Reading for Pleasure No.45

Famous Sayings: Companions of a Journey
「名言−それは旅の道づれ」

水野邦太郎
水野 邦太郎Profile
今回ご紹介の本

ロジャー・パルバース
『英語で味わう名言集』
NHK出版
定価1,540円(税込)
ISBN:9784140350935 購入はこちら >
 2021年4月に新学期を迎えるにあたって、皆さんはきっと「頑張ろう!」という気持ちでいると思います。皆さんのその気持ちを後押ししてくれるような本を紹介したいと思い書斎の本棚を眺めていたところ、『英語で味わう名言集 心に響く古今東西200の言葉』(NHK出版)というタイトルが目に飛び込んできました。英語の名言集は、本誌145号で『心に響く英語のことわざ・名言 100』(レベッカ・ミルナー/IBCパブリッシング)を紹介しました。その本は英語圏の文化を背景にした100の名言を集めたのに対して、今回の本は「古今東西」の名言が集められています。特に、何人もの有名な日本人の名言が英語で訳されています。英訳した著者のロジャー・パルバースさんは『英語で読む銀河鉄道の夜』(ちくま文庫)の著者で、英語と日本語の両方に通じた方です。ロジャーさんは、はしがきで、名言について次のように述べています。

 Famous sayings are, in a word, poems. They can give us guidance in our life; they can soothe us and amuse us; they can make us wise. 「名言は、ひと言で言えば、詩です。名言は人生の指針を与えてくれるもの。私たちを癒やしたり、楽しませたり、知恵を与えてくれたりします」。

 But famous sayings are famous not only for their wise and fascinating content. They have a rhythm that makes them easy to say and easy to remember. And, thanks to this dynamic rhythm, they are a wonderful vehicle to take us down the road to mastering a language. 「けれども、有名な名言というのは、ただその内容が含蓄と魅力にあふれているから有名なわけではありません。口にしやすく、覚えやすいリズムがあるからです。この生き生きとしたリズムによって、私たちは名言という名車に乗り、言語習得への道を進んでいくことができるのです」。

 As for this content, famous sayings impress us with their “Three C’s.” They are creative, clever and concise. I could add a fourth “C”: Famous sayings are cool! 「内容という点では、名言には必ず、見る者、聞く者を楽しませてくれる「3つのC」があります。それはcreative (創造的)、clever (ウィットに富んだ)、そして concise (簡潔な)。私はここに、4つ目の C を加えましょう。名言というのは cool (かっこいい)でもあるんですよ!」

 このような4つの C が織り込まれた200の名言から、ロジャーさんが英訳された日本語の名言を次に紹介します。ロジャーさんの解釈と解説も一緒に紹介します。

ひらめきやセンスも大切ですが、苦しまないで努力を続けられるということが、何よりも大事な才能だと思います。 羽生善治 (将棋棋士)

 Being inspired and having a good eye is vital, but the crucial ability is to keep striving without agonizing over it.

「センスがある」ことを have a good eye と表現しています。Eye(「目」)は、 私たちが物事を捉えるときの「源」であることから、She has an eye for art 「芸術を見極める目を持っている」という言い方があります。日本語でも「見る目がある」という言い回しがあります。vital はextremely important and necessary という意味です。crucial は「何よりも大事な」という意味で、物事の重要性を際立たせたいときに使う強い単語です。strive は「努力する」、agonize over は「〜のことで苦しむ」です。将棋のような世界で一番重要な才能が「努力を続けられる」という才能である、という言葉を聞いて皆さんはどのように思われますか。

 もう一つ、次に紹介する名言はロバート・フロストというアメリカの詩人の言葉です。

 Two roads diverged in a wood, and I— I took the one less traveled by, And that has made all the difference.

「森の中の分かれ道 私は人跡稀な道を選んだ。それが私の運命を変えた」

 diverge は「分かれる」、make a difference は「違いをもたらす」という意味です。 ロバート・フロストは、人に踏まれていない道を進んだことが、彼の人生を決めたと述べています。

 ぜひ、この本を皆さんの人生の道づれとして手元に置いて、これからの人生を歩んでいって欲しいです。

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P r o f i l e

水野 邦太郎(みずの・くにたろう)

千葉県出身。江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授。博士(九州大学 学位論文.(2017).「Graded Readers の読書を通して「主体的・対話的で深い学び」を実現するための理論的考察 ― H. G. Widdowson の Capacity 論を軸として ―」)。茨城大学 大学教育センター 総合英語教育部准教授・福岡県立大学人間社会学部准教授を経て、2018年4月より現職。

専門は英語教育学。特に、コンピュータを活用した認知的アプローチ(語彙・文法学習)と社会文化的アプローチ(学びの共同体創り)の理論と実践。コンピュータ利用教育学会 学会賞・論文賞(2007)。外国語教育メディア学会 学会賞・教材開発(システム)賞 (2010)。筆者監修の本に『大学生になったら洋書を読もう』(アルク)がある。最新刊は、『英語教育におけるGraded Readersの文化的・教育的価値の考察』(くろしお出版)。

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