津田 大介氏

大学生協は、大学生が社会に向き合うきっかけをつくってくれる場所

今大学生協の中では2030年に向けたゴールとかミッションを作り、大学にある生活協同組合として、今後大学にどう貢献できるか、人と人とが手を取り合って自分たちの生活をより良くするためにどうしていくかを考えています。今までのお話を聞いていて、学生自身がやりたいと思ったことをきちんと表現できるフィールドに大学生協がなり続けることが大事なのかなと思いました。
津田さんが各大学に行かれるときに生協を利用してくださることもあるかと思いますが、津田さんご自身の経験やご見識から、今後の大学や福利厚生を担う大学生協に求められていることがあれば、ぜひ伺いたいです。

学生時代は社会人と比べて圧倒的に時間があるので、やっぱり大学にいるときじゃないとできないことはたくさんあるのですよね。自分は将来どうなるのか、とかね。自分はこういう方向に行くのだと決めて、やりたいことが見つかっている人のほうが少ないと思いますけど。僕だって大学のときに、なんとなく方向性としてはこういうふうにいきたいなというのはあったけれども、自分が今こうなるなんて思ってもいなかった。だから、大学から社会に出るときに、ほとんどその時点で何者でもない人が多いわけで、何者でもないからこそ何かに興味を持ったり打ち込むものがあったりしたことが、その人が社会に出てからの不安な状況を支えてくれるのだと思います。そういう時期に打ち込むものがあるかどうかは、すごく大きいと思うのですよね。
僕は就職活動を全部失敗しちゃったクチです。アルバイトから始めたけれど、自分はそのときになにも専門的な知識があるわけでもなかった。でも、大学時代にとりあえず黎明期のパソコンとインターネットは触っていたのですよね。人よりも専門的な知識があるものはそれぐらいしかなかったのです。でもその知識は世間で多少は希少性があるなとは思っていました。それなら、これを何かで生かせないかなと思って、いろいろな出版社に売り込みのはがきをそれこそ150枚ぐらい出したのですね。そしたらやっぱり15部くらい返事が来て、その半分の7個くらいの媒体で「なにか書いてみますか」という話になって、それでこの業界に入って、今もそういうのを続けているのです。就活が全部決まらなくて就活鬱になるのも気の毒だと思うけれども、別にそこでレールを外れたところで、人生にはいっぱい裏ルートがある。
で、そういう裏ルートがあるということは皆さんに伝えたいし、そういうときにやっぱり生協みたいな場所が何かのきっかけになると思います。僕も大学で教えているとき、結構生協に行きました。本を見て、普通の本屋とは違いますね。やはりその大学のカラーだとか大学生の興味・関心があるものを生協の人は入れようとしているのだと思いましたし、そういうところで何者でもない大学生が、これから出ていく社会に向き合う多分最初のきっかけをつくってくれるのが、大学の中だと思うのですよ。生協って大学に直接あるわけだから、やはり学生はそこでいろいろなものと出会う。それは本だけではないのかもしれないけれど、特に今コロナで、一人でどうすればいのか考えなければならないことが増えていくと思うので。
でも大学を卒業してしまうと仕事が忙しくて、意外に一人になる時間は少ないのですよね。やはり一人でいろいろなことを考える時間をまとまって与えてくれるのが、ある種孤独との向き合い方を教えてくれるのが大学という場所でもあると思います。そういう一人じゃないと考えなかったりするようなときの不安に寄り添いながら、考えを深めるきっかけを与えてくれる。やはり生協にはそういう存在になってほしいと思います。
コロナ禍で全国的に生協さんの経営もすごく厳しく、母校の早稲田大学の生協も大変だというのを報道で知りました。大変だとは思うのですけれども、今本当に学生同士のつながりがなくてすごく不安な気持ちになっているからこそ、生協のようなちゃんとリアルな場所があって、学生をサポートする存在という価値は、これからより高まっていくと思います。孤独と向き合う学生のよきサポーターであってほしいなと思います。

今のお話は生協で働いてくれている生協職員の方が聞くと、きっとものすごく心に響くと思います。私もこの4月に早稲田大学生協を訪れたのですが、全然人が歩いていませんでした。生協の職員さんは、これまで組合員を目の前にしていろいろな悩みなども聞きながら事業活動をしていましたが、この状態にもうどうしていいか分からないと言う方もいらっしゃいました。でも、やはり生協という場所が提供している価値は絶対にあるのだということが、今津田さんのお話から改めて分かりました。

頑張ってくださいと伝えてください。僕も早稲田の教員が3年任期で去年の3月に終わったので、生協の出資金を受け取りに行こうかと思ったのですが、コロナで生協も大変だというのを聞いたので、半分寄付みたいな感覚で結局そのお金を預けたままにしています。

ありがとうございます。早稲田大学生協の方にもお伝えします。