第7回 ペン助のうただより 2018年冬号

今年の歌集ピックアップ

冬号のうただよりは、今年の短歌本ピックアップ! 今年の短歌は今年のうちに。年末のおとも選びにどうぞ。

東直子・佐藤弓生・千葉聡 編著
『短歌タイムカプセル』(書肆侃侃房)

 戦後から「いま」まで、115人の二十首と一首鑑賞を収録した、待望の現代短歌アンソロジー。タイトルに込められた願いに、しみじみキュンとします。
教科書に載っている『万葉集』や『古今和歌集』は、タイムカプセルなのです。(略)二〇〇〇年代の最初の世紀に入った今、私たちは『短歌タイムカプセル』を作りました。
 編者の一人である千葉聡さんの「生徒たちの小遣いで買える短歌の本をつくりたい。できれば一冊で、たくさんの歌人に触れることのできる本がほしい。」にも共感します。短歌が気になる人へ、どこまでも、いつまでも届くように。丈夫に素敵に作られたタイムカプセルです。

石川美南『架空線』(本阿弥書店)
 圧倒的な読み応えと酩酊感。石川美南さんは、言葉と物語が好きな人にオススメの歌人№1です。まず目次を見て、「沼津フェスタ」「わたしの増殖」「容疑者の夜行列車に乗車」、タイトルにクラクラ。
「犬の国」を読みはじめてまたクラクラ。
犬の国の案内者は土曜の夜もきちんとした黒いスーツに身を包み、市街を案内してくれる。
ブラックで良いと答へて待つあひだ意識してゐる鼻先の冷え
おすすめのメニューを聞けば嬉しげにホットドッグの不味さを語る


 小川洋子さんや円城塔さんとともに、柴田元幸編集『短篇集』に短歌で参加した理由、ぜひ一冊まるごとご堪能ください。

ユキノ進『冒険者たち』(書肆侃侃房)
 こちらも物語に似た読み心地ですが、意図的な技巧というより、一首や一連があるがままにあることで全体が循環しているような、自然な心地良さが魅力的。
 労働やその息苦しさをテーマにしつつ、読後感はやわらかです。自然や家族など他のモチーフとの緩急や、そこに目を向けられることそのものが希望に見えるからかも。社会人デビューが近いなかでの、先輩からのエールのようでした。
残業の一万行のエクセルよ、雪原とおく行く犬橇よ

今・月・の・う・た
 
ローソンとファミリーマートとサンクスとサークルKのある交差点
吉岡太朗『ひだりききの機械』(短歌研究社)

 交差点があって、それぞれの角に別チェーンのコンビニがある。確かに、「どうしてここに……?」って距離のコンビニはあります。でも、さすがに四つは出来すぎでは? 四つがほぼ定型に収まっているのも出来すぎな感じ。
 歌の景色を位置づける先が、現実なのか、フィクションなのか。どちらとも言い切れない収まりの悪さこそが、現実とのズレのよう。一首に付けられた「A Crossing」のタイトルも、自分が暮らす現実と、どこか別の世界の交差・横断を示しているようです。四つのコンビニを従える交差点がある、それだけの「どこか」。ささやかで確かな世界が、一首から立ち上がる様子が面白いです。
 

ー 掲・示・板 ー

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