本誌秋号のテーマが「手紙」であることを知ったとき、すぐにある絵本が思い浮かびました。タイトルは、
Badger’s parting gifts 「アナグマの別れの贈り物」 です。日本語訳の『わすれられないおくりもの』は小学校の教科書にも採用されてきたので、この物語を読んだ思い出がある読者の方もいることでしょう。
アナグマは賢くて、いつもアナグマのいろいろな友だちに頼りにされています。知らないことはないというぐらいもの知りで、こまっている友だちは、だれでも助けてあげます。アナグマはとても年をとっているので、自分の命がもうすぐ尽きることを知っていました。そして「死ぬ」ことを、Dying meant only that he would leave his body behind. と捉えていました。すなわち、死んで身体がなくなっても、自分のことは友達の心の中にずっとずっと残り続け、つながっていくという考えをもっていました。
アナグマはある夜、地下の部屋にゆっくり下りていきます。そこでは、暖炉がもえています。机に向かい、手紙を書きました。そして、不思議な、でもすばらしい夢を見たのです。目の前に続く長いトンネルをどんどん進んでいくと、ふっと地面から浮き上がったような気がし、アナグマは、すっかり、自由になったと感じました。まるで、身体がなくなってしまったようなのです。
次の日、アナグマの家に友達がみんな集まります。Fox broke the sad news that Badger was dead and read Badger’s note to them.It said simply, “Gone down the Long Tunnel. Bye Bye, Badger.”
アナグマが森のみんなに書いた手紙には「長いトンネルの向こうに行くよ。さようなら、アナグマより」と書かれてありました。
森のみんなはアナグマをとても愛していたので、悲しまないものはいませんでした。かけがえのない友を失い、その現実と動物たちはどのように向き合い乗り越えていくのでしょうか。動物たちは互いに行き来しては、アナグマの思い出を語り合うようになります。たとえば、カエルはアナグマのおかげでスケートが得意になれたことを次のように話しました。
Frog was an excellent skater. He recalled how Badger had helped him take his first slippery steps on the ice. Badger had gently guided him across the ice until he had gained enough confidence to glide out on his own.
モグラやキツネも、カエルと同じようにアナグマと過ごした大切な時間を思い出し仲間に語ります。そして、動物たちは次のことに気がつきます。
Each of the animals had a special memory of Badger「それぞれの動物たちはアナグマとの特別な思い出を持っていました」-something he had taught them that they could now do extremely well. 「-アナグマが教えてくれたことで、今では非常に上手にできるようになったことです」。He had given them each something to treasure「アナグマはそれぞれの動物に、宝物となるものを与えてくれました」。: a parting gift that would become all the more special each time it was passed onto others. 「それは他の誰かに伝えるたびに、ますます特別なものとなる贈り物でした」。
この物語を読みながら、みなさんはそれぞれの人生を振り返り、今の自分があるのは様々な人たちのおかげであることに思いを馳せることでしょう。
アナグマは仲間への手紙に「長いトンネルの向こうに行くよ、さようなら」と書きました。トンネルの向こう側とこちら側で「お互いの思いがつながっている」ことの大切さを、この絵本は静かに語りかけています。この物語との出会いが『読書のいずみ』の読者の皆さんにとってかけがえのないものとなりますよう、願っております。
今回ご紹介の本
Susan Varley
Badger's Parting Gifts
Andersen Press
ISBN:9781849395144購入はこちら >
スーザン・バーレイ〈小川 仁央=訳〉
『わすれられないおくりもの』
評論社/定価1,320円(税込)購入はこちら >
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P r o f i l e
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水野 邦太郎(みずの・くにたろう)
千葉県出身。神戸女子大学文学部教授。博士(九州大学 学位論文.(2017).「Graded Readers の読書を通して「主体的・対話的で深い学び」を実現するための理論的考察 ― H. G. Widdowson の Capacity 論を軸として ―」)。茨城大学 大学教育センター 総合英語教育部准教授、福岡県立大学人間社会学部准教授、江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授を経て、2022年4月より現職。
専門は英語教育学。特に、コンピュータを活用した認知的アプローチ(語彙・文法学習)と社会文化的アプローチ(学びの共同体創り)の理論と実践。コンピュータ利用教育学会 学会賞・論文賞(2007)。外国語教育メディア学会 学会賞・教材開発(システム)賞 (2010)。筆者監修の本に『大学生になったら洋書を読もう』(アルク)がある。最新刊『英語教育におけるGraded Readersの文化的・教育的価値の考察』(くろしお出版)は、2020年度 日本英語コミュニケーション学会 学会賞・学術賞を受賞。
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