「怖い作品」と聞いて、どんなものが思い浮かびますか。ゾンビが地面からわらわら出てくる作品でしょうか。それとも、テレビ画面から髪の長い女の人が出てくる作品でしょうか。所謂ホラー作品には、幽霊などの「この世の者ではない存在」がよく登場しますよね。たしかに正体不明で見た目が恐ろしい幽霊は、怖いです。ですが、本当に怖いのは、生きている人間なのではないでしょうか。
人間は怖いです。「わたし、ふつうですよ。人に危害なんて加えませんよ」といった顔をして、この世界に紛れています。そして飄々とした顔で、とんでもないことをしたりするのです。
今回は、人間が怖いということをたっぷり感じることができる作品をご紹介します。ぜひ、人間の怖さ、感じてください。
『ミッドサマー』
(原題:Midsommar)
(2019 アメリカ合衆国・
スウェーデン)
『
ミッドサマー』は、北欧の奥地にあるホルガ村で行われる「90年に一度の祝祭」が描かれた作品です。ホルガ村の住人ではない大学生たちが祝祭にお呼ばれするのですが、そこで様々な恐ろしい儀式を目にすることになります。所謂カルト映画で、閉じたコミュニティの狂気と因習の恐ろしさを感じることができます。
人間は集団になると、なぜかおかしくなってしまうことがありますが、それはなぜなのでしょうね。その集団で生活をしているうちに、ゆっくりじわじわと洗脳されていくのでしょうか。ですが洗脳され切ってしまえば、むしろ幸福なのかもしれませんね。自分でなにも考えなくて良いのですから。集団の決まりに従っていれば、ひとりぼっちになることもないのですから。……とはいえ、そのような状態になりたいとはまったくもって思いませんが。
また『ミッドサマー』はホラー映画であるのにもかかわらず、終始画面が明るいところも特徴です。祝祭が行われるのは白夜の時期で、太陽が沈まないため、目をそむけたくなるような儀式が行われるのは常に明るい場所なのです。豊かな自然の緑と、ホルガ村の人々が身に着けている白い衣装のコントラストも、どこかおとぎ話の世界のよう。なんだか残酷な白昼夢を見ているかのような、不思議な感覚を連れてきてくれる映画でした。
少々残酷でグロテスクなシーンがあるので、見る人を選んでしまうかもしれません。ですが、因習にとらわれた集団の恐ろしさと明るい狂気を感じたい方は、ぜひご覧になってみてください。
『エスター』
(原題:Orphan)
(2009年 アメリカ合衆国)
人間は外見だけではその本質を判断することができないものです。あなたも、わたしも、あの人も、●●であるように見えて、実は……?
『エスター』は、とある家族が孤児院からエスターという名前の女の子を引き取るところから物語がはじまります。一見賢くて大人びた少女であるエスターが家に来てからというもの、家族の周囲で不可解な出来事が起こりはじめるのです。そして次第に、エスターの正体が明らかになっていきます。
『エスター』は狂気をはらんだ悲しい物語。身体的特徴のせいで、自分が生きたいように生きることができないというのは、何と辛く悲しいことでしょう。人間のエゴ、狂気、そして悲しさに触れることができる素敵な作品、一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。
恩田陸
『私の家では何も起こらない』
角川文庫 定価616円(税込)購入はこちら >
『私の家では何も起こらない』(恩田陸/角川文庫)は、主人公の女性が暮らしている古い洋館にまつわる、過去の不可解な出来事の数々が描かれている作品です。過去には色々あったようですが、主人公が暮らしているときには、タイトル通り何も起こりません。何も起こらないからこそ、これから何かが起こりそうな……そんな「予感」が連れてくる、じんわりとした怖さがあります。
不可解な出来事の数々は人間が起こしたものでありながらもどこかファンタジックな雰囲気で、不思議な懐かしさも感じさせます。大人向けの童話や昔話のような印象を受けました。どっしりとした古い洋館が、どのような出来事もすべて包み込んでくれているからこそ、そのような雰囲気が生まれているのでしょうか。
心に静かに染み込んでくるような人間の怖さを感じたいときに、読みたい一冊です。
執筆者紹介
門脇みなみ(かどわき・みなみ)
いずみ卒業生。人間には気を付けましょう。
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