BOOK REVIEW
あなたの仕事は大丈夫?

あなたの仕事は大丈夫?

静岡大学名誉教授
阿部 圭一
 
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
新井紀子 著

本体1,500円+税
東洋経済新報社
 あなたがこれから就く仕事はAI(人工知能)に奪われてしまわないでしょうか? 10〜20年のあいだにホワイトカラーの仕事の半分近くがAIで置き換えられてしまう、という予想もありますから。AIと競争して生き残るためには、どんな能力を身につけておけばよいのでしょう? この本にはそのヒントが書かれています。けっこう高度な内容ですが、語り口がうまいので読みやすいと思います。
 「東大ロボット」を知っていますか? そう、ロボットを東大に入学させようというプロジェクトですね。ロボットと言っても、手足のないAIなのですけど。新井紀子先生をリーダーとするプロジェクトで、本当の狙いは「AIでできることとできないこと」を明らかにしようとしたのです。
 東大ロボは、予備校の模試で受験生の上位20%まで成長したのですが、そこで頭打ちになってしまいました。原因は、問題文を表層的にしか理解できていないことにありました。
 でもここで、あなたは疑問が湧きませんか? なぜそれで受験生の上位20%まで行けたのでしょう? それより下の80%の受験生は、問題文を表層的でなく理解できていたのかな?
 そこで、新井先生たちは、プロジェクトを中高生の基礎読解力を調べることに切り換えました。そうしたら、学力中位の高校でも、約半数が内容理解を要する読解ができない、という結果でした。
 内容理解とは、文章の「意味」がわかることです。AIは文章の「意味」が理解できないので、「推論」「2つの文が同じ意味か」「図と文が合っているか」「具体例と合っているか」は、AIには難しいのです。中高生もこれらの問題では低い正答率でした。ですから、AIに仕事を奪われないためには、意味までわかる読解力を身につけてください。これがAIに勝つための能力のすべての基礎なのです。
 この本から、新井先生のいくつかの姿勢も学べます。本質を見抜く力、実証されていないことは信用しない、実証がなければ自分で確かめる努力をする、科学者としての誠実さと謙虚さ、など。
 意味が理解できる読解力を育てるにはどうすればよいかが、これからの研究課題です。良い方法が見つかるといいですね。
 


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