読書で世界一周⑥

日本人作家による海外が舞台の小説

 

『テスカトリポカ』

佐藤究
『テスカトリポカ』
角川文庫 定価1188円(税込) 購入はこちら >※6月13日発売

佐藤究 
『幽玄F』
河出書房新社 定価1870円(税込) 購入はこちら >

 第165回直木賞を受賞した本作。言わずと知れた超話題作ですが、6月に文庫化されるこの機会に是非紹介させてくださいませ。
とはいえ、南米での麻薬抗争に、臓器売買なども絡み、バイオレンスなシーンも多いヘビーな内容の本作。それゆえ、受賞の事実自体、私はいまだに信じられません!
 しかしながら、直木賞受賞作の中では、ズバ抜けて面白い本作。メキシコ、インドネシア、日本を舞台とし、まさかの川崎でアステカ信仰が復活!?といった展開でも違和感はなし。グロ系が苦手な私でも、550ページ一気に読みました。前回紹介した『マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行』の著者芝崎みゆきさんの著書も本作の参考文献にあがっていますので、併せて読んでみてください。
 くわえて、23年秋に刊行された佐藤究さんの新作『幽玄F』。「G(重力加速度)」に取り憑かれ、航空宇宙自衛隊員となるも、予想外の状況に陥った主人公。舞台は、タイ、バングラディシュに変わりながら、さらに戦闘機にのめりこんでいき……、というストーリーで、『テスカトリポカ』よりソフトながらも、ページ数以上の読みごたえがあります。
 

 

『ヒトコブラクダ層戦争 上・下』

万城目学
『ヒトコブラクダ層戦争 上・下』
幻冬舎文庫 定価(各)957円(税込み) 購入はこちら >

 万城目学さんが登場した前回号で紹介したかった本作。デビュー作である『鴨川ホルモ―』の時から、その奇想天外なストーリーには衝撃を受けておりましたが、本作にも期待以上に楽しませてもらいました。
 梵天、梵地、梵人という名の特殊能力を持つ三つ子の三兄弟が、泥棒、自衛隊入隊、恐竜の骨の発掘に関わりながら、舞台は、中東メソポタミアにも及び、大奮闘。
 一見奇抜ではありますが、メソポタミア文明については、しっかり勉強でき、文庫上下巻合わせて1000ページ以上の長編ですが、あっという間でした。だからこそ、学んだつもりになった知識もすべて抜けるくらい、ストーリーに没入していました。
 

 

おまけ 『イラク水滸伝』

高野秀行
『イラク水滸伝』
文藝春秋 定価2420円(税込) 購入はこちら >

『ヒトコブ~』と同時期に読んだこともあり、中東への理解が深まりました。著者は、日本ではまだまだ情報が少ないイラクの中でも更に未知の湿地帯に足を踏み入れた冒険家でおなじみの高野秀行さん。
 イラク情勢やその背景だけではなく未知の織物も紹介され大変興味深かったです。
 
執筆者PROFILE
重松 理恵(しげまつ・りえ)
 大学生協職員。広島大学、東京大学、名古屋大学生協など各大学生協での書籍担当者を経て、現在、大学生協事業連合書籍商品課に在籍。著書に『東大生の本の使い方』(三笠書房)、最新刊は『読んで、旅する 海外文学』(大月書店)。


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