読書マラソン二十選! 165号


今年の全国読書マラソン・コメント大賞は11月をもって終了しましたが、みなさんは参加されましたか。コメントを通して読んだ本の魅力を同世代の大学生へ伝えるこの読書マラソン企画は、まだまだ続きます。今年応募できなかった皆さんも、来年はぜひご参加くださいね。……ということで、今回の「読書マラソン二十選!」は、昨年のコメント大賞応募用紙の中から最後のピックアップ作品です。
 


  • 『青の数学』
    王城夕紀/新潮文庫nex

     中学生の時、私は漫画が大好きだった。しかし当時それは、批判の対象だった。私は今でも少し、好きなものに対してどこか及び腰だ。ところで、この本の主人公は数学が好きで好きでたまらない、所謂オタクだ。でも彼は一人で数学世界に閉じこもっているわけではない。クラスメイトとも関わり、むしろそこから学んだりもする。お互いが“クラスメイト” という同じ土俵に立ち、違う好きを見つめながらそれぞれ生きている。ふと、それでよかったのか!と思えた。人にとっては当たり前の気づきかもしれない。けれど私にとっては特別だ。大切にしたい。

    (山形大学/匿名)


  • 『炎上する君』
    西加奈子/角川文庫

     主人公が見た「舟の街」という奇想天外かつユーモラスな幻想。長い人生の中で、自分の存在意義を見失ったり、未来が不安になったりするかもしれない。そんな時は、思いつめすぎず、人間らしく泣き笑い、肩の力を抜けば、自分の本当の存在意義に気づけるかもしれない。特に何かに躓きそうになった人にこの作品を読んで欲しい。最低でもエクレアを見つめるくらいの、心の余裕は生まれるだろう。

    (西南学院大学/ペンギン1号)


  • 『海のふた』
    よしもとばなな/中公文庫

     この小説は、たくさんのことを考えるきっかけをくれました。お金のこと、男女のこと、故郷のこと。登場人物であるまりちゃんとはじめちゃんの2人の時間は、そういったことをたくさん考えて、自分はここにいるという確固たる意志があり、けれどどこか儚げな雰囲気も存在していました。まりちゃんとはじめちゃんが物語の中でそうしたように、自分と向き合える作品だと感じました。

    (愛媛大学/桃香)


  • 『独立記念日』
    原田マハ/ PHP文芸文庫

     人間生きていれば必ず出会いがあって、別れがある。そこには様々な幸せや喜びがありつつ、悲しみや悩みをはらんでいる。人生は一度きり。その悲しみや悩みにとらわれ続けていたらもったいない。それを糧にして人生を豊かにしていけたら、きっと素敵な人生を歩んでいける。今立っている場所は、何かが終わったゴール地点でもあり、何かが始まるスタート地点でもある。だから、その気になればいつだって自分の殻を破って新しい人生をスタートさせることができるということを、この作品から気づかされた。

    (長崎純心大学/さざ波)


  • 『朝が来る』
    辻村深月/文春文庫

     出産ができなくて苦しむ女性と出産をしてしまって苦しむ女性を描いたこの本が僕の心にズドンと落とした“男の無力さ”。痛みを感じながら生の誕生と向き合う彼女たちを無神経に傷つける彼らに、怒りより共感を覚える自分の情けなさが今も心にのしかかる。

    (金沢大学/コウヘイ)


  • 『火のないところに煙は』
    芦沢央/新潮社

     正直この本で応募しようか迷いました。なぜなら、この話を知ってしまった人には恐ろしい運命が待っているからです。私も悪気があって皆さんに紹介しているわけではありません。もし私の身に何か起きたら、あの御札が原因かもしれないということを、どこかに書き遺しておきたかったのです。お祓い? 絶対に行ってはなりませんよ……。あの占い師にだけは気をつけてくださいね。

    (静岡大学/マリリンモンロー)


  • 『猫と庄造と二人のおんな』
    谷崎潤一郎/新潮文庫

     この作品は「人間」の話というよりは「猫」という谷崎の中では「人間」より上位の存在を介して「人間」の壊れていく様を描いている。『痴人の愛』ではナオミに隷属してく男が描かれたが、今回はそれがナオミではなく猫なのだ。この話では一見、ふたりの妻が思考を読み合い、猫を道具とし夫庄造をとろうとする話で猫は道具と思ってしまうが、ここで大切なのは人間を俯瞰する猫なのだ。

    (秋田大学/ Yyu)


  • 『殺人出産』
    村田沙耶香/講談社文庫

     10人産んだら、一人殺せる。そんな「正しい世界」で、私は何を思うだろう。出産が殺人の手段になった世界で、殺すために産み続ける「産み人」、「産み人」が産んだ「センターっ子」は算用数字、「産み人」が殺す「死に人」は漢数字。ここに、「生殖」の結果としての「生体」と、「生きる」「個人」の違いが表れていると思う。「正しい世界」への違和を書くことで、私たちの「普通」を問われている。

    (名古屋大学/ 28)


  • 『江戸川乱歩作品集 1』
    江戸川乱歩〈浜田雄介=編〉/岩波文庫

     私の中のおどろおどろしい乱歩のイメージが180度ひっくり返った!! どこかおかしな登場人物が繰り広げる愛憎の行方を追う珠玉のミステリー集。その筆致の美しさは 50年以上前のものとは思われないほどに魅力的です。代表作「孤島の鬼」 に、亡くなった弟のハガキを読み進め真実を探る兄の「日記帳」。なんだかミステリーって好きじゃないんだ、近代文学って難しそう……、そんな先入観を持っている人にこそ手に取ってほしい一冊です。人を愛することの、身の毛もよだつ致死量な恐ろしさ。蟲が這うような冷たい狂気。物語が終われば、あなたも乱歩ワールドに堕ちているはず。どうぞ、じっくり召しませ。

    (甲南女子大学/小松菜)


  • 『変身』
    カフカ〈高橋義孝=訳〉/新潮文庫

     「人は外見よりも中身のほうが大切だ。」この作品を読んで、今まで信じてきたこの言葉に初めて疑いを持った。ある朝目覚めたら巨大な褐色の虫になってしまっていたグレーゴルとその家族を中心にストーリーは進む。心は人間のままなのに家族からは嫌悪され、遂に死んでしまってもそこに新たな生活への希望を見出されてしまう。人間の本質は何なのか、考えさせられる作品だった。

    (東北大学/ゆめくる)


  • 『虫とけものと家族たち』
    ジェラルド・ダレル〈池澤夏樹=訳〉/中公文庫

     この本、なんて最高に面白いんでしょう!! これ全部——美しい海、かわいいカメや犬や鳥たち、食卓にサソリの赤ちゃんが飛び散ったこととか、超個性派ぞろいの家族とか——作者・ジェリーがギリシャ・コルフ島で過ごした子ども時代の本当の話だなんて! 愉快で騒がしい彼らの毎日がジブリアニメのように頭の中にくるくる浮かんで止まらず、心底楽しい読書体験でした。そして飽くなき探求を続けるジェリーに、好奇心って素晴らしい、と気づかされます。

    (名古屋大学/シエル)


  • 『生物と無生物のあいだ』
    福岡伸一/講談社現代新書

     分子生物学者である著者が、「生物とは何か?」という問いについて自身の考えを詰め込んだ本。前提となる生物学の知識・定説も出てきますが、どうか文系の人も臆することなく読んでほしい。福岡さんの考えは、簡単に言うと、「生物とは変わらないために変わり続けるものである」ということ。この一見不思議な文章の意味を知りたい人は、ぜひ。

    (同志社大学/リリー)


  • 『僕たちは世界を変えることができない。』
    葉田甲太/小学館文庫

     私はボランティアをしない。まわりの大学生が皆、こぞってボランティアに参加していることに疑問を感じていたから。心のどこかで彼らを偽善的だと思っていた。自分はスタートラインにすら立てていないのに。この本を読んで、ボランティアをしている当の本人だって様々な葛藤と戦いながら前に進んでいることを知った。やってみたもん勝ちだ。

    (武蔵大学/ kidrauhi)


  • 『ダンゴムシの本』
    奥山風太郎、みのじ/ DU BOOKS

     パラパラ〜とめくると様々な種類のダンゴムシの写真の中に黄色い生き物が。なぜか本書にはアルマジロが登場している。どうやらダンゴムシのように丸くなれる生き物の仲間として紹介されているようだ。しかも20種類いるアルマジロのうち、丸くなれるのは2種類だけとのこと。ダンゴムシの驚くべき生態だけでなく、アルマジロについても詳しくなれる一冊だ。

    (名古屋大学/ A,K.)


  • 『今日もごちそうさまでした』
    角田光代/新潮文庫

     食べ物とそれにまつわるエピソード、そして、作者の食に対する思い出も綴られたエッセイ集である。私は食べることが大好きなのだが、この本は「読んで」いるのにまるで食事をしているような幸せな気持ちになれる本だった。読み終わるとお腹が空いたような、いっぱいなような……。

    (長崎純心大学/あり)


  • 『いい感じの石ころを拾いに』
    宮田珠己/中公文庫

     すべてのものは、きっと等価だ。何が高い価値を持つかということは、須らく主観によるもので偶々賛同者が多かったものだけが、現代社会で何がしかの基準になる。そんなものに足を引っ張られなくても良いのだと、この本が教えてくれている気がする。

    (東北学院大学/朽葉)


  • 『廃線紀行』
    梯久美子/中公新書

     廃止された鉄道路線を廃線と呼ぶ。地図に残されておらず、人々の記憶からも失われていくのが廃線の辿る運命である。廃線歩きの醍醐味は、古地図や資料、地元の住民から得られる情報を頼りに過去を想像することである。この書を片手に、過去への時間旅行に行きたくなった。

    (信州大学/ちくま)


  • 『大学教育について』
    J.S.ミル〈竹内一誠=訳〉/岩波文庫

     なぜ、私たちは大学に来たのか。就職のためだ。モラトリアムに浸るためだ。少なくない学生がそう認めるだろう。では、一世紀半も昔の先人たちはどうか。法律や工業の専門学校ではなく、あえて大学で学ぶべきことは何だったのか。「大学ではこう過ごそう」という本ではない。大学と教養の価値を考え、ついでに、「自由論のミル」の言葉に触れてほしい。

    (立命館大学/ Wurst)


  • 『読書力』
    齋藤孝/岩波新書

     この本を手にした時、「読書力」って何だろうとタイトルに興味を持ちました。小さい頃から「読書」という言葉は身近にあったけれど、その意味や方法について誰からも教わったことがなかったからです。著者は読書について自身の体験を踏まえて述べています。一見、堅い本に思えますが、スラスラと読めると思いますので、まずはこの本を手に取って、自分の読書力について考えてみませんか。

    (長崎純心大学/ Komizu Kikane)


  • 『勉強の哲学』
    千葉雅也/文春文庫

     大学に入るまでは、勉強とは知識の積み重ねであると考えていた。しかし、勉強とはときにその積み重ねが崩れることでもある。疑問に思ったり、知識が悲しみに変わったり、常識が崩れたり……。おそらくすぐに答えの出るような勉強はつまらない。大学に入って自分のやっている研究に誇りを持てた一冊です。

    (立命館大学/よっぴー)

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