Reading for Pleasure No.57

英語の基礎力は「耳」から身につけよう

水野 邦太郎
 何事においても「基礎が大事」といわれます。それでは、英語を自分の言葉として使えるようになるための基礎力とは何でしょうか。その問いに対する答えは、とてもシンプルです。中学校3年間の英語検定教科書で使われている英文を、聞いてスラスラと分かることです。言い換えると、中学校の教科書で使われる単語と文法 (単語の使い方) を身につけることが英語の基礎力です。

 しかし、日本では中学校で出会った単語と文法が「定着」するように英語の授業をしている高校は、残念ながら多くありません。その結果、高校生の多くは「英語の基礎力」を身につけることなく大学に入学してきます。ここに、学校で英語を6年以上学んでも英語が話せるようにならない原因があるといっても過言ではありません。このような日本の英語教育が抱える課題に対して、私は大学で英語教育を担当する教員として、大学生が中学校の英語を楽しく学び直すためにはどのような授業ができるか試行錯誤しながらチャレンジしてきました。

 大学入学後の一般教育の英語の授業は、たいてい週に1回か2回です。そのような授業時間だけで「英語の基礎力」を身につけることはできません。そのため、学生一人ひとりが授業の時間外に中学3年間の検定教科書で学ぶ単語と文法にたくさん触れる必要があります。そこで、2023年新学期号の「Reading for Pleasure  No.53」では「Jaremaga」というメーリングリストを紹介しました。登録すると、日本の大学で英語を長く教えてこられた名古屋在住のアメリカ人、ジャレル(Jarell)先生が、月曜日から金曜日まで120 words くらいの短い英文を送信してくださります。ジャレル先生の日常生活の中での出来事をはじめ、日本や世界中で起きているニュースが取り上げられ、ジャレル先生のコメントが書かれてます。

 今回は「Jaremaga」に加え、さらにスマートフォンで気軽に中学校の英語を楽しく学び直せる「やさしく読める英語ニュース」(https://www.eigo-net.jp/easy_readings)を紹介します。ニュースを掲載しているのは一般財団法人英語教育協議会(ELEC)という機関です。国内外のニュースを毎月2回(隔週月曜日)、日本の英語教師や英語学習者のために掲載しています。ニュースは70words くらいの短い英文です。中学校で学ぶ単語以外の単語や固有名詞などは赤色で示され (以下の例では、イタリックで示す)、それらは「キーワード」欄で説明されています。英文は印刷でき、日本語訳がつけられていています。さらに、ニュースの音声を聴いたり、音声をMP3ファイルでダウンロードすることができます。

 例として、2023年のニュースを一つ紹介します。まず「キーワード」の意味を確認しましょう。その後、英文を読まないで、音声からニュースの内容(意味)を頭の中につくり出せるまで繰り返し聞きましょう。「耳」から中学校の英語を入れるところがポイントです。10回くらい聞いても意味がわからない箇所があれば、英文と日本語訳で意味を確認します。ニュースを100%理解したら、シャドイングをしましょう。つまり、音声を聴きながら同時に口から英文がついて出てくるまでひたすら繰り返し聴きましょう。「やさしく読める英語ニュース」は、大学生の知的好奇心に応えてくる国内外の面白いニュースを題材にして、耳から「英語の基礎力」を身につけることを支援してくれる素晴らしいサイトです。
 
【キーワード】
buzzword of the year 今年の流行語、come from 〜に由来する、avoid を避ける、title (=championship)優勝、out loud はっきりと・公然と、jinx 不運をもたらす、台無しにする、adopt 採用する、stand for 〜を表す、empower 権限(力)をつける
 
2023’s buzzword of the year is “A.R.E.”
The top buzzword of the year for 2023 is “A.R.E.” The word comes from the Japanese word “are,” which means “that.” The Hanshin Tigers pro baseball team began using “are” to avoid saying “the Central League titleout loud. They were afraid it would jinx their chances of winning. Team manager Akinobu Okada adopted “A.R.E.” as the team’s slogan for this season, which stands for Aim, Respect and Empower.

2023年流行語大賞の年間大賞は「アレ」
 今年の新語・流行語大賞の年間大賞に「アレ(A.R.E)」が選ばれた。「アレ」はthatを意味する日本語の「あれ」に由来する。プロ野球の阪神タイガースは「セ・リーグ優勝」を声に出して言うのを避け、「アレ」を使い始めた。口に出すことで勝利を逃してしまうことを恐れたからだ。岡田彰布監督は、英語の「Aim(目標)」「Respect(敬意)」「Empower(力をつける)」の頭文字を表すこの言葉を今シーズンのスローガンに採用していた。

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P r o f i l e

水野 邦太郎(みずの・くにたろう)

千葉県出身。神戸女子大学文学部教授。博士(九州大学 学位論文.(2017).「Graded Readers の読書を通して「主体的・対話的で深い学び」を実現するための理論的考察 ― H. G. Widdowson の Capacity 論を軸として ―」)。茨城大学 大学教育センター 総合英語教育部准教授、福岡県立大学人間社会学部准教授、江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授を経て、2022年4月より現職。

専門は英語教育学。特に、コンピュータを活用した認知的アプローチ(語彙・文法学習)と社会文化的アプローチ(学びの共同体創り)の理論と実践。コンピュータ利用教育学会 学会賞・論文賞(2007)。外国語教育メディア学会 学会賞・教材開発(システム)賞 (2010)。筆者監修の本に『大学生になったら洋書を読もう』(アルク)がある。最新刊『英語教育におけるGraded Readersの文化的・教育的価値の考察』(くろしお出版)は、2020年度 日本英語コミュニケーション学会 学会賞・学術賞を受賞。

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