Reading for Pleasure No.39

Ideas Are New Combinations

水野邦太郎
   「いいアイデアが浮かぶ」ことを英語ではSuddenly, a great idea occurred to me. と言ったり、hit on a great idea,come up with a great idea と言ったりします。イタリックで示した動詞には、共通して「達する」という意味があります。「どのようなプロセスを経て良いアイデアに到達できるのか」その問いかけに真っ向から取り組んだ古典的名著を、今回紹介します。タイトルはズバリA Technique for Producing Ideas です。翻訳もされていて『アイデアのつくり方』というタイトルで、アマゾンで4つ星、250のカスタマーレヴューが投稿されています。本の帯には「60分で読めるけれど一生あなたを離さない本」というメッセージが書かれています。アイデアを生み出すためのテクニックの要となる手法を、以下、紹介します(訳は、今井茂雄氏)。

 著者のジェームズ・ウェブ・ヤング氏(1886−1973)は、アメリカ最大の広告代理店トムプソン社で広告の制作に手腕を振るった広告マンです。広告によって、企業は人々の気を引く名前や表現を創り上げ、「言葉の力」で莫大な富を生み出すことができます。どのような名前や表現を生み出せるか、いいアイデアを生み出すには特別な才能が必要なのか、それについて、次のように述べています。… an idea is nothing more nor less than a new combination of old elements (アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない)と強調し、the capacity to bring old elements into new combinations depends largely on the ability to see relationships( 既存の要素を新しい一つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性をみつけ出す才能に依存するところが大きい)と。

 事物の関連性を見つけ出すことの例として、the change of one word in a headline can make as much as 50 percent difference in advertising response (見出しの中のたった一つの言葉を変更することによって、その広告の反響を50パーセントも変えてしまうことがありうる)という例を挙げています。そして、the habit of mind which leads to a search for relationships between facts becomes of the highest importance in the production of idea. Now this habit of mind can undoubtedly be cultivated( 事実と事実の間の関連性を探ろうとする心の習性がアイデア作成には最も大切なものとなる。この心の習性は練磨することが可能であるということは疑いのないところである)、と述べ、アイデアを創るプロセスを、自動車の製造と同じ流れ作業にたとえ次の5つのステップとして紹介しています。

 First, the gathering of raw materials−both the materials of your immediate problem and the materials which come from a constant enrichment of your store of general knowledge (資料集め—諸君の当面の課題のための資料と一般的知識の貯蔵をたえず豊富にするところから生まれる資料と)。Second, the working over of these materials in your mind.( 諸君の心の中でこれらの資料に手を加えること—資料を咀嚼すること)。Third, the incubating stage, where you let something beside the conscious mind do the work of synthesis. (孵化段階。そこでは諸君は意識の外で何かが自分で組み合わせの仕事をやるのをまかせる)。Fourth, the actual birth of the Idea−the “ Eureka ! I have it ! ” stage. (アイデアの実際上の誕生。「ユーレカ! 分かった! みつけた! 」という段階)。And fifth, the final shaping and development of the idea to practical usefulness. (現実の有用性に合致させるために最終的にアイデアを具体化し、展開させる段階)。それぞれの段階の具体的な説明は、ぜひ本書を手にとって読んでみてください。

 私は、この本を読みながら、スティーブ・ジョブズが、2007年にiPhoneをはじめて世界に紹介したときのプレゼンを思い出しました。ジョブズ氏は、「音楽」「電話」「インターネット」という「既存の要素」を「一つの機器に組み合わせて」今までにない製品iPhoneを開発したことを、とても誇らしげに語っていました。また、この本は、私が博士論文を執筆していたとき机にいつも置いていた本でした。理論的な枠組みを構築する際に「既存の3つの理論」を組み合わせて新しいモデルを創り出すまでのプロセスは、まさしく5つのプロセスの経験に他なりませんでした。皆さんにも、ぜひ、卒業論文を書く準備に入ったら、本書 を手にとり「アイデアを生み出すための方法」の参考にして欲しいと思います。

 

今回ご紹介の本

  • James Webb Young
    A Technique for Producing Ideas

    IBCパブリッシング/本体800円+税
  • ジェームズ・W・ヤング
    (今井茂雄=訳、竹内均=解説)
    『アイデアのつくり方』
    CCCメディアハウス/本体800円+税
 

記事へ戻る

 
P r o f i l e

水野 邦太郎(みずの・くにたろう)

千葉県出身。江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授。博士(九州大学 学位論文. (2017).「Graded Readers の読書を通して「主体的・対話的で深い学び」を実現するための理論的考察 ― H. G. Widdowson の Capacity 論を軸として ―」)。茨城大学 大学教育センター 総合英語教育部准教授・福岡県立大学人間社会学部准教授を経て、2018年4月より現職。

専門は英語教育学。特に、コンピュータを活用した認知的アプローチ(語彙・文法学習)と社会文化的アプローチ(学びの共同体創り)の理論と実践。コンピュータ利用教育学会 学会賞・論文賞(2007)。外国語教育メディア学会 学会賞・教材開発(システム)賞 (2010)。筆者監修の本に『大学生になったら洋書を読もう』(アルク)がある。

「Reading for Pleasure」記事一覧


ご意見・ご感想はこちらから

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ