第10回 ペン助のうただより 2019年秋号


秋の夜長の今日この頃、いかがお過ごしでしょうか? 眠れぬ夜、ペン助は羊の代わりに短歌を数えています。
 

眠れぬ夜は短歌を数えて

 羊は日本語で数えても仕方ない、と嘯いて、短歌を一首、二首、数えます。

五分後に君は来て大袈裟な陣を作ってきて始めよう天体観測って、ここは戦場ですよ。孔明殿 

しんくわ『しんくわ』

 いきなり定型が崩れているにもほどがある!とツッコみながらまず一首。好きな短歌で始めたいから仕方ない。

たぶん親の収入超せない僕たちがペットボトルを補充してゆく

山田航『さよならバグ・チルドレン』

 よく引用されている歌も、好きな歌と同じくらい飛び出がち。次の一首に迷っていれば、パンセパンセと楽しいリズムに引っ張られて出てくる歌があります。

パンセパンセパン屋のパンセ にんげんはアンパンをかじる葦である

杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』

 パンセパンセと口ずさみつつ次の一首。

「雨だねぇ こんでんえいねんしざいほう 何年だったか思い出せそう?」

笹井宏之『えーえんとくちから』

 おもいだせないなぁと思考が溶けだせば眠りはすぐそこ。次の一首が遠のいて、短歌は短いから、と思考の断片がよぎります。短歌が短いなんて当たり前だよ。でも短いから覚えて、唱えられてるんじゃない。でも世界を覆す呪文は自家製でなくちゃって誰かが……ああ、でも。

「大好きな人に幸あれ 今すぐに幸あれ 日常的に幸あれ

尼崎武『新しい猫背の星』

 自分が子守唄やおまじないに唱える短歌は、呪文が欲しかった誰かに作られたというのは、なんだか、心強い、の、では……

扉(ドア)の向うにぎつしりと明日 扉のこちらにぎつしりと今日、
Good night, my door !(ドアよ、おやすみ!)

岡井隆『岡井隆全歌集Ⅰ』



今・月・の・う・た
 
     
サラリーマン向きではないと思ひをりみーんな思ひをり赤い月見て
田村元『桜前線開架宣言』(山田航編集)

 なーんだ「みーんな思ひをり」なのか。それってなんてふつうなんだろう。「赤い月」も小説やアニメではあんなに特別だったのに、この歌では珍しくても当然起こりうる自然現象でしかないようで、特別なものなんかどこにもないみたい。
 特別な自分という可能性を信じていた頃の懐かしさと、今も特別に憧れる気持ちは変わっていないんじゃないかという気づきと、社会人になってもそう思い続けるのかという諦念がまとめて呼び起こされた一首。周回遅れで就職活動を始めた今日この頃、働きはじめたらどんな感想を持つのか気になります。

 

ー 掲・示・板 ー

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