今回から3号にわけて、第19回全国読書マラソン・コメント大賞でナイスランナー賞に選ばれた作品をピックアップしてご紹介します。夏休みにじっくり読んでほしい本を取り揃えました。
※178号冊子版でご紹介したナイスランナー賞2点とあわせて、今回は22点ご紹介します。
ナイスランナー賞
- 『増補 責任という虚構』
小坂井敏晶/ちくま学芸文庫購入はこちら >私たちは何気なく「責任を取らないといけない」なんていう風に、責任という確固たるものが存在することを前提にして話をする。けれど、責任ってもっと漠然としたものなんじゃないの? という問いを突き詰めたのがこの本。議論はナチスの責任から自由意志の存在の可否まで幅広く、しかもそれらは議論の主題の、責任とは何かという問いから逸れることなく、私たちに切実な問いを投げかけ続ける。「社会人としての責任が……」と近く言われることになる私たちにとって、その言葉をもっと丁寧に見つめることができるようになる本だ。
(東京外国語大学/森まいさん)
- 『二十世紀旗手』
太宰治/新潮文庫購入はこちら >なぜ太宰の文はこんなにも悲しみを帯びているのか考えていた。全然押し付けがましくない悲しみの感情が文の端々に隠れている。思うに、世界を私以上に色眼鏡なしで捉えられているのだろう。この世界は私が思っているよりもずっと儚くて、痛々しくて、どうしようもないほどにまっすぐなのだろう。それが苦しいのだろう。見方を変えるだけで世界は少しだけ静かに、ほんの少しだけ、温度が低くなる。息をのむってきっと、こういうことなんじゃないかしら、と。
(名古屋市立大学/ctrl+zさん)
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『月の裏側』
恩田陸/幻冬舎文庫購入はこちら > 「盗まれる」。この言葉を見て何を思い浮かべるだろうか。泥棒か誘拐か、はたまた魚をくわえた猫のことを思い浮かべる人もいるかもしれない。この本では「盗まれる」という言葉が何度も出て来るが、読み進めていくことで、徐々にこの言葉の意味を知ることが出来る。是非、背後からひたひたと恐怖が迫ってくる感覚を感じてほしい。また、要所要所で文字が太字になっており、強調されている。この強調部分からは得体の知れない圧迫感を感じられて、更に恐怖感を煽られる。じわじわと怖さを感じたい人におすすめの一冊だ。
(山形大学/真夏)
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『普通のノウル』
イ・ヒヨン〈山岸由佳=訳〉/評論社購入はこちら > 世の中は1+1=2のようにはっきりと答えがあるわけではない。ただ、正解がない曖昧さに慣れなくて、正解を求めてしまう。この生き方が正解だと思うと、それ以外の生き方は“間違い”だと考えてしまう。ただ“違う”だけなのに。私は、人生を学校のテストの延長線のように考え、正解を求めすぎていたと感じさせられた。ただ、普通に生きていきたい。しかし、普通とは何か。他者の思う普通と私の思う普通は同じなのか。そもそも、普通に生きることが正解なのか。自分や他者の生き方について考えさせられた本であった。
(東邦大学/豆桜)
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『82年生まれ、キム・ジヨン』
チョ・ナムジュ〈斎藤真理子=訳〉/ちくま文庫購入はこちら > 興味深くおもしろかった。が、女性としてはおもしろくなかった。電車の中でさえ、時折眉間にしわを寄せながら読んだ。それほど怒りの感情がわいていたのに、結局何を感じ、何を他人に伝えたいのかと自問したとき、言葉が見つからなかった。私は女性差別に怒りながら女性差別を糾弾する言葉を持っていないことを知った。嫌だ、やめてほしい、と珍しく強い気持ちを持ち自覚しているのにもかかわらず、他人に明確に主張できない状態だったのだ。自分の持つ怒りが全くもって言語化できていないと気づけたことがこの本を読んでよかった最大の理由だ。
(早稲田大学/焙煎)
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『奇病庭園』
川野芽生/文藝春秋購入はこちら > 「角を生やしたのはいずれも、生の終わりにさしかかった老人たちだった」
様々な変化、翼や鉤爪や鱗が生えてきた人間たちの物語が、それぞれこんな書き出しで始まれば、わくわくしない人はいないのではないだろうか? 「奇病」という言葉で語られるある種おとぎ話のような様々な変化を歌人でもある著者の感性の乗った言葉で書きあげられており、「一体どうやってこんな発想を得られるんだ」と思わされるほどのバリエーションに富んだ表現に引き込まれる。最初はバラバラに語られていたはずの「奇病」が畳みかけられていくうちに、1つの物語として終息していくのは圧巻だった。
(東京学芸大学/かりんとう)
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『スカイ・クロラ』
森博嗣/中公文庫購入はこちら > このままページを切り取って鏡の横にでも飾っておきたい。そう思えるほど空中戦の場面の文体は軽やかで美しかった。まるで詩のようだ。しかしそれは空の上の幻想だった。永遠に子供のパイロット「僕」は地上に興味を持てない。そのため彼の日常は非常に淡泊な文体で描かれる。SFであるのに情報が少ない。退屈だ。
と、これが初めの私の感想。だが考察を重ねる程に“退屈”な文章の奥にある物語の厚みに気がついた。大人になるとは、それは理由をたくさん用意することだと「僕」は言う。二年後に読み返したとき私は何を感じるだろうか。
(信州大学/心陽菜紫)
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『六人の噓つきな大学生』
浅倉秋成/角川文庫購入はこちら > 「完全な善人」「完全な悪人」はいるのだろうか? 「嘘」が明らかになるたびに登場人物一人ひとりに対する印象が二転三転した。
私は見事に作者の術中にハマっていた。
あなたは一面を見ただけで人のことをわかった気になっていないだろうか?
「募金箱にお金を入れたからいい人」
「信号無視したから悪い人」
「ゴミを道ばたにポイ捨てしたから悪い人」
「確かに」と思った人はこの本をぜひ読んでほしい。
ネガティブな感情を抱いた時は「この人なりの事情があるのかもしれない」と穏やかな気持ちを持ちたいと思う。
(名古屋工業大学/ポンデ)
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『サエズリ図書館のワルツさん 1』
紅玉いづき/創元推理文庫購入はこちら > 初めて本を読んだとき、初めて図書館に行ったときを私は覚えていない。別に記念すべきときではなかったからだ。本は簡単に手に入り、本がある風景は私たちにとっては日常だ。しかし、ワルツさんの住む世界は違う。紙の本はとても貴重で、一般人にはなじみがない。だから人々は求める、一冊の本との出会いを。だから人々は大切にする、一冊の本に込められた想いを。本はたくさんあるから一冊くらい……そんなことはない。一冊に込められた想いはどれも素晴らしく、大切だ。私は本を大切にできているのだろうか。
(名古屋大学大学院/常磐)
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『この夏の星を見る』
辻村深月/KADOKAWA購入はこちら > この小説を読み終えたとき、私はとても後悔しました。コロナウイルスの拡大で学校に行けなくなったとき、その【当たり前ではない日常を素直に受け入れてしまった】ことに。「何か始めたい」なんて言えない世の中だったとは思います。でも、亜紗たちのように、【今できること】に全力で取り組めば良かった……。そんな後悔と、コロナ渦の日常を当たり前にした世の中への怒りを代弁してくれた本です。
また、この本から見える星々はどこか力強いパワーを秘めています。悔しい思いをしてきた学生達へ。ぜひ手に取ってみてください。
(立命館大学/桜草)
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『蠅の王』
ウィリアム・ゴールディング
〈平井正穂=訳〉/新潮文庫購入はこちら > 秩序と混沌。どちらが、いやどちらも人間の本質だろう。読めば読むほど、徐々に狂気に侵される無人島。しかし、結末を変えるための改善点が浮き彫りになっていく。ビギーは火の番をするべきだったし、隊長はラーフではなくサイモンにするべきだった。自分のしたことから目を逸らさず相手のことを尊重するべきだった。これは警告ではないだろうか。理性に満ちた社会でも蛮行と狂気にあふれた社会になり得るという警告なのだと。多感な時期にぜひ手に取ってもらいたい一冊だ。
(西南学院大学/でんしじしょ)
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『旅猫リポート』
有川浩/講談社文庫購入はこちら > 映画から知った名作を読んだ。本を読んで初めて泣いた作品になった。「旅猫リポート」という題名から猫が関わる物語であることはわかるだろう。主人公のサトルと元野良猫で飼い猫のナナのそれぞれ視点で話が進み、読み進めていけばいくほどお互いの存在がどれほど大事であるのか。旅でサトルとナナが再会する人たちに与える心情の変化にも目が離せない。猫やペットを飼っている人はもちろん、本を読むのが得意ではない人にもおすすめしたい。
(札幌大学/猫)
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『君のクイズ』
小川哲/朝日新聞出版購入はこちら > クイズとは人生である。自分の人生経験から答えを導きだす。私が「この本を読む」という答えを出した道筋を主人公・三島のように遡ってみたい。高校時代からの友人から面白いとすすめられた→彼女とは『夜は短し歩けよ乙女』の映画を観に行ってから二人で遊ぶ仲になった→ビブリオバトルの動画を観たときに森見登美彦さんの本が紹介されていた→高校のビブリオバトル企画に参加した。大学4年生でこの本を手に取ったきっかけは、高校時代、いやもっと先にある。私の人生が広がっていく。私の耳元で「ピンポン」という音が鳴った気がした。
(慶應義塾大学/みどりのいえ)
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『電車のなかで本を読む』
島田潤一郎/青春出版社購入はこちら > いつからだろうか、本を読まなくなっていた。それなのに、この本を読んだ後には良い本とたくさん巡り合いたくなった。「一冊の本との出会いというのは、たとえるなら、ひとりの人との出会い」。だから、私たちは本を求めるのだ。たくさん個性がある他者と巡り合うように、たくさんの本と出会いたい。小さい頃の知りたい、という気持ちを持ち続けられていたら、世界がぐんと広がると思う。そして今からでも捨ててしまったその気持ちを、拾うことができる。それに気づかせてくれるこの本は出会いの場所であると言えるのだと思う。
(早稲田大学/すが)
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『i』
西加奈子/ポプラ文庫購入はこちら > 人から「考えすぎ」とよく言われる。その言葉に苦しんできた自分を、この本は認めてくれた。世界で悲しいニュースがあっても行動できないことを、それを恥じることなく、深く考える時間もきちんと過ごせと言った。漠然としていた自分の苦しさが少し和らいだ気がした。そして、世界で何が起きているか、もっと知りたいと思った。
(法政大学/一人称迷語)
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『ユア・プレゼント』
青山美智子〈U一ku=絵〉/PHP研究所購入はこちら > 1つ1つの言葉が勇気と希望を与えてくれる、心があたたかくなる本です。「どんなことがあっても、あなたはあなたのままでいいんだよ」と背中を押してくれるようなメッセージがたくさん込められています。この本に出会えて本当に良かったです!!
(松山大学/ここ)
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『私は日本狼アレルギーかもしれないが
もう分からない』
田中有芽子/左右社購入はこちら > 「自由な発想」って、このことか。と思わされる。絶滅した日本狼を想うとき、「アレルギー」といういかにも現代で、ちょっとマイナスなものを見出すだろうか。「深夜徘徊」「補導」の文字に「星座早見表」を繋げようと考えるだろうか。言葉の使い方、物の見方、もしかしたら住んでいる世界も実は違うのかもしれない。何かが少し怖い、しかし目が離せない、驚きとユーモアと時々に人生を感じる歌集である。美しい言葉の技術と、ここにしかない世界観をぜひ味わってみてほしい。
(名古屋市立大学/ゆば)
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『ガザに地下鉄が走る日』
岡真理/みすず書房購入はこちら > 2023年10月7日からのハマスの攻撃によって始まった、ハマスとイスラエルの間での戦闘。偶然目にしたこの本を読む前、そのことは、日本で平和に暮らしている私にとってあまりにも遠い出来事だった。イスラエルが攻撃しているガザがどのような場所で、どんな人が、どんな状況で、どんな表情をして暮らしているかなど考えたこともなかった。しかし、何十年もガザを追ってきた著者によるリアリティのある描写に満ちた本書を読んだ後、私にとって今遠い異国の地で起きている戦闘と、そこで血を流している人の存在は無視できないものになった。
(早稲田大学/ゆう)
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『(新版)馬車が買いたい!』
鹿島茂/白水社購入はこちら > まず、タイトルに惹かれた。馬車を買いたいかはともかく、ロマンを感じるのは私だけではないはずだ。しかし、馬車になじみのない現代人は、馬車という言葉で一括りにしてしまい、長い翻訳名を読み飛ばしてしまう。本書を読むと、その中に詰まっている多様な世界に驚かされる。そもそも、馬車にたくさんの種類があることが驚きだ。馬車には、用途、使用者の性格、身分といった情報が詰まっている。そして、その違いが生まれた時代的背景まで解説する。翻訳小説の見方が変わる作品であり、かつ、この本だけでも楽しめる作品だ。
(九州大学/匿名)
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『影響力の武器
〔なぜ、人は動かされるのか〕』
ロバート・B・チャルディーニ
〈社会行動研究会=訳〉/誠信書房購入はこちら > 尊敬する友人の家にあったから読んだ。そんな恰好がつかない理由で手に取ったこの本に私が手に取った理由が記されていた。私たちの選択や行動は、パターン化ができて、何かに影響を受けている。それらはネガティブなことではない。影響力という名の武器である。影響力に動かされるだけでなく、影響力で動かす。人が人に影響を及ぼしあっている現代において、なぜ、人は動かされるのか。この本を読み終えたとき、私の文頭の現象を説明できるかもしれない。恰好つかない理由ではあるが、私は、「尊敬する友人の家にあったから読んだ」のだ。
(名古屋大学/しゅん)
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