
齊藤ゆずか
8月某日、私は京都市京セラ美術館を訪れた。平安神宮や図書館・美術館などの文化施設が集まる岡崎エリアに位置し、よく晴れた休日の昼下がり、美術館の周囲は人でにぎわっている。
1933年に建てられ、現存する公立美術館の中ではもっとも古い建築だという。複数の企画展や常設展が同時開催されているが、2020年に大規模な改修を行い誕生した新館「東山キューブ」へ向かう。
光がよく差し込む館内をまっすぐ進むと、吹き抜けの開放的な中央ホールが現れる。温かみのある白色の壁と木の床が美しく、思わず立ち止まる。2階へと続く螺旋階段が存在感を放っている。ホールを抜けると、ガラス窓の向こうに日本庭園が見える。そこにそびえるのは、黄金に輝く巨大な彫刻作品。花をかたどった顔に笑みを浮かべて立つ親子の像で、東山キューブで開催中(9月1日で終了)の「村上隆 もののけ 京都」展で個展を開催中の作家・村上隆の「お花の親子」である。
展覧会には国内外から観客が訪れていた。黄金の背景を用いた作品が多く、そこへ村上版の「洛中洛外図」や、ポップでカラフル、不思議なキャラクターたちが描かれている。
大きな作品の前に立つと、全体を眺めることはできない。どこか一部を見てから、首を回したり離れたりして、他の部分の見え方を確かめる。ほかの人の肩越しに作品をのぞくこともある。まるで、突然空から舞い降りて来た物体に、おそるおそる対峙しているような感覚。遠くから見たときにはわからなかったけれど、一色に見えていたところに模様が入っている。円を重ねるようにして描かれた瞳の多くが左右非対称だ。発見するたびに、この展覧会という世界のことを少しずつわかっていく。
ところどころの作品に作家・村上隆のメッセージが残され、創作や展覧会への思いが読み取れる。作家が展示方法や構成に携わるのは、現代アートの個展ならでは。
私が美術館に行くようになったのは、大学生になってからだった。最初は空間にぽつぽつと置かれた作品をどうたどれば良いのか戸惑っていた。どの作品の前でどのくらい立ち止まるのか、それぞれの作品をどこから眺めるのかは、観客に委ねられている。しかしそれは、読書で感じる自由にも似ている。自分の声が聞こえてくる。アートの世界を泳ぐことができる場所としての美術館に、ぜひ足を運んでみてほしい。
美術館情報

京都市京セラ美術館
京都市左京区岡崎円勝寺町124
開館時間●10:00~18:00
休館日●月曜日(祝・休日は開館)、12月28日~1月2日
鑑賞料金●企画展は展示ごとに異なる。コレクションルームは一般料金が京都市在住者は520円、市外在住者は730円。