名著に会いに⑤

これは、NHK Eテレ番組「100分 de 名著」の熱烈なファンである筆者が、番組で取り上げられた作品のなかから印象に残った名著について語るコーナーです。
 

「希望」と共にいられるか

河本 捷太
 
 今回は2017年4月と2018年11月(アンコール)に放送された三木清の『人生論ノート』を取り上げます。タイトルを見ると、「ノート」とあるので読みやすそうな印象を受けます。しかしその中身はというと、なんと哲学書でした。私は著者の三木清が哲学者であることや、この本が哲学書であることを知らずに、タイトルが面白そうという理由だけで購入しました。結果読むのに苦労したのですが、難しい中にも理解できる点や、興味深い記述があったので今回紹介したいと思います。
 まず著者と内容の簡単な紹介です。著者は1897年に生まれ1945年に亡くなった哲学者です。戦争真っ只中の人物で、治安維持法により逮捕され、獄中で死を迎えることになります。『人生論ノート』はエッセイの形がとられており、死や幸福、健康、希望など、人生における重要なテーマが計23個掲載されています。難解な一方、一つ一つのテーマが短いうえに、納得できる内容もところどころあるため、読みやすい面もあります。どうしたら哲学というとっつきにくい内容に興味を持ちこの本の魅力を知って頂けるだろうと考えたのですが、今回は私が特に興味深く感じた文章をいくつか紹介して、それについての私の考え方を書いていこうと思います。
 まずは「幸福について」の冒頭にある次の文です。

今日の人間は幸福について殆ど考えないようである。

 最初から辛辣な言葉ですね。しかし三木清は、この言葉を現代に生きる私たちに対して言っている気がしてなりません。大学生活やアルバイトなど日々の生活を送る中で、「幸福」が少しでも頭にあるでしょうか。幸せのために日々を過ごしていると考えながら生きていけているのでしょうか。いつしか幸せになることが目標ではなく、目の前の約束や課題、仕事を達成することが目標の全てになっていませんか。もしかすると、今私たちが行っていることが幸福とは全く関係なくなっているかもしれません。幸せになるために何をすればよいのかを意識しながら、小さな目標設定をすればよいのかもしれません。
 次は「習慣について」の中の一節です。

習慣を自由になし得る者は人生において多くのことをなし得る。

 学習をするにしてもサークル活動をするにしても、上達するためには日頃からコツコツと積み重ねること、すなわち習慣的に取り組むことをしなければなりません。一夜漬けをしてもあまり効果が無いのと同じです。逆を言えば習慣化することができるなら、上達するのもたやすいということです。これが実際にはなかなか難しいものです。私は年1回ランニングの大会に出場するのですが、普段ランニングの習慣が無いため、毎年1か月前に慌てて練習を始める羽目になってしまいます。その度に習慣化しておけばよかったと後悔しています(笑)。皆さんは何か習慣にしているものはありますか。頑張らなければならないことがあるのであれば、是非習慣化してみましょう。
 最後は「希望について」の一節です。

希望というものは生命の形成力以外の何物であるか。我々は生きている限り希望を持っているというのは、生きることが形成することであるためである。希望は生命の形成力であり、我々の存在は希望によって完成に達する。

 なんともかっこいい響きではありませんか。辛いことや悲しいこともあるこの世の中で、中には生きることが大変な人もいるかもしれません。しかし、希望を持つということが生きることに繋がるというのが、この一節から分かると思います。この希望は将来の夢でも趣味でも恋人でも、人によって多種多様でいいと思います。その希望があるが故に死を思いとどまれたり、より生きたいと思えたりするのかもしれません。私にも希望があります。その希望をこの一節と共に大切にしていきたいと思います。
 これまで3つの文を引用してきましたが、いかがでしたでしょうか。なんとなく分かるものもあったのではないでしょうか。これまでの回で取り上げた本も含めて「名著」の中には読むのが難しいものもあり、読む気にならないものもあると思います。しかし全てを理解しようとするのではなく、読んでもあまりピンとこないところはそのままにして、読めそうな部分だけ読むのも一つの手です。そうすることで「名著」に対するハードルがグッと下がります。この手を使って、皆さんも名著にトライしてはいかがでしょうか。
 
  • NHKテキスト
    〈2018年11月(100分 de 名著 アンコール放送)〉
    『三木清「人生論ノート」』
    NHK出版
    本体524円+税
  • 三木清
    『人生論ノート』
    新潮文庫
    本体430円+税
 
P r o f i l e
河本 捷太(かわもと・はやた)
愛媛大学4回生。最近本を読了する速度より積読が増える速度の方が早いのです。困ったものです。書店に行って本に対するアンテナを張る限り、本は増えるばかりです。かといって、書店に行かないことは無理な話です。どうすればいいの。

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