「海外ノンフィクション」編
寒さで外出の機会が減る冬に、じっくり読みたい海外ノンフィクションを紹介します(偶然にも、すべて早川書房刊)。
『統合失調症の一族』
ロバート・コルカー〈柴田裕之=訳〉
『統合失調症の一族』
早川書房 定価3,740円(税込) 購入はこちら >
統合失調症とは、考えや気持ちがまとまらなくなる精神疾患で、原因は脳の機能にあるとも考えられています。1970年半ば、その統合失調症に12人の兄弟姉妹のうち、6人が診断されたアメリカコロラド州に住むギャルヴィン一家。発症がここまで高確率な場合、やはり遺伝が影響しているでしょうか。
とはいえ、当時はセラピーや薬物療法が主流だったこともあり、遺伝的側面から統合失調症の原因究明に献身した研究者の軌跡も紹介しているのが、本書の内容にもなっています。
専門的な解説もある500ページ以上の分厚い本書は、当初は挫折する予定濃厚でした。しかしながら、兄弟姉妹12人の人生を追った形で進む構成のおかげもあり、それぞれの人生の物語にすぐに引き込まれていきました。
ただ、残念ながら、彼らの人生は、大家族でハッピーというイメージとはほど遠いのが現実で……。特殊な環境で育ったことが、発症にも関わっているかもしれず!? ぜひ読んで確かめてみて下さい。
『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』
デイヴィッド・グラン
〈倉田真木=訳〉
『花殺し月の殺人
インディアン連続怪死事件と
FBIの誕生』
早川書房 定価2,420円(税込) 購入はこちら >
監督は、マーティン・スコセッシ、主演はレオナルド・ディカプリオ。日本では、2023年10月に公開された映画原作のノンフィクションです。
ミステリー小説のようなタイトルではありますが、1920年代、オクラホマ州で起きた先住民オセージ族関係者20人以上が犠牲となった連続殺人事件。石油の発掘によって膨大な富を得た先住民オセージ族に目をつけた白人たちによって、画策・隠蔽されてしまいました。
最終的に犯人は逮捕されますが、当時の有色人種や先住民への差別感情も絡んでいることに加え、法律さえも先住民を守る内容にはなっていませんでした……。アメリカ国内でもあまり知られてない事件だからこそ多くの人に読んでもらいたい1冊です。
おまけ『グッド・フライト、グッド・ナイト』
マーク・ヴァンホーナッカー
〈岡本由香子=訳〉
『グッド・フライト、
グッド・ナイト』
ハヤカワ文庫NF 定価968円(税込) 購入はこちら >
本書を読んで、来世は絶対パイロットになろうと決心しました! 膨大なフライト回数にもかかわらず、空からの朝日、夕日、夜空の眺めなど、著者は飽きないとのこと。空・飛行の魅力が語られた本書が春休みの旅行の参考になれば、大変嬉しいです。
執筆者PROFILE
重松 理恵(しげまつ・りえ)
大学生協職員。広島大学、東京大学、名古屋大学生協など各大学生協での書籍担当者を経て、現在、大学生協事業連合書籍商品課に在籍。著書に『東大生の本の使い方』(三笠書房)、最新刊は『読んで、旅する 海外文学』(大月書店)。