第8回 ペン助のうただより 2019年新学期号

あの人も短歌

『ちくま日本文学十二巻 中島敦』(筑摩書房)に、短歌が収録されているのをご存知ですか? 「でない歌」は最後の一首を除き、最初の五音が「ある時は」で統一されています。またほとんどの歌に思想家、芸術家などが登場し、「我」がどんな思想に触れてどう感じたかを辿りながら読み進められるのが楽しいです。もう一つの「」は動物シリーズ。黒豹、眠り獅子、ペリカン、麒麟、カメレオン……彼らに向けられる視線にしみじみしたり、クスッと笑ったり、切なくなったり。それぞれ青空文庫でも読めます。

ある時はあんいつの中ゆ仰ぎ見るカントの「善」の厳いつくしかりし

中島敦

黒と黄の縞のネクタイ鮮やけき 洒落者 みやびをとこ と見しは ひが

中島敦

 中島敦以外にも、短歌を作っている著名人はいます。たとえば小高賢編『近代短歌の鑑賞77』(新書館)の「文学者の短歌」では、森鷗外、柳田国男、高村光太郎、萩原朔太郎、宮沢賢治、加藤楸邨、中原中也、中島敦が紹介されています。

わがひとり旅寝するまに妻とをる露伴はまたも子をうませつとや

森鷗外

猫を抱きややに久しく でやりぬすべての自信滅び行きし日

中原中也

 西加奈子さんとせきしろさんによる短歌挑戦記『ダイオウイカは知らないでしょう』(文春文庫)では、お二人のほかゲストも短歌に挑戦しています(作歌はしていませんが、南海キャンディーズの山ちゃんの回がお気に入り)。星野源さんの短歌が読めるのはこの本くらいでは?

あの方が覚悟を決めた瞬間をダイオウイカは知らないでしょう

西加奈子

対バンの相手のリハを聴きながら楽屋で一人マンガ読むかな

星野源

 また『ユリイカ』二〇一六年八月号特集「あたらしい短歌、ここにあります」には、最果タヒさんが十代のころ作った短歌や、クリープハイプの尾崎世界観さん、壇蜜さんの作品が掲載されています。

ゆうやけに染まる河川を飲み干してあなたを祝う薔薇になりたい

最果タヒ

「石焼き芋 おいもおいも」あんなにのろまな車を追いかけて走る君の後ろ姿にこの先ずっと永遠に追いつけずにいる

尾崎世界観

 歌人じゃなくても、文筆家じゃなくても、あなたの好きな誰かもどこかで短歌を作っているかも? もちろん、あなたが短歌を作ってみるのも楽しいですよ。

 

今・月・の・う・た
 
さびしさに死ぬことなくて春の夜のぶらんこを漕ぐおとなの軀
内山晶太『窓、その他』(六花書林)

「さびしさに死ぬこと」がないのは幸福か、不幸か。今の生をどう見るかで分かれそうですが、自分は「おとなの軀」という突き放した言い方から後者を想像しました。
「さびしさ」によって物語のような決定的なエンディングを迎えることもなく、ダラダラ生き延びて「おとな」になって、「春の夜のぶらんこを漕ぐ」今がある。寂しさで死んでいたら、いま寂しいこともないのに。どこか明るく乾いた印象のある、達観の手触りが好きです。

 

ー 掲・示・板 ー

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