リレーエッセイ
畠中 美雨(いずみ委員・京都大学)

P r o f i l e

畠中 美雨(はたけなか・みう)
はじめまして、畠中美雨です。この春から、京都大学大学院理学研究科の修士1年、読者スタッフは2年目。中高生のときもほぼずっと図書委員をやっていました。読書はもちろん、本にまつわる活動が大好きです。学生のうちに京都の街をおさんぽし尽くしたいです!

 最近の楽しみに絡めたエッセイ、ということで自分の生活を振り返ってみると、よくいう「ていねいな暮らし」とは割とかけ離れたものだ。
 引越しの片付けが終わらず段ボールが散見していた一方で、卒業式でもらったピンクのガーベラと白い花の花束。これがとても嬉しく、それっぽい瓶に飾り、台所近くの離れ小島に置き、水を替えたり、茎の先を切ったり。長持ちして欲しくてそれっぽいことをやっていた。ちぐはぐな生活。
 気づけば入学式はなくなり、普通にできたらよかったのにね、とぼやいていた卒業式で袴を着て写真を撮ったりしたことですら、ギリギリ運が良かったね、と言い合うようになった。ニュースの報道で、ああ私もそろそろ卒業して2週間かと気づく。

 最近はもっぱら引きこもり生活で、ラジオが日常に馴染んできた。DJのトークと自分では聞かない曲を交えた絶妙な選曲。加えて、リクエストを送った日には読まれるかな?とそれだけでドキドキするし、読まれたりすると1日ニコニコしちゃう。プレゼントが当選した日なんて数日ウキウキしていた。
 あと、密やかな楽しみは「ラジオショッピング」のコーナー。テンション高めの売り手、軽快なリズムで繰り出される宣伝文句、最後はお決まりの「もう1セットおつけしてお値段そのまま!」この買いたくなる感じと具体化しやすい仮定。昼食に安い鶏肉を解凍しながら、先ほど紹介された900gのステーキを夢見たりするのだ……。
 そんなささやかな楽しみはありつつも、家で過ごす時間に比例し眠れない夜は増えてきた。ある深夜、気を紛らわせようと水を飲みに台所に立った。ふと、色が抜け、ちょうど外で咲き誇っている桜に似たほのかな桜色になっていたガーベラに目を奪われた。どうしてか、切り花は色を残したまま枯れるもんだと思っていた。枯れてしまうんだな、3週間経つものね、と思いつつ、深夜とその淡い色に誘われ、何となく物思いにふけった。
 もう4月も終盤で、家近くの疎水沿いに生えている桜はすっかり葉桜になっていた。ガーベラは一本は下を向いて、もう一本は前を向いたまま枯れた。多分、春が終わったのだ。
 ラジオから私の好きな曲が流れ、「部屋を飾ろう コーヒーを飲もう 花を飾ってくれよ いつもの部屋に」と歌う。いまでも「ていねいな暮らし」には程遠い部屋とその主人のままだ。でも適当に花を飾った瓶はもう花瓶にしか見えなくて、今度また違う花を飾ろうと思っている。
 

次回執筆のご指名:徳岡柚月さん

昨年度からの読者スタッフ、リケジョの徳岡さんは、夏号で読書日記に登場してくださいました。コロナ禍の緊急事態宣言が解除されましたが、徳岡さんの最近の楽しみをぜひ教えてください。(編集部)

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