読書マラソン二十選! 163号


長い自粛生活で読書を楽しまれた方も多いのではないでしょうか。思いがけず読書の習慣が身に着いた皆さんには、ここで新たな本との出会いをしていただきましょう。2019年開催の全国読書マラソン・コメント大賞でナイスランナー賞に選ばれたコメントのなかから、編集部が選んだ20作品をお楽しみください。
 


  • 『サラバ! 上・中・下』
    西加奈子/小学館文庫

     サラバ! 大きな声でそう唱えてみたくなる。まるで魔法のようだ。人生、山あれば谷あり。 今までの20年間、いろんなことがあった。もちろん幸せなことばかりではない。悔しかったことや、恥をかいたこと。悲しくなったり、怒ったり。そんなことを思い出すと、いつも顔を枕に押しつけて叫びたくなる。だけどこの小説を読んで、不思議と力が湧いた。過去へ力強く手を振り、サラバ! 今こそ、未来へと大きな一歩を踏み出すのだ。新しい世界が始まる、そんな気がする。

    (京都大学/ここは、とくしま)


  • 『羊と鋼の森』
    宮下奈都/文春文庫

     この本と出会えて良かった。将来の道に迷っている時に手に取ったこの本は、自分を変えてくれた。“絶対という音はない”。100人中99人が「絶対」と言っても一人は「違う」と言うかもしれない。自分も何かを決める時、どうしても一般的な正解を求めてしまう。何かに困ったらスマホで答えを探す。でも、そうじゃないんだ。それが正しいとは限らない。それじゃ自分が自分でなくなる気がする。色々なものに気づかされるこの本を、ぜひあなたにも読んで欲しい。

    (帯広畜産大学/Ryohei )


  • 『サーカスの夜に』
    小川糸/新潮文庫

     トイレ清掃員から綱渡り師になる少年の成長物語。ユーモア溢れるレインボーサーカス団員たちによって、少年は自分の居場所を見つけていく。
     大学生になり、新しい世界で不安があった私ですが、これを読んでたくさんの人と出会い様々な経験をすることで、まだ知らない“自分”というものに出会えるように思った。“自分”を知るための後押しとなる一冊だ。

    (甲南女子大学/スノーボール クッキー )


  • 『鹿の王 水底の橋』
    上橋菜穂子/角川文庫

     医療とは人の命を助けるものである。しかしその医療はどこまで許されるのか? 最近は「神の領域」と称して、医療の倫理観が問われることがある。どこまでが人間らしいと区別できるのか。それを判断するのは難しい。しかし私は、家族がもし病に冒されたなら、どんな方法ででも助かって欲しいと思う。生きて欲しいし、まだ一緒に過ごしたい。当たり前にそう願うことを、神様はお怒りになるのか。読んだらきっと止まりません。

    (甲南大学/柚子)


  • 『地球から来た男』
    星新一/角川文庫

     感想を書けと言われても難しい。なんだか複雑な世界に来てしまったようだ。灰色のビルが建っている。近未来的なデザインだ。視界がフワフワ、ぼやぼやして、不思議な感じだ。前を歩く男の背中に哀愁が漂っている。本を閉じると、元の世界に引き戻された。何だったんだろう、今のは。

    (大阪市立大学/みなと)


  • 『とりかえばや物語』
    田辺聖子/文春文庫

    「正しい人生の歩み方」ってなんだろう。私はそんなことを考えていた。人にも環境にも恵まれ、充実した毎日の中でふと「私の選んだ道は正解だったのか」と考えることがある。答えは出なかったが、この本に出合った。人生に正解などない。そう思った。今までの人生において、私は私に自信がなく、大切な決断は全て人任せだった。逃げ道を作っていた。私の人生は一度きりだ。転んでも遠回りしても、全てが正解なのだ。「自分らしく生きる」ことの大切さをこの物語は教えてくれた。

    (北海道教育大学/まる〇)


  • 『かがみの孤城』
    辻村深月/ポプラ社

     街を歩く人々は、皆どこへ行くのだろう。学校、会社、家……。毎日のように課題や人づき合い、時間に追われ、余裕のない日常。なぜか息苦しく、生きづらい社会。この本を開くと、 鏡の向こうの城で過ごしている7人が愛おしく感じられる。そんな7人の中学生も、なかなか自分を表現できずにいるのだけれど。ファンタジックな物語と驚きの展開にページをめくる手が止まらなくなる。

    (西南学院大学/ことり)


  • 『君の話』
    三秋縋/早川書房

     記憶改変技術が進み、実在しない記憶『義憶』が購入できるようになった世界(「ボーイミーツガール」)。本来出会うはずのなかった少年と少女が出会ってしまったとき、そして運命が2人を引き裂くとき、記憶しかできない私達は何を想うのだろうか。読み終わったら、あなたはきっと、大切なあの人に会いに行きたくなります。

    (愛知教育大学/藍玉)


  • 『緑と楯——ハイスクール・デイズ』
    雪舟えま/集英社

     恋愛小説は、一人称視点であるべきだ。なぜって、主人公 緑の想いが、こんなにもみずみずしく伝わってくる。最初は嫌っていた楯のことを、次第に気にし始める緑。今日は楯と話せた、今日は楯に触れてしまった。今度はどこまで発展できるんだろう、そう考えながら、ページをめくる手が止まらない。緑の抱える喜びや、苦しみを、読者である自分が共有できることが、誇らしくてたまらないんだ!!

    (北海道大学/城崎夕)


  • 『四月になれば彼女は』
    川村元気/文春文庫

     恋愛とは一体何だろうか。私はこの小説を読んで、よくわからなくなった。好きとはどの好きなのか、恋も愛もすぐ消える儚いものなのではないか、そもそも他人同士がうまくいくものなのか……。そういう問題を投げかけられ、読み進めると、人は人を愛することで自分を愛しているのだという主張に出合った。少し納得してしまった。

    (松山大学/みくりん)


  • 『村田エフェンディ滞土録』
    梨木香歩/角川文庫

     スタンブールという遠い土地、遠い時代の日々が鮮やかに浮かび上がる。つい「関係ない」と言ってしまう自分、利益に関わること以外は無関心になっている現代社会。今はとても息苦しい。この本の登場人物たちは、宗教が違い、国・育ちが違い、立場が違い、性別が違う。しかし、そこにあるのは不毛な嫌悪や争いではなく、全ての垣根を越えた友情だった。強烈にひきつけられるこの本の魅力は、自分の中にあるものとの共感ではなく、自分にないものへの憧れだ。

    (長崎純心大学/久夏)


  • 『夜行』
    森見登美彦/小学館文庫

     尾道を一度だけ訪れたことがあります。夏なのにどこかひんやりとした場所でした。当時尾道の大学に進学しようとしていたこともあり、今でも尾道がテレビに映るとまるで半身がそこにあるかのように反応してしまいます。もしかしたら本当にあそこに何かを置いてきたのかもしれない。この小説を読んで思いました。体内にじわりと滲む怖さを抱えてなお、夜の踏切を通過する列車の灯りを見ている。そんな風景を見てみませんか。

    (関西学院大学/匿名)


  • 『1973年のピンボール』
    村上春樹/講談社文庫

     思わず叫びそうになった。大学3年間を少し振り返ると、自分が熱中していたものはいくつもあるのに、今はそのほとんどから離れて生きている。寂しさすら薄れつつある。かといって、そこに区切りをつけないと自分だけ取り残されることも何となく分かっている。だからこそ、ふと思い出すと余計に寂しい。現在大学4年生。今熱中しているものにも「しかるべき時」が近いのかもしれない。今を記憶に強く焼きつけようと思った。

    (名古屋大学/まっちー)


  • 『〈レンタルなんもしない人〉
    というサービスをはじめます。』

    レンタルなんもしない人/河出書房新社

     相手が必要ではないと思われることでも、実は誰かが必要だったりする。ただ、その誰かに対して必要以上は求めない、存在だけでも意味を持つ。また、ラベルの貼られた関係性にある人には頼めないことがある。このような場合を含め、「ただ一人分の人間の存在」が必要な時に活用されるのが、「レンタルなんもしない人」というサービスです。レンタル料が無料であることの可能性、AIや自動化の普及が進む社会においての人の価値。著者自身の考えや様々な依頼内容から、この本の大きなテーマの一つだと思われる「人の在り方」が見えてきます。

    (高知大学/はる)


  • 『河合隼雄語録 
    カウンセリングの現場から』

    河合隼雄、河合俊雄/岩波現代文庫

     河合隼雄が個別のカウンセリングについてコメントした“生の言葉”が収められています。大学院の事例検討会でのコメントのはずですが、驚くことに、難しい専門用語はほとんどなく、素人にも容易に理解できる言葉で語られています。河合隼雄の実例へのコメントは、人間の心の深いところに視線が向けられているので、読む人は誰でもその言葉が心の深みへ染み込んでゆくのを感じるでしょう。本書一冊だけでは、河合隼雄について、またカウンセリング一般について十分に知ることはできませんが、『こころの処方箋』(新潮文庫)と並んで“河合隼雄入門”にふさわしい一冊なのではないかと思います。

    (同志社大学/東西南北)


  • 『数学ガールの秘密ノート 式とグラフ』
    結城 浩/SBクリエイティブ

     数式を読むときは、さらっと流してはだめ。じっくり読むことが大切。
     内容は中学生が理解できる程度の容易な本であった。ただ冒頭の言葉の示す通り、偏差値や得点を意識せず、数学の本来持つべき自由な発想や思考の営みを重んじた本であった。また、数学において、速さや正確さ、答えの有無以上に独創的な問いを発すること、自分自身の直観や感性を重んじることこそが、大事だと再確認できた。

    (愛媛大学/へこくん)


  • 『定本 映画術』
    ヒッチコック、トリュフォー
    〈山田宏一、蓮実重彦=訳〉
    /晶文社

    「ギャップ萌え」というやつなのだろうか。本を読む前に抱いた印象と実際に読んで刻まれた印象に距離があるほど、その本は記憶に残るのだ。が、この本はやりすぎである。「歴史的名著」の大半が「文句と悪口」で構成されていては、嫌でも記憶に残る。なにせ監督本人が「撮りたくなかった」などと言い出す始末だ。「文句と悪口」に真理が宿る。このギャップがたまらないのだが。

    (広島修道大学/ムラスズメ)


  • 『コンビニ人間』
    村田沙耶香/文春文庫

    「普通」って何だろう? 生まれてから今に至るまで、私はその問いに対する明確な答えを出せずにいる。しばし社会が提示するその答えは極めて曖昧で暴力的なものだ。この物語の主人公は、周囲と比べて自分が「普通」ではないことに悩みながらもコンビニという小さな世界の歯車の一部となり、一般的な「普通」を実感する。幸せとは何か、自分とは何者か。この本を読んで深く考えさせられた。

    (山口大学/いさささ)


  • 『イメージ——視覚とメディア』
    ジョン・バージャー〈伊藤俊治=訳〉
    /ちくま学芸文庫

    「イメージ」は曖昧な言葉だ。例えばSNSにあげたあなたの写真が本当に「あなた」であるといえるだろうか。フィルターなどの加工をしない人は少ない。では、それは「あなた」の理想像か。それも怪しい。そのフィルターを作ったのはあなたではない。イメージとはまさにアイデンティティのようなもの。確かにあるようで、曖昧だ。イメージはただの画像ではなく、複雑な認識の層であり、「見る」ことは身近であるがゆえ、無批判になりやすい。本書はそんな「イメージ」に向き合うことの重要性を教えてくれる。

    (神戸大学/ミノフ)


  • 『カキフライが無いなら来なかった』
    せきしろ×又吉直樹/幻冬舎文庫

     例えば、大学の講義中に、友人との会話中に、バイト中に、一人の時に。日常のふとした瞬間に言葉にできない感情に陥ることがある。この想いはどう表現したらよいのか。考えても答えは出てこない。もどかしい。時として人の感情は、形式的な言葉では表現できないものだ。この本は、そんな感情を形式にとらわれない自由律俳句を用いて、文字通り「自由に」表している。格式張らない血の通った言葉が、人間の生の感情を物語っている。この本を手に取ってその息吹を感じてほしい。

    (山梨大学/リコシェ号)

 

第16回全国読書マラソン・コメント大賞
開催延期のお知らせ
 
 新型コロナウイルスによる登校規制や学事日程変更の影響を考え、例年6月にスタートしていた全国読書マラソン・コメント大賞の受付開始を、2020年度は9月に変更させていただきます。
 組合員の皆様にはご迷惑をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
 詳細につきましては、8月上旬に各大学生協店頭、全国大学生協連合会ホームページ、および、9月発行の『読書のいずみ』164号(2020年 秋号)にてご案内いたします。
 厳しい状況が続いておりますが、読書のすばらしさを伝え合う素晴らしいコメントのご応募を、今年もお待ちしています!

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