名古屋大学6年生 後藤万由子
3月某日
東京に病院見学に行った。前日に泊まることになったため、せっかくなら、と渋谷で聖地巡礼をすることにした。
病院までの道の下見を終えると、雨が降る中、宮益坂に向かった。春とはいえ、3月初旬の夜の雨は冷たかった。道路は多く車が走り、歩道は道を急ぐ人でごった返していた。目的の坂に辿り着くと、生垣にポツンと「宮益坂」と書かれた石碑が立っていた。誰も目をくれず足早に通り過ぎる中、何の変哲もない石碑は妙に存在感があった。昨年の11月も訪れたが、変わっていなかった。加藤周一の過ごした渋谷の聖地巡礼は、これが2回目であった。
加藤さんの家跡の近くにある、坂の途中の御嶽神社を参ると、本人の通った小学校への道を目指した。100年ほど前の渋谷は今と全く違うのだろうが、加藤さんと同じ場所を歩いている、と思うと不思議な感覚になった。通学路は道が狭く曲がりくねり、両脇には家が所狭しと並んでいた。金王八幡宮は、その中に突然現れた小さな森のようだった。灯籠の光に照らされた拝殿は鮮やかに赤く、住宅街の中で、そこだけ切り離された世界のようだった。前回は昼間だったが、夜の神社もなかなかによかった。『
羊の歌』(岩波新書)を家に忘れたことを後悔した。次は持ってこよう。東京といえば、『銀の匙』(中勘助/新潮文庫)ももう一度読みたいな。
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3月某日
大阪に病院見学に行った。前日に泊まったのは、大阪上本町だった。ここが『
細雪』(新潮文庫)の本家があったところか、としみじみと思った。私のようなセッカチ人間からすると、文章ひとつとっても緩やかに長いのや、上方式(?)の悠長な空気には少しイラッとする。が、なんだかんだ読み出すと止まらないし、関西弁の優美な響きにあてられるのは嫌いではない。ところで、『阿修羅のごとく』(文春文庫)といい『細雪』といい、どうして四姉妹なんだろう。あと、「結婚するとシミが治る」ってなんなんだ一体……。
4月には6年生になり、卒業試験やマッチング(医学部の就職活動)が始まるが、次は兵庫の芦屋にも行きたいな。あとは東京の神田にも。
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千葉大学4年生 高津咲希
4月上旬
満開の桜が青空に映える。上野公園は、お花見を楽しむ人々でにぎわっている。
東京都美術館開催の「印象派展」へ行った。モネの「睡蓮」、ルノワール……印象派の画家たちは、ものの輪郭を捉えるのではなく、光の揺らめきや空気の流れを再現しようとしたそうだ。
ハッサムの「花摘み、フランス式庭園にて」が心に残った。木漏れ日を揺らす、さわやかな風。季節は初夏だろうか。そっと目をつむって深呼吸……。まるで庭園にいるかのような気持ちになる。やはり実際に展覧会で見る絵の迫力は格別だ。
鑑賞後、近くのカフェで抹茶ソフトクリームを食べた。あ~美味しい! やっぱり花より団子かな!?
帰宅後、『
印象派で「近代」を読む 光のモネから、ゴッホの闇へ』(中野京子/NHK出版新書)を読んだ。
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4月下旬
神保町にある子供の本専門店へ行った。一万冊以上の絵本を扱う店内には、カフェや個展が開催されるスペースもあり、老若男女で賑わっている。店の前では二階の劇場で始まるショーに先立ち、クラウンたちがコミカルなパフォーマンスで道行く人を楽しませていた。
「こんとあき」、「おしいれのぼうけん」、「わたしのワンピース」……懐かしい絵本も並んでいる。『
字のないはがき』(角田光代=作、西加奈子=絵、向田邦子=原作/小学館)は小学生の頃、国語の教材で読んで印象に残っている作品が絵本化されたもの。絵とシンプルな言葉。シンプルだからこそ奥深い言葉。絵本っていいな。
神保町の古書店街を歩いた。古書店にも自然科学の専門店、演劇や映画に特化した店など様々。古書店街から明大通りを抜けて御茶ノ水駅に到着。電車で「ちひろ美術館」へ向かった。
いわさきちひろさんの住宅兼アトリエ跡に建てられた可愛らしい小さな庭のある赤い建物。世界で初めての絵本美術館だ。
『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子/講談社)の装画で知られる「こげ茶色の帽子の少女」という絵は、黒柳徹子さんがちひろさんの死後、彼女の遺した作品の中から選んだのだそう。
『
おにたのぼうし』(あまんきみこ=作、いわさきちひろ=絵/ポプラ社)からも、ちひろさんが自然やこどもたちに注ぐやさしい眼差しが伝わってくる。おにたの「おにだって、いろいろあるのに。おにだって……」という台詞にきゅっと胸が締め付けられた。