リレーエッセイ
古沼花月(読者スタッフ・新潟大学)

P r o f i l e

古沼 花月(こぬま・かづき)
新潟大学四年生。卒業論文のため、谷崎潤一郎とにらめっこをしている毎日。今回は「最近の愉しみを」とのことでしたが、長年の愛が重い文章になり笑っています。笑ってください。ストレス発散は洋画鑑賞。『ジョン・ウィック』『デッドプール』最高でした。
 
 ヒーローが好きだ! 魂の叫びから始まるエッセイも悪くはないだろう。特に自己紹介では、好きなものを伝えるのは定石だ。子どもっぽいと思われるかもしれないが、良いと感じるものには素直に良いと伝えていきたい。
「ヒーロー」と聞いて、皆さんはいったい何を頭に思い浮かべただろうか。私と同年代の人ならば、多くが『アンパンマン』『仮面ライダー』『プリキュア』のどれかは幼少期に見ているだろう。この3作品を比較すると、人間か人外か、変身するかしないか、年齢性別がばらばらであると分かる。では、ヒーローとはなんだろう。
 ここでは私の理想像が凝縮された作品として、星新一の「凍った時間」を紹介する。なお、こちらはNHK「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」で実写化もされている。
 主人公は事故の大怪我により、身体の大半をサイボーグに改造手術された男だ。特異な容姿から迫害され地下室で孤独に暮らす男が、毒ガスを散布するテロリストを打ち倒し世界を救うという物語になっている。
 特筆すべきは救世主となった男が、毒ガスから意識を取り戻した市民に疎まれることにある。男の行動を見ていないため、感謝を伝える人間はこの世に誰もいない。そもそも毒ガスは通常の人体構造ではない男に効果はなかったのだ。つまり、人々が倒れ凍った時間のままであれば、彼は地上の空気を、太陽の明るさを思う存分味わえた。しかし、男はその幸福を認めず、孤独の苦悩と交換に、自身を差別する人間を救うことになる。
 なんと救われない話か。しかし、私はこの悲しさに染められた正義の行動に強い魅力を感じる。ヒーローとは何か、に対する私なりの答えは「哀愁と自己犠牲」だ。自分のことは投げおいて、他者のために全力を尽くす。たとえそれが自分を蔑むものだとしても。もし現実にそのような友人がいれば「何を馬鹿なことをしているんだ」と言うかもしれない。善人ではあるが愚かだ。自分には絶対にできない。絶対に。だからこそ、私はそのような素質を「ヒーロー」と呼び尊敬している。
 長々と語ったヒーロー論。さらけ出した趣味嗜好は、自己紹介になっていると信じたい。実現可能かはともかく、誰にでも憧れる生き方があると私は考えている。大学生になり、自分の「かっこいい」と感じるものは何か考えるのも面白いかもしれない。では、最後にもう一度大きな声で。ヒーローが好きだ!
 

次回執筆のご指名:熊野 有紗さん

間もなく卒業を迎える熊野さんですが、「卒業前に思うこと」をぜひ綴ってください。(編集部)

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