読書マラソン二十選! 161号


2019年が間もなく終わりを告げようとしています。これから始まる長いお休みにこそ、じっくりと本を読みたいもの……。今回の二十選も、第14回全国読書マラソン・コメント大賞応募作品のなかから選りすぐりの20作品をピックアップしました。

※次号では、2019年開催の第15回コメント大賞の発表です! 


  • 『フランケンシュタイン』
    メアリー・シェリー〈芹沢恵=訳〉
    /新潮文庫

     この古典的ゴシック小説に関してよく言われるのは、「悪とは何か」などの哲学的な事柄ではないだろうか。私には途方もない問いばかりだ。ただ、フランケンシュタイン博士と彼の生み出した怪物の闘争をみて思うことがある。人間の蔑視に悩み苦しむ怪物は、輝く個性をもっているのではないかと。特別・個性的でありたいと願う現代人は少なくないはずだが、その多くは多様さのあまり一様にも思える。怪物は人間と和することを願いながら強烈な「個性」体になってしまった。皮肉だが、そんな「かれ」が素敵なのである。
    (関西学院大学/ミノフ)

  • 『不道徳教育講座』
    三島由紀夫/角川文庫

     三島由紀夫とは、なんという男だ。今まで培ってきた「常識」や「道徳」を鮮やかに覆してしまうのだから。「ウソをつくべし」「恩を忘れるべし」、「己惚れよ」等々、勿論そんなことは許されない恥ずべき行為だ。しかし、この男の綴る言葉一つ一つが、頭の中に何の抵抗もなくするすると入っていき、仕舞いには納得さえしてしまう。むしろ、当たり前に思っていた「道徳」が、正しいと信じてきた理由さえ、私たちは見失ってしまうだろう。三島由紀夫とはなんという男だ。今までの“当たり前”や“常識”を疑わせ、どうやって正気で生活していたのかさえ考えさせてしまうような男なのだから。
    (立命館大学/ぽんこつほにゅうるい)

  • 『さらさら流る』
    柚木麻子/双葉社

     昔の自分がおかした子どもっぽい行動に、たまにすごく後悔するときがある。あの時も、あの時も、すべて水に流して薄れて消えてなくなってしまえばいいのにって。でも、どれだけ綺麗な水も、一滴の毒で全てダメになってしまうんだなって。一滴の子どもっぽい行動が薄れて毛細血管みたいに隅々まで広がっていく。広がった分だけ、それは誰かの暇をつぶすための娯楽として消費されていくことに、私はおそろしくなった。誰かの正義心を満たすため、誰かの価値観を世論のように発表するため、消費されるたび、一滴の毒はもはや原型をとどめなくなる。私は許された気になる。だから怖くなった。それがどれだけ相手を傷つけたのか、直接言われないと気付かない自分に。怖くなった。
    (愛知教育大学/みずき)

  • 『青嵐の坂』
    葉室麟/角川書店

     切腹する者の覚悟とは、いかばかりか。自分の罪を認め、衆目の中で自ら腹を切らなければならない。直後には首を切り落とされ、文字どおり晒し首となることが分かり切っているにも拘わらずだ。藩のために改革を起こした中老、檜弥八郎は、その改革を発端に切腹に追い込まれた。何もしなければ藩は亡び、改革すれば切腹する。そのうえで後者を断行し、武士としての最大の恥辱を受け入れた男とその周囲の人びとの気概が文面から伝わってくる。日本史において、世のために改革を起こし、切腹してきた者の轍は、今の我々に、行動するときの覚悟を投げかけているように思えてくる。
    (桜美林大学/盛升)

  • 『マリアビートル』
    伊坂幸太郎/角川文庫

     狙う者、狙われる者……2時間30分の新幹線の中で、恐怖の追いかけ合いが繰り広げられる。正しいことなどこの世にはない。正しいと思わせることができた人が強いのだという言葉が心につき刺さる。悪とは何か、正義とは何か、そもそも正義はこの世に存在するのか、をつきつめた作品であると感じた。
    (愛媛大学/さえ)

  • 『パレートの誤算』
    柚月裕子/祥伝社文庫

     働きアリの法則では、どんな集団でも必ず2割は働かなくなるという。しかし人間の場合、一口に「働かない」といっても、「働きたくても働けない」人と「働けるけれど働かない」人に分かれる。生活保護は本来前者のためにあるべきだが、後者の存在によって受給者全体が悪く言われている現実がある。一人のケースワーカーの死から生活保護の闇に迫る本作だが、生活保護をめぐる人々の思惑が生々しく描かれていた。エピローグで明かされる「パレートの誤算」、この言葉の意味が重くのしかかってきた。
    (早稲田大学/Ai)

  • 『カンガルー日和』
    村上春樹/講談社文庫

     いったいどういった生活を送ればこんな世界を空想できただろうか。あるいは、空想ではないのかもしれない——23編からなる短編集の本書を読めば、きっとそう思うだろう。“わたしの世界”で起こりうる事実の幅は想像以上に広くておもしろいのかもしれない、と日常に色が着き、わくわくしてくるのだ。ただの日常に直面しているときこそ、心を豊かにできるような気がしている。
    (徳島大学/いわし)

  • 『窓の魚』
    西加奈子/新潮文庫

     これは、恋愛小説ではない。恋は盲目というが、その捉え方がまるで変わってしまった。相手ではなく、自分のことしか考えられないのだと、気づかされてしまったのだ。二組の恋人たちが温泉宿で過ごす一夜を四人それぞれの視点で描いているが、同じ夜とは到底思えなかった。自分に見えている世界が全てで、相手の言動は自分の願望を映し、その意味を変える。私の中にも確かにある卑しく人間的な部分を指さされているようで苦しかった。しかしその生々しさから生まれる美しさに打ちのめされ、読後二ヶ月間、私は全く上の空だった。
    (埼玉大学/山野 蛙)

  • 『天国旅行』
    三浦しをん/新潮文庫

     生き残ってしまった命、助けられた命、無意識の死、自殺、それぞれが死んだように生きて、生きるように死んで、でも共通するのは、みな、“明日に期待している”ということ。私はこの世の中に生きているんじゃない、生かされているんだということを実感した。「海面を目指して、泳ぐの。生きるために」そうか、私にはまだ、やらなければならないことが残っている。やってみたいことを、生きているうちに、今日からでも実行せねばと思った。
    (愛知大学/おくもも)

  • 『スウィート・ヒアアフター』
    よしもとばなな/幻冬舎文庫

     悲しいはずなのに、それについて考えることができない? それは、そんなヒマがないからね。その心配りがうれしいのに、少し肩が凝ってしまう? それは、あなたが前に進もうとしているからだよ。え? 真っ暗で道が見えない、迷子になっちゃったって? それは素晴らしい。きっといい未来が待っているのね。だってそれは未来がまぶしすぎて見えていないだけだもん。まるで天気のいい朝、太陽に起こされる前みたいにね。そんな悩めるあなたに幽霊みたいだった頃の私の物語をプレゼントするね。お幸せに。
    (松山大学/写楽)

  • 『世界地図の下書き』
    朝井リョウ/集英社文庫

     私たちの人生に下書きは存在するのだろうか。この大学に入って……この職業に就いて……。誰しも一度は人生の下書きを描いたことがあるだろう。でも人生は思い通りにいかないことの方が多い。それを知りながらも、私たちは人生の下書きを描かずにはいられない。それは人の弱さだろうか。今までそう思っていたが、私の考えはこの物語を読んで覆された。むしろそれは人の強さなのではないだろうか。現実は厳しい。だからこそ私たちは、下書きを描くことで未来という新しい世界に希望を託そうとする。それは生きる強さだ。自分だけの未来を、自分だけの色で描くことこそが、人生の醍醐味なのかもしれない。
    (名古屋大学/柚季)

  • 『ふがいない僕は空を見た』
    窪美澄/新潮文庫

     すごい本を読んでしまったと思う。漠然とした「すごい」という感情ではなくて、この本を読みすすめるうちに、いつのまにか溜まってしまった滴が、一気に溢れるような心の奥底からの「すごい」が、この本にはつまっている。個人的にとてもオススメしたいけれど、この本は読者の心にズケズケと土足で入り込んでくるのを覚悟して読んでほしい。
    (西南学院大学/黒瀬あすひ)

  • 『承認をめぐる病』
    斎藤環/ちくま文庫

     就活がどうも上手くいかない。そんな時に頭にちらつくのは「周囲から低く見られたらどうしよう」との思いだ。私を含め、今の若者はそこから始まる。「食っていけなかったらどうしよう」はとりあえず、ない。アルバイトでもどうにかなる……はず。それよりも「正社員」の評価が気になる自分がいる。著者はその現実を「承認欲求」のためだと主張する。若者にはびこる「生きること」より「承認」を重視する現象を目の当たりにすることができるだろう。
    (東京大学/おかゆ)

  • 『自閉症の僕が跳びはねる理由 2』
    東田直樹/角川文庫

    「自閉症」という病気、と片付けられてしまいがちなこの世界の一部の人たちを「原始人のDNA、植物のDNAを受け継いだ」人と表現していたのがとてもしっくりきました。この本は、医学的、物理的にだけで語ることは決してできない、根本的な生きることの楽しみ、素晴らしさを、ある観点から教えてくれる一冊です。
    (横浜市立大学/M・Y)

  • 『自分を超え続ける』
    南谷真鈴/ダイヤモンド社

    “人から強制されるのではなく、自分で「やりたい」という意思を持つことが最大の強みになる”という言葉がとても心に残りました。私自身も、人に言われて行動するよりも、自分で目標を立てて行動するほうが上手くいくし、とても充実した人生を送れているように感じます。そして、世界七大陸最高峰を最年少で登った南谷さんの行動力は、本当にすばらしいと思いました。また、エベレストに登るのに60日もかかるとはビックリしました。私は富士山に登るだけで高山病で死にかけていたので、身をもってエベレスト七大陸最高峰に登ったことは凄いことだと思いました。
    (早稲田大学/なお)

  • 『選択の科学』
    シーナ・アイエンガー〈櫻井祐子=訳〉
    /文春文庫

     私達は自分の人生をどれだけ自分自身で決めることができるのだろうか。行動のもたらす結果は人によって違うが、「選択したい」という欲求と必要は、万人に共通している。だが、時に選択は人生の大きなハードルとなり、多くの苦しみを与える。残酷な現実に飲み込まれたとき、自らの選択を肯定しようと理由を後付けしたりする。しかし著者は、「それでも良いのだ」と私達を優しく包み込んでくれる。笑えるくらい平凡な私の人生にだって、選択という人生を切りひらく力で溢れているのだ。
    (埼玉大学/オズ)

  • 『教養としての大学受験国語』
    石原千秋/ちくま新書

      「大学受験国語の文章は悪文だ」石原は言う。だから一読では分からないし、点数なんて取れない。石原は“教養”という視点から大学受験を斬る。では、その“教養”とは何か。ある人は知識と答え、ある人は習慣と答えるかもしれない。しかし、石原は教養を“思考の方法”であるという。それは、例えば「自己」と「他者」という二項対立における軸を持つことだ。ある軸を持って問題を解いてみると容易に内容をつかむことができる。複雑な文章が単純に見えてしまうのだ。とすると、国語の試験から著者の主張を理解するだけではなく、現代の諸問題への教養も身に着けることができるのではないか。
    (北海道教育大学/さよならライオン)

  • 『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』
    サンキュータツオ/角川文庫

    「辞書」といえば三浦しをんさんの『舟を編む』。まずこの小説を読んだことで辞書への見方が変わったのだが、本書を読むことでさらに辞書の奥深さを知ることができた。様々な辞書の特徴や編纂の過程、苦労などが書かれており、とても勉強になった。何よりも、辞書による同じ言葉の異なる説明文が比較され、芸人である著者の言葉が面白い。そして著者の辞書への情熱がひしひしと伝わってくる一冊で、そこがとてもいいなと思った。
    (早稲田大学/雪蛍)

  • 『昔話はなぜ、お爺さんとお婆さんが主役なのか』
    大塚ひかり/草思社文庫

     幼い頃、「浦島太郎」のラストが気に入らなかった。なぜカメを助けた優しい少年をお爺さんにしてしまうのか。この本は小さき頃の思いに対しても容赦なく攻撃を繰り返す。そもそも主人公は少年なのか。なぜお爺さんになるラストをバッドエンドと決めつけるのか。疑問を投げかけられた時、自分の鼓動はなぜか高まる。自分の先入観を打ち壊す材料があるとき、人は面白いと思う生きものなのかもしれない。高齢化社会が進み、介護・孤独死と問題が広がっている中、言葉には出さない「年寄なんていらない」という人のどす黒い部分は他の何色をも打ち負かす。このどす黒さを認めた上での問題の向き合い方が解決への始まりだ。
    (北海道教育大学/いちご)

  • 『キノコの教え』
    小川真/岩波新書

    「好きな食べ物はキノコです! キノコって最高!」なかなかそんなふうにキノコを捉える人は少ないと思います。でもこの本で、キノコ研究に足を踏み入れ、キノコでもって世界を捉え、キノコに生き方を学ぶ、というのはどうでしょう? 菌類であるキノコが選んだ「共生」という在り方を今一度自分たちに当てはめてみるのはどうでしょう? これからの私たちがなすべきことを、持ち続けるべき精神を、キノコとキノコを愛する著者が教えてくれるかもしれません。キノコって最高!
    (立命館大学/まるメガネ)

「読書マラソン二十選!」記事一覧


ご意見・ご感想はこちらから

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ