世界の本棚から⑦



   高校生のノベンバーは父親から突然寄宿学校行きを命じられ、不思議に思いながら飛行機に乗る。そこで意識を失った彼女が次に気がついたのは、電気やインターネットもなく、外界から隔離された古城の中の学校だった。授業内容はナイフ投げや毒物取扱いなど危険極まりなく、すべての生徒は互いの弱みを突いて出し抜くための心理ゲームに長けている。なんの予備知識もないままクラスに編入したノベンバーはルームメイトのレイラの助けを得てなんとか毎日を過ごすが、レイラの兄アッシュと学校を抜け出そうとした夜にある生徒の死体を見つけ、その殺人容疑をかけられてしまう。さらに学校に通う生徒が皆「ストラテジア」と呼ばれる秘密組織の末裔と知り、自分の家族にも秘密があったことに気づくが、知れば知るほど彼女の命は狙われる。
 Killing Novemberは一人だけルールを知らないままゲームに放り込まれた主人公が、機転と身体能力で切り抜けていくスピード感あるエンタメYA小説だ。

 2020年、コロナの他に海外で大きく話題になったのは、警官に逮捕される途中で死亡した黒人男性、George Floydの事件と、その後大きく広がったBlack Lives Matter運動。関心が高まると人種差別についての本にも注目が集まり、日本の洋書売場でも仕入れてはすぐ売り切れる状態がしばらく続いた。
 Why I’m No Longer Talking to White People About Raceはその中でもイギリスの黒人女性が書いた点で異色のエッセイ。黒人差別といえば奴隷制度とアメリカを連想する人が多く、イギリスの学校でも著者が子どものころの歴史教科書にはほぼアメリカの話しか出なかったそうだ。しかし実際にはイギリスにも奴隷制度が存在し、白人に連れられて上陸した黒人が様々な苦難を強いられた。表向きには差別がないかのようなイギリスの空気のほうがむしろ怖いかもしれない。いまも皮膚の色のせいで仕事や生活で不利益をこうむる人がいることを、白人も含めてみながきちんと認めることが差別を減らす一歩だが、一番難しいことでもある。
 表紙の題字は「白がスタンダードの世の中で黒だけが例外として浮き立つ」という差別意識を表現するために “TO WHITE PEOPLE”のフレーズだけ白い背景に白文字で印刷され殆ど見えないという凝ったつくりだ。黒人女性の書いたノンフィクションで初めてUK No.1に輝いた話題作である。

 ヴァンパイアと人間の禁断のラブストーリーTwilightは同名の映画シリーズも含めて世界中で大ヒットし、エドワード(吸血鬼)に思いを寄せるベラ(普通の人間の少女)のもどかしい恋に多くの読者が身を震わせた。それから15年経ち、満を持して発表された Midnight SunTwilightの話をエドワードの視点で描いた小説だ。
 Twilightでは圧倒的な美しさ、知性、超人的な身体能力をもつエドワードに対してベラは引け目を感じることが多かったが、Midnight Sunではエドワードもベラにどう応えるべきかみっともなく悩んだり戸惑ったりしている。クールに見えても好きな人の前ではいっぱいいっぱいなのは考えれば当たり前だが、ファンにとってはエドワードの心理がようやく理解できる注目の1冊だ。
 

  • Adriana Mather
    Killing November
    Ember
    ISBN: 9780525579113
  • Reni Eddo-Lodge
    Why I’m No Longer Talking
    to White People About Race

    Bloomsbury
    ISBN: 9781408870587
  • Stephenie Meyer
    Midnight Sun
    Little, Brown
    ISBN: 9780316592963
 
P r o f i l e

角 モナ(すみ・もな)

海外に30店舗持つ書店チェーン・紀伊國屋書店で洋書仕入に携わるバイヤー。子供のころはインターナショナルスクールで学び、洋書は日常生活の一部。

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