていた人と同じところまで到達するのです。科学的にも休みを取り入れた方がいいということになっていて、これをさらに続けたら、休みを入れた方が上に行く可能性すらあります。
重要なのは休みをどう捉えるかです。ただ単に休むのではなくて、休んだからには次頑張るとか、休むからには前日頑張るとか、何かポジティブな要素を見つけ出せると休みの効果が上がります。そうすると休んだ時に、「これは妥協なんだ、俺はなんて駄目な人間なんだ」ではなく、「これは戦略的に休息を入れているんだ、なんて賢い筋トレをしているんだ」と、プラスになるわけです。

休むのも一つのトレーニングなのですね。

非常に大事ですよ。なのに、みんな超頑張るから休まないのです。運動(筋トレ)・栄養(食事)・休養(休み・睡眠)という言葉があります。休養は筋トレと同じくらい大切だと厚生労働省も謳っているのに、スイッチが入ってしまうとボディビルダーも休みを忘れるんですよ。筋トレして、身体にいい食事ばかりとるけれど、寝ないし休まない人が多いですね。

筋トレの話をしているようで、まるで若い世代の働き方にも影響を及ぼすような内容だと思いました。

土日・祝日の休みの使い方も、非常に重要です。それがあるから次の日からどう頑張れるのか、それがあるからその前日までどう頑張れるのか、本来そういうもののはずなのです。賢い休み方をしてください。完全に寝るのか、あるいは映画を見て何かインスパイアされたいか。あるいは自然の中で心を養うのか。どういうふうにその日を使うと、次の週からどうパフォーマンスが上がるか、または1週間疲れ果てた心がリカバリーされるかということを考えないと、過ごし方としてはもったいないですね。

頑張りすぎて自分に目を向けられず、身体や心との対話ができなくなってなかなかその状態に気付けないということがあります。心身を見つめ直すにあたって、岡田さんが大切にされていることはありますか。

本当に情けない話ですが、自分も痛い思いをしないと分からない人間なのです。だから、やりすぎてけがをしたり、寝ないでトレーニングしたり、食事を頑張りすぎて結果駄目な仕上がりになったりして、「あ、これはやりすぎたんだな」と気が付いていったのです。それはすごく愚かな成長の仕方ですよね。
先人の意見をちゃんと聞ければ、そういうことに陥らないじゃないですか。自分だけは目一杯やっても大丈夫だというのは、すごく驕りがある話です。これを読んだ人は少しでも気が付いてほしいのですが、やりすぎて結局駄目になって、それをリカバリーするために何カ月もかかるようなことをすると、最終的に損するのは自分です。私自身の経験を振り返ると、絶対に休んだ方がいい。どんな強靭なボディビルダーも身体が壊れるし、心も続かないですよ。だから、適切な休みをうまく取れない人は、最大のパフォーマンスを発揮できません。

私は去年の東京五輪まで柔道のオリンピック選手をサポートしてきましたが、彼らは、休む事の重要性を理解し、使いこなしていますよ。本番直前2週間くらいを一緒に過ごして練習を詰めていくわけですけれど、最後は疲労を抜くために身体を休ませないといけないのです。でも、私は選手全員に「大会3日前は完全休業しろ」と一律には言いません。なぜなら、個人個人でいつどのように休養を取るべきか違うからです。休養日も、彼らが自分で考えて設定します。自分の身体を知り尽くしていますね。だから、世界一になる。
ただ、彼らも小さな失敗を繰り返して、自分にとって最適な休み方を知っていったのだと思います。そうして自分の心身の声を聞く練習をしていくしかない。自分の心身の声って、筋肉とか関節だったら痛いとか違和感があるでしょう? 心も同じで、なんか眠れないとかざわつくというものを敏感に感じて、自分だけは何があっても大丈夫という過信は捨てることです。

頑張り過ぎてしまうという人には、休みを前向きに捉え、休養の大切さを知らせようと思いました。

科学的にもデータが出ているので、休めばいいというだけなのですよ。一つ提案なのですが、筋トレなど出来ないときも、ちょっと歩くだけで、代謝がよくなります。汗かくだけで全然違うので、会社から歩いて帰れるように、リュックに運動靴と動きやすい服を入れておくと、気軽に歩いて帰れますよ。筋トレも組みわせたいなら、階段を上るのもいいですね。