気になる! ミシマ社
新しい時代の出版社

 
「ミシマ社、気になる……」と初めて呟いたのは我が大学の書籍部にて、ミシマ社10周年フェアに遭遇した時でした。ビジネス書から漫画エッセイまで個性的なラインナップ、おみくじが置かれている面白おかしいテンションで大いに印象に残りました。私だけでなく、ユニークな出版社として話題のミシマ社には他の『読書のいずみ』メンバーも興味津々。これは調査せねばと自由が丘オフィスにお邪魔してお話をうかがいました。

営業のオカダさんと噂のちゃぶ台を囲みます

 おもいっきり民家の自由が丘オフィス。名物のちゃぶ台を囲み、営業チームのオカダさんにミシマ社全体のお話をしていただきます。気になってること、ばんばん聞きますよ。
 まずは本屋さんとの関わり方について。ミシマ社のSNSを見ていると、一軒一軒の本屋さんとの交流が多くて、本屋さんと「同志」であるかのような印象を受けるのです。ミシマ社にとって本屋さんはどのような存在でしょうか。
「出版会社は本来、取次会社を通して本屋さんに本を卸すのですが、ミシマ社の場合は直接取引をしています。それでフェアやイベントも直接持ちかけて、一緒に盛り上げています」

 そのフェアでは、おみくじの守り神「ミシマ神」をはじめとする目鼻が「ミ」「シ」「マ」でできているキャラクターがいて印象に残りました。
「うちには編集・営業の他に『仕掛け屋』がいて、本に挟まっているお便りや本紹介のポップを手がけています。仕掛け屋がいろいろなキャラを生み出していて、最近になって「ミシマン」と呼ばれるようになりました」

 なるほど、ミシマ社の本一冊一冊に挟まれている「ミシマ社通信」を見せていただくと、いろんなバリエーションのミシマンが。
「雑誌『ちゃぶ台』に挟まれているお便りにはミシマンが家族で載っていますよ」
 あら、ちゃぶ台を囲んでお顔が「ミ・シ・マ」の大ファミリーが。これは強烈。それにしても、一冊一冊にその本に対応しているお便りを作るなんて、手が凝っている。集めたくなる。
 手が凝っていると言えば、個人的にミシマ社の本として『コーヒーと一冊』シリーズが印象に残っている。コーヒーブレイクの間に読み切れるシリーズ。表紙の手作り感も大好き。
「今本を読む人が減っているし、昔読んでいたけど今はちょっと……という方もいると思います。このシリーズは100ページくらいで読みきれてiPhoneより軽い(笑)。本を手に取ってもらいやすくする工夫ですね」
 そんなユニークな発想から本を世に送り出すミシマ社のモットーは「原点回帰の出版社」。その原点にあたるのが「一冊入魂」なのだそう。
「一冊一冊を読者に届けるのを大切にしているので、一ヶ月に発売する本は1冊程度です」
 そんな思いのこもった本たちの企画は、社内での発案や毎日更新されるウェブマガジンの『みんなのミシマガジン』の連載から立ち上がるのだそう。2013年からスタートした「サポーター制度」では、金銭面、アイディア面などでサポートしてくださる方々への御礼に、書籍などの贈り物をしているとのこと。さらに京都オフィスには本屋さんスペースがあって、社員さんが店番をしているのだとか。本屋さんとの距離だけではなく読者との距離も近いのです。これは応援したくなる。
 ちなみに社員さんの人数は、東京に4人で京都に7人だそう。ひょえー、少ない。それにしてもオフィスも二つあることだし、社員さんがどんな働き方をしているのか、気になります。
「毎週ちゃぶ台を囲んで京都オフィスとSkypeミーティングをして、そこで企画を出したりします。人数も少ないので『全員全チーム』ということで、みんななんでもできるようになろうという形で働いています。肩書きは編集や営業でも、パネルやポップを作ったりします」

編集のホシノさん。

 なんでもできるようにするなんて、かっこいい。次にお話しした編集のホシノさんも、証券会社からミシマ社に移り、事務をしながら編集を始めて今では編集チーム所属です。ミシマ社特有の編集スタイルはあるのでしょうか。
「小さい会社ですが総合出版社なのでいろんなジャンルの本を出していて、同時に何種類もの本の作業が同時進行します。頭の中が常に忙しいですね。他の編集者が担当しているものも読むので常にいろんなゲラを読んでいます。でも楽しいです」
 文字が好きで苦にはならないというホシノさん。編集していて心に残った本は?
「編集の仕事をやり始めた頃に山口ミルコさんの『毛のない生活』という本で章立てなど構成を担当して、編集者の大先輩である山口さんの魂のこもった本に携われたことが印象に残っています」
 玄関脇の本棚から本を取って見せていただく。装幀もインパクトがあって、読み応えがありそう。他にもオススメの本に「読むとシャキッとする」という『逆行』も勧めていただきました。読みたい本がどんどん増えていきます。

営業のイケハタさん。

 最後に、営業のイケハタさんにミシマ社的営業スタイルについてうかがいます。イケハタさんは大学生の時にミシマ社で「デッチ」(今風にいうとインターンです)をしていたとか。
「どうしても営業だと数字の話になりがちですが、本固有の面白さに目を向けてもらえるようにアピールしています。他の版元さんだと新作が毎月何十点も出るので、書店さんに行くときは重点を絞って紹介すると思いますが、こちらは一冊なのでそれを全力で届けなきゃというのはあります」
 ミシマ社には最近私が狙っている『うしろめたさの人類学』(松村圭一郎)など、読みやすい専門書もあって、大学生に読んで欲しい本もたくさんあるなぁというお話にもなりました。
「うちの本は『入り口』的な専門書から絵本まで扱っているのですが、誰が読んでも面白い本を目指していますね」

路地にある看板に癒されます。

 ちなみにイケハタさんのオススメはデッチさん時代に読んだバッキー井上さんの『人生、行きがかりじょう』。就活中の学生や迷える若者一般の心の友になりそう。最後にイケハタさんから社会に出る皆さんにメッセージ。「自分がそこで何を与えられるようになりたいか、を常に考えるのが大事だと思います。最初はやれることも少ないし、与えられたことをやるしかないけど、それを黙々と『こなす』ってなってもよくないので……。本を読むと内省できます。たまに息抜きもしてください」

 社員の皆さんとちゃぶ台を囲んで本を紹介していただいて、まるで夏休みに本好きの友達のお家に呼ばれたかのよう。一冊一冊に対する情熱をひしひしと感じました。普段本を買うとき、本の内容や作家さんで選ぶことはあっても「この出版社だから」買うということはあまりないはず。それでもミシマ社さんの気概を感じ取って、ここの本を買いたい、買ってじっくり読んであげたいと新たな気持ちが生じました。
 スマホ・電子書籍の台頭で本が読まれなくなったと言われる今この時代に、従来の出版社像からは想像できないスタイルで本屋さんや読者との距離を縮めるミシマ社。21世紀の出版社さんだなと惚れ惚れしながら、早速本屋さんに向かって、自由が丘の街を闊歩していくのでした。

  

(取材日:2018年7月26日)

 

皆さんのおすすめ ミシマ社の本

  • 『毛のない生活』
    本体1500円+税
    山口ミルコ
  • 『似合わない服』
    本体1500円+税
    山口ミルコ
  • 『逆行』
    本体1600円+税
    尾原史和
  • 『人生、行きがかりじょう
    全部ゆるしてゴキゲンに』

    本体1500円+税
    バッキー井上
  • 『選んだ理由。』
    本体1400円+税
    石井ゆかり
  • 『超訳 古事記』
    本体1600円+税
    鎌田東二
 
P r o f i l e

任 冬桜(にん・とうおう)

東京大学文学部4年。
勉強と卒論で目も肩もごりごりです。もうこんな夏休みはこりごり!

※「気になる!○○」コーナーでは、学生が関心を持っている事柄を取り上げていきます。


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