気になる!美術館巡り

 
 私が美術館巡りに興味を持ったのは、大学2年生の頃。原田マハさんとヤマザキマリさんの対談本『妄想美術館』(原田マハ、ヤマザキマリ/SB新書)を読んだことがきっかけだ。幼い頃に観た怖い絵の思い出やお気に入りの美術館について語ったり、ルネサンス期の画家と現代の漫画家を比べてみたり、自分が美術館の館長になるならどんな絵を展示したいか妄想したり……と様々な角度から自由にアートを語るお二人の熱量に引き込まれた。
 そして『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(川内有緒/集英社インターナショナル)も美術館巡りの面白さを教えてくれた印象深い一冊。同じ作品を鑑賞しても、何を感じるかは人それぞれ。誰かと絵の感想を共有することで新たな視点に気づかされ、自分や社会を見つめ直すきっかけになる。作品を理解しなければと身構えず、自分の素直な気持ちと向き合えばよいのだと気づかされた。
 最近では、美術館のゆったりとした雰囲気を感じながら、目に留まった作品について自由に想像を膨らませる……そんなワクワクを味わうべく、暇を見つけては美術展に足を運ぶことが楽しみとなっている。
 勝手に絵画の題名を当ててみたり(!?)、描かれている人物になりきって心情を想像したり、美しい風景へ旅をする妄想をしてみたり……もうほとんど一人で大喜利をしているようだが、自由にあれこれ考えることはとても楽しい。そして絵の解説を見て、画家の思いや人生を知ると、絵についてもっと知りたい、調べてみたいという気持ちが湧いてくる。そして、美術館を出るころには不思議と元気をもらい、前向きな気持ちになっているのだ。
 ここからはオススメの美術館を三つご紹介! 皆さんもぜひ、お気に入りの美術館や楽しみ方を見つけてみては!
 
 

国立西洋美術館

★国立西洋美術館 
https://www.nmwa.go.jp/jp/

 多くの美術館や博物館が集結する上野はやはり、アート巡りに外せない場所の一つ。その中でも、上野駅公園口を出てすぐの国立西洋美術館は見応えのある展示がたくさんあるお気に入りの美術館だ。
 国立西洋美術館には、中世末期から20世紀初頭にかけての西洋絵画と、ロダンの《考える人》をはじめとするフランス近代彫刻が数多く展示されている。さらに前庭と美術館の本館は「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」としてユネスコの世界文化遺産に登録されている。
 美術館前の庭園へ入ると、数々の彫刻作品が目を惹く。高さ5m以上もある《地獄の門》は間近で見ると迫力満点。ダンテの《神曲》に着想を得ており、地獄の世界の物々しい雰囲気を感じる。他にもブールデルの《弓をひくヘラクレス》は、今まさに弓を放とうとする瞬間を捉えた躍動感のある作品だ。彫刻を見ながら庭園を抜け、いざ建物の中へ。
 館内はとても広く、常設展だけでも見どころがたくさん。ぱっと目に飛び込んできたのはティントレットの《ダヴィデを装った若い男の肖像》。剣を手に堂々とした立ち姿の若い男性の絵、戦いの場面が描かれている。「ダヴィデ」とは一体どんな人物で、なぜこの絵に描かれている若者はダヴィデの格好をしているのだろうか……。不思議に思い、音声ガイドを聞いてみると、この絵が描かれた16世紀のヴェネチアでは、聖書の登場人物を装った人を描くことがよくあったのだそう。そしてダヴィデは旧約聖書に登場する英雄ダヴィデであると。なるほど。
 おっ! 次は、可愛らしい幼子が二人、並んで眠る絵を発見。17世紀の画家ルーベンスの《眠る二人の子ども》だ。くるりとカールした髪の毛と赤い頬が愛らしい。この作品はルーベンスが自身の兄の子供たちを描いた作品だそうで、甥っ子・姪っ子が可愛くてたまらない! という気持ちが伝わってくる。
 ……という具合に、描かれた時代背景や物語、込められた思いを知ることでどんどん西洋絵画の深みにはまってしまうのだ!!
 
 

すみだ北斎美術館

★すみだ北斎美術館 
https://hokusai-museum.jp/

 今年7月に紙幣のデザインが新しくなったことは記憶に新しい。北里柴三郎の肖像が描かれた千円札を裏返して見てみると……そう、日本を代表する画家、葛飾北斎の《冨嶽三十六景(神奈川沖浪裏)》が描かれている。誰もが一度は見たことのある、富士山を大波が飲み込むような迫力のある作品だ。
 葛飾北斎ゆかりの地、東京都墨田区にあるすみだ北斎美術館には、彼の人生を紐解く魅力的な展示がたくさん。図書室も併設されており、北斎を中心とした浮世絵に関する図書資料が多く所蔵されている。
 昨年の夏、『北斎 大いなる山岳』という企画展を観に行き、北斎の絵を通して全国の山を巡った。実際の風景写真と北斎が描いた様々な山岳風景が並べて展示されており、飛行機やドローンがない江戸時代にこれほどリアルで迫力のある絵を描いた北斎の技術の高さに驚かされる。
 特に心に残ったのは《諸国瀧廻り 和州吉野義経馬洗滝》だ。源義経が兄頼朝に追われて落ち延びる道中、滝で馬を洗ったという伝説に因んで描かれた作品だそう。滝で馬を洗う二人の男たちの姿。急な斜面を流れる水の勢いや水しぶきが印象的だ。思わず帰りにポストカードを購入してしまった。
 北斎は弟子の教育にも力を入れていたようで、「北斎漫画」と呼ばれる絵手本は大名から庶民まで大好評だったそう。美術館では、そのレプリカを手に取って見ることが出来た。鳥を色々な角度で描いたり、ひし形や円などの図形を用いて絵の構図について解説したり、さらには細かい筆遣いなど……とても具体的で勉強になる。
 北斎が生涯で93回も引っ越しをしたというエピソードは有名だ。年を重ねても決して自分の画力に満足せず、新たな環境に自ら身を置いて腕を磨き続けた北斎のバイタリティを感じ、元気をもらえる美術館だ。
 
 

ホキ美術館

★ホキ美術館 
https://www.hoki-museum.info/

「今まで美術館に行ったことがなかったけれど、とても楽しめたよ!」と勧められ、訪れたのは千葉市にあるホキ美術館
 緑豊かな自然の中、細長い箱が宙に浮いているようなデザインの建物がスタイリッシュでかっこいい。その周りには、少しずつ角度を変えて立ち並ぶたくさんの鉄の棒。美術館に隣接する「昭和の森」の杉並木をイメージしているそうだ。
 そして何と言っても、ホキ美術館は世界でも珍しい、写実絵画専門の美術館だ。写実絵画とはその名の通り、「見たままを忠実に描くことを基本にした絵画」で、静物、人物、風景と題材は様々。髪の毛一本一本、樹木の葉一枚一枚……間近で鑑賞するとその緻密さがはっきりとわかり、思わず細部まで見入ってしまう。手を伸ばしたらつややかな髪が手の中をすり抜けていきそうなほどリアルだ。
 特に印象深かったのは、人物の絵画だ。昨年開催されていた『瞳の奥にあるもの』という企画展では、「まなざし」が印象的なたくさんの人物画が多く展示されていた。美しいドレスを身に纏い、物憂げに目を伏せた女性、自信に満ちたキリリとした目つき、木漏れ日に照らされた無防備な寝顔……。彼らはどんな気持ちで、何を見ているのだろう……。瞳の奥に潜む思いを想像してみる。回廊型ギャラリーの真ん中には、絵画ごとに丸椅子があり、そこへ座ると目の前にある絵と自分だけの空間が生まれる。何だか不思議な感じだ……。
 作品の中の人物と目が合いドキッとする。髪を後ろで束ねた女性が真っ直ぐにこちらを見ている。左手を自分の首筋に当てて、強い目つきをしている。三重野慶さんの作品、タイトルは《信じてる》。彼女の視線の先には何があるのか。「何を」信じているのだろうか。それとも何かを決意したのだろうか……。
 リアルだけれども写真とはまた違う、絵画ならではのあたたかさや奥行きを感じられる空間だ。
 

気になる!美術館巡り 関連図書

紹介文:高津咲希

  • 原田マハ・ヤマザキマリ
    『妄想美術館』
    SBクリエイティブ新書/定価990円(税込)購入はこちら >
     
  • 川内有緒
    『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
    集英社インターナショナル/定価2,310円(税込)購入はこちら >
 
 
執筆者紹介
 

高津咲希(たかつ・さき)

千葉大学4年生。夢は日本全国、そして世界の美術館を巡ること!「フランスふらふら一人旅」というコミック旅行記を読み、フランスの美術館に憧れています。写真は今夏訪れた『デ・キリコ展』。不思議な世界観に浸ってきました。

*「気になる!○○」コーナーでは、学生が関心を持っている事柄を取り上げていきます。


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