無料ゾーンの雑誌棚
真剣です
文喫店長の伊藤晃さん
「どうして入場料を1,500円に設定したか分かりますか?」
ランチ代? コーヒー3杯分の値段? 文庫本3冊分の値段?
「美術館とか博物館の入場料を参考にしたんです。本を選ぶのは、美術館や博物館に行くのと同じだけの価値があると思って。それプラスコーヒー代です」
なるほど! 確かに高尚な文化に触れるという点は同じだ。
それでは、実際に文喫を利用してみよう。伊藤さんからお話を伺ったあと、私たちはルールを設定して店内で選書を行った。今回の条件は下記のとおりだ。
実際に店内を歩いてみて、一般書店とは陳列方法が大きく異なっていることを実感した。
ざっと見渡しても、新刊がこれ見よがしに積み上げられてはいない。そして今回のルールにもある「ノンフィクション」で括られたコーナーがなかった。どうやってノンフィクションを探せばいいんだろうと途方に暮れながら、私は「普通の書店と違って、文喫には大分類しかないんです」という伊藤さんの言葉を思い出した。あえて目当ての本を探しにくくすることによって、目的の本以外の本との出会いを増やすことが狙いらしい。確かに、いつもは書店に行くと目当ての本がある場所にしか行かない。これでは新たな出会いはない。
ノンフィクションを探すのは後回しにすることにして、私は日本人作家のコーナーを探した。ない可能性もあるよなと思っていたが、こちらは見つかった。ただし、五十音順ではなく作家のデビュー順に並べられている。これも目当ての本を探しにくくするためだろう。このあたりかな〜と目星をつけて長野まゆみを探す。あった。でも目当ての本はない。取り寄せも可能らしいが、今回は無理だ。
諦めて、「自然」のコーナーに移動した。目当てはキツネの写真集だ。1冊はキツネの本にすると決めていた。人生には癒しが必要だ。動物のコーナーなのに、なぜか江國香織の小説がある。タイトルにカエルとかシジミチョウという言葉が入っているので、あえてここに並べたのだろう。愉快な気分でキツネを探す。
みんなが選んだ本
なんとか1冊見つけたところで、「そうだ、コーヒーも味わっておかなければ」と思いだした。飲食受付でアイスコーヒーをリクエストすると、なんとガリガリという音が聞こえてきた。「豆から淹れてくれるなんて!」と感動しながら私は喫茶室の様子をうかがった。時間帯的に食事をしている人は少なく、コーヒーやジュースをお供に読書している人が多い。奥の出窓には触り心地のよさそうなクッションがいくつも置かれていて、思い思いの姿勢でくつろぎながら本を読んでいる人もいた。
私もクッションにもたれて優雅なひと時を楽しみたかったが、90分は長いようでとても短い。おまけに私はまだ1冊しか選べていない。後ろ髪を引かれる思いで、コーヒーと本を手に研究室に戻った。研究室や閲覧室でも飲食できるのだ。
黒々としたコーヒーは味も香りも最高だった。そのあとでいただいた煎茶も美味しかったし、フードメニューも期待できそうだ。牛ほほ肉のハヤシライスとかレモンとはちみつのタルトとか、すごく気になる。柚子蜜ジャスミンティーソーダというのも素敵な響きだ。
残り30分を切ったところで、店内壁際にワゴンが置かれていることに気がついた。ここに本を入れておくと、店員さんが元の位置に戻してくれる。これも普通の書店とは違うシステムだなあと思いつつワゴンの中を覗いて、そこに置かれている本にテンションが上がった。ラッキー♪ 伊藤さんが「返却ワゴンから本を選んでいくお客さんも多いです」と仰っていた意味が分かった。いい本、面白そうな本は他の人も気になるのだ。この中から2冊選んで研究室へ戻る。
私が選んだ本
ここからは選んだ本のお披露目タイムだ。Information
文喫 BUNKITSU
住 所:〒106-0032 東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
アクセス:地下鉄日比谷線・大江戸線六本木駅 3・1A出口より徒歩1分
営業時間:9:00〜23:00(L.O.22:30)
電話番号:03-6438-9120
定 休 日:不定休
席 数:90席
入 場 料:平日¥1,500(税抜) 土日祝¥1,800(税抜)(1日中利用可能)
Webサイト(URL: https://bunkitsu.jp/)
机に積まれた山
——せっかくなら、文喫だからこそ出会える本を選びたい。
「文喫の本は大まかにしか分類していない代わり、隣りあった本が緩やかにつながってます。検索性をあえて悪くすることで、偶然の出会いの機会を増やしているんです」
——なら“好きな本の隣にある知らない本”が、文喫だからこそ出会える本だ。そう選書室に踏み込んで、机に積まれた本にさっそく足を止めた。こことそこの山には好きな本がある!
こちらの山には『メタリック』、『空港時光』たち13冊。温又柔さんが「座・対談」に出てくださったとき『空港時光』は単行本になっていなくて、でも一番好きな作品だった。懐かしく思いつつ、同じ山の『「差別はいけない」とみんないうけれど。』を手に取る。2冊の共通点を挙げるなら、“ふつう”でないという感覚だと思う。“ふつう”でない人への差別はだめという言説に触れたときの、あのもやもやを解消するヒントをこの本はくれるだろうか。
もう一つの山は『図書館島』、『一九八四年』、『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』たち7冊。君たち、本や“書くこと”に関する本だね? ここから選んだのは『欠落ある写本』。実在の詩に秘められた謎を解いていく物語なんて、ドキドキしないわけがない!
フリードリンクで一息ついたところで、絵本が欲しいと思い立つ。絵本は色ごと配架されていて、こう来たかと赤ゾーンから『本の子』を選んだ。ページを開けば、この海は『海底二万里』の、この山は『ピーターパンとウェンディ』の、こっちの森の木は『ヘンゼルとグレーテル』、『美女と野獣』、『赤ずきんちゃん』の言葉たち! ここにも、ここにも“本”がぎっしり詰まっていて、ああ、好きだなぁ、ときゅぅんとしてしまう。
選んだ5冊
続いて漫画ゾーンにも見覚えのある本の山が。『BL進化論』、『BLカルチャー論』など、研究でお世話になった本が重なっている。あ、『美少年学入門』は未読だ。引用では何度もお会いしていたけど、ここで本人に出会ったのもきっと何かの縁。*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。