リレーエッセイ
笠原光祐(いずみ委員・千葉大学)

P r o f i l e

笠原光祐(かさはら・こうすけ)
千葉大学法政経学部3年。
個人経営の居酒屋でアルバイトをしています。アットホームなお店で、ついついお客様と話し込んでしまうこともしばしば。この前は清掃員をしているという方と綾小路きみまろさんの話で盛り上がりました。

 読書の秋、そしてスポーツの秋。皆さまいかがお過ごしでしょうか。今回は私が青春を捧げた水泳と読書についてのお話をしようと思います。
 高校生の時には、私は水泳部で背泳ぎを専門に練習に打ち込んでいました。そんな私の憧れの選手が1988年のソウルオリンピック男子100メートル背泳ぎ金メダリスト、鈴木大地選手です。彼の武器は「バサロ泳法」でした。バサロ泳法とは背泳ぎにおいては水中で仰向けのままドルフィンキックで進む方法のことです。鈴木選手はオリンピックの決勝の100メートル背泳ぎにてなんと30メートルもの距離をこのバサロ泳法で泳いだのです。通常の学校のプールは片道25メートルですから、これ以上の距離を潜って進んだことになります。とんでもない肺活量ですよね。実はこのバサロ泳法、体力を大幅に消耗する代わりに普通に水面に浮上して泳ぐよりも速く泳ぐことができるのです。私も挑戦してみたことがあるのですが、なんとか長い距離のバサロに成功してもそこで力尽きてしまいますし、肝心のスピードが全く維持できませんでした。そんなハイリスク・ハイリターンなバサロ泳法を長く取り入れようと鈴木選手が決心したのはオリンピック決勝の直前だったそうです。彼は一か八かの大勝負に挑み、見事優勝したというわけです。当時先輩からこの話を聞き、彼の決断力、そして果敢に挑み続ける姿勢に感銘を受けました。しかし残念なことに、バサロ泳法の大流行もあり、その大会直後に背泳ぎにおけるバサロ泳法の距離は最大10メートルまでに制限されることになりました。逆に言えば、鈴木選手はルールを変えるほどの力を持っていたということです。
 ルールを変えるほどの力。私は本にもルールや人を変えられるような力があると思います。皆さんはそんな、自分の価値観をひっくり返すような本に出会ったことはありますか。私はこの前ジョージ・オーウェルの『一九八四年』を読んで身が引き締まるような恐怖と衝撃に圧倒されました。言わずと知れた名文学ですが、外国文学に苦手意識を持っていたこともあり、これまで読んだことがありませんでした。ある時大学の図書館でふと目にとまり、たまには、と挑戦してみたのです。それからは味を占め、外国文学にどっぷり浸かっています。どうしても読む本のジャンルは固まっていくものですが、これからも時にはちょっと冒険をして、新しい出会いを探してみたいと思います。
 

次回執筆のご指名:服部優花さん

読者スタッフ2年目の服部さん。今回は読書日記にも登場してくださいました。いま服部さんがとても夢中になっていることを、教えてください。(編集部)

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