こんにちは、ペン助です。今月はどうしてもおすすめしたい、思わず抱きしめて連れ出したくなる二冊の歌集を紹介します。
『ピクニック』(宇都宮敦/現代短歌社)はとにかく楽しくて、読んでいると「おめでとう!」と言いたくなります。
ひとりは防寒ひとりはかっこいいと思いフードをかぶったふたりができた
運命がなくたって、おそろいのふたりはできる。特別じゃなくても、格好つけなくても、当たり前のように楽しい二人だから、読んでいて楽しくなります。
人呼んでちゃらんぽらん サビすら歌えない歌を好きと言いきる生きることの天才
どうしてこの世界をこんなにハッピーに描けるんだろう、と言いたくなる明るさは、たまに泣きたくなるほどですが。
それから見逃せないのがネコ!
棚にのぼったネコを棚からおろす これを棚おろしという うそ いわない
新幹線から見えたネコ 新幹線からでもかわいい たいしたもんだな
ネコのかわいさに何かがおかしくなってしまったような歌を見つけるたび、「だよね」と思うのです。
一方の『風にあたる』(山階基/短歌研究社)を読むと、おかゆが思い浮かびます。まっしろでシンプルな、弱ったときに食べたい、さみしいくらい優しい食べもの。
三基あるエレベーターがばかだからみんなして迎えに来てしまう
〈ばか〉を喜んでいる自分も仲間というような、〈ばか〉のやわらかい手ざわり。『風にあたる』の優しさは、酷いことを、無責任なことを、押しつけることを「しない」優しさです。難しい単語や複雑な修辞でつまづかないこともそう。
ごま油たらせば中華風になるみたいにきみと安心したい
ああわかる、という感覚にすっと安心します。〈ごま油〉のように身近で難しいところのない安心感の、ことさらの安らかさ。
でもそんなに優しくてあなたは疲れない?
卯の花がすきなあなたと手を組んでふたり暮らしという寄り道を
〈寄り道〉というささやかなわがままにあふれる幸福感が、そんな不安を忘れさせてくれます。元気になったら散歩に行きたいなあ。悪戯っぽい笑みの誰かを誘って。
え、と言う癖は今でも直らない どんな雪でもあなたはこわい
東直子『春原さんのリコーダー』
雪が怖いなんて変わった人だな、と思います。吹雪なら怖いかもしれませんが、〈どんな雪でも〉——たとえば太陽にキラキラ舞う粉雪も怖いなんて、すごく臆病な人なのでしょうか。 |
やがて雪 原田宗典に降り積もる雪 あなたがどーなっても溶けない雪はない
しんくわ『しんくわ』
ー 掲・示・板 ー
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