「海外ミステリー プラスα」編
ノーベル文学賞の発表がある秋。海外文学を読むのに最適な今の季節に、読みやすい海外ミステリー+αを紹介します。
『ボタニストの殺人』
本作は、『ストーンサークルの殺人』で、英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールド・ダガーを2018年に受賞した著者による〈刑事ワシントン・ポー〉シリーズ待望の第5作目です。
「いきなり、シリーズの5作目!?」と思われるかもしれませんが、実は私も著者や前作を知らないまま読んだところ、あまりにもスラスラ読むことができ、大変驚きました。翻訳作品は、回りくどさやページ数が多いイメージもあり、苦手な方もいるかもしれませんが、本シリーズならこの秋の夜長に挑戦する海外文学としては、ぴったりではないでしょうか。
犯人に狙われると、押し花とちょっとしたポエムが届き、時には密室で起こる複数の殺人。一方、父親の殺人容疑で逮捕された親友のためにも奔走する主人公のワシントン・ポー刑事。犯人の標的となった人物の共通点や、二つの事件の真犯人、そして、事件の謎を解く鍵とは何か? 本作に取り入れられている世界的な社会問題についても、考えながら読むと一層楽しめます。
『炒飯狙撃手』
張國立〈玉田誠=訳〉
『炒飯狙撃手』
ハーパーBOOKS 定価1,390円(税込) 購入はこちら >
完全にタイトルが気になり、手にとった作品です。とはいえ、中身は、タイトルの喜劇感を覆す、アクション&警察小説になっていました。定年退職を12日後に控えた刑事が、台湾で起こった軍関係者の殺人事件とイタリアでも同時発生した台湾要人狙撃事件とそのスナイパーに迫ります。
イタリア&ヨーロッパの各地、台湾と舞台も変わりつつ、次々に明らかになるスナイパーの生い立ちや事件の全貌。果たして、台湾とイタリアでの殺人事件を抱える刑事は、事件を解決して、無事定年退職できるのか。
こちらも、とても読みやすい翻訳小説でしたので、この秋は、是非中華ミステリーも味わってみて下さい。
おまけ『台湾漫遊鉄道のふたり』
楊 双子〈三浦裕子=訳〉
『台湾漫遊鉄道のふたり』
中央公論新社 定価2,200円(税込) 購入はこちら >
台湾が舞台の作品といえば、24年に日本翻訳大賞受賞の本作。1938年5月の台湾が舞台にもかかわらず、古臭さを全く感じさせない、とにかくおいしそうな台湾のグルメの数々と台湾の様子。そして、日本統治下の台湾と日本における日本人作家と台湾通訳者、女性二人の微妙な関係性の描写は秀逸です。しかしながら、実はこの作品にはすっかりだまされていたのです!
執筆者PROFILE
重松 理恵(しげまつ・りえ)
大学生協職員。広島大学、東京大学、名古屋大学生協など各大学生協での書籍担当者を経て、現在、大学生協事業連合書籍商品課に在籍。著書に『東大生の本の使い方』(三笠書房)、最新刊は『読んで、旅する 海外文学』(大月書店)。