気になる! 万年筆

筆者おすすめの本
小川糸
ツバキ文具店
幻冬舎文庫
定価660円(税込)
購入はこちら > 鎌倉でひっそりと文具店を営むかたわら、代筆屋を請け負う鳩子。風変わりな依頼が次々と舞い込んでくる。人との繋がりを求めている人におすすめする、読んだら手紙が書きたくなるお話です。
拝啓
 あなたは、いかがお過ごしだろうか。幸せに、過ごしているだろうか。

 私の話を少しさせてほしい。

 人と会う機会が、めっきり減ってしまったように思う。食堂には仕切りができて、座ってはいけない席ができ、人との心の距離も離されたようだ。同じ大学でも友人と会う機会は少なく、ましてや違う大学ともなると、去年から会っていない人もいる。
 中学生のころ、高校のころは一緒に過ごしていた大切な仲間が、さらに遠くに感じている。今までもあまり連絡を取っていなかった人も、なんだかコロナのせいで遠くに離れてしまったような気がして悲しい。
 あの人に会いたい、と思ってはみても、こんな時代だから、断られるかな、やめておこうかなと躊躇して、連絡するのをやめてしまう。

 デジタル化の時代と言われ、SNSが盛んに使われるようになったが、なんとなく肌に合わない、と感じることがある。すぐに情報が入る代わりに、すぐにレスポンスしなければいけませんよ、と言われているようである。返信が億劫で未読無視をすることもよくある。ごめんなさい。
 
 そんな、現代に適応できていない私は、手紙が好きだ。手紙は文字を多くできるから、自分の気持ちがちゃんと伝えられる気がする。しかも自分の書きたいときに書けばいい。
 手紙は、心を伝えるものだ。私はあなたに、これを伝えたい。私が紡いだこの言葉で、私の気持ちを伝えたい。そういう気持ちで書く手紙は、いつも楽しいものだ。
 便箋、切手、ペンを選ぶのも、気持ちがこもる。あの子はこんな便箋が好きかも。この切手かわいかったから送りたい! とか。
 万年筆は、そんな心を伝えるとっておきの道具だ。ただのペンではない。太さ、細さ、濃さ淡さによって、感情を表現する。

 分かりにくいかもしれないので、私の場合を披露すると……
テンションが上がってると、紙に書く文字と文字の間隔が小さく字も小さいので、ぎゅうぎゅうになる。落ち着いて書いているときとか、ゆっくり考えながら書いているときは間隔が大きく、字も大きくなる。太いときは、より強調したい(そりゃそうだ)。細いときは、またしかり。

 小川糸さんの小説、『ツバキ文具店』(幻冬舎文庫)では、主人公が代筆の仕事をしている。様々な人から、様々な内容の依頼がある。ある依頼に、お悔やみ状を書いてほしい、というものがある。その時主人公が、水を多く含むインクで手紙を書いていたのを思い出す。悲しい手紙の代筆なので、涙のように、じわりとにじむインクを使ったのだった。読み手は、その人の筆のあとから様々な情報を読み取る。
 この表現方法は、MS明朝にはできないことだ。手書きの方が、心が伝わりやすい。これは決してデジタルの文字を馬鹿にしているわけではない。この文字を作る人たちの努力、苦労もすさまじいものだと思う。自分が作った文字を多くの人が使ってくれる。嬉しいものだと思う。

 しかし、MS明朝、もとい、パソコンの文字は誰が打っても、同じに出る文字。いいところもあるのだが、私はこれでは気持ちは伝えにくいな、と思う。表現力が乏しいので、パソコンで打った文字+自分の文章で気持ちをちゃんと伝えるのは難しい。

 そんな私は、手書きに凝る。レタリング、レイアウトも含めて、手紙なのだ。強調したいところ、伝えたいことを、そのまま紙に書き落としていく。丁寧に、自分の気持ちを紡いでいく。たとえ字を間違えたとしても、修正も含めて、私の気持ちだと思う。

 ヨルシカというアーティストのMVには、万年筆が登場する。主人公の一人は、インクの瓶を持ち歩いて、異国の地で愛する人に万年筆で手紙を書く。汗でにじむ、涙でにじむ、万年筆はそんな感情さえ紙に表してしまう。決して隠すことはできないのだ。
 具体的な話に移ろう。

 万年筆には、いろいろな種類がある。
 私は、ウォーターマンのメトロポリタンという万年筆が今の相棒である。去年の誕生日、私の手元に来てから、ずっと使っているものだ。

 ある本屋兼雑貨屋さんで買ったのだが、見に行くと、いろいろな万年筆があった。よく見ると、全然形が違う。どんな万年筆を買おうか。
 本体の色はたくさんある。これは、誰もが万年筆を選ぶ基準に考えることだろう。黒色でシックに行くのもいいし、シルバー、オレンジなど、カラフルな色が入っていても、見ていて楽しいものだ。

 プラスして考えるものは、本体の形だ。一つ一つ、違うのだ。太めのもの、真ん中が丸く太っているもの、細いものなど様々だ。結構見た目も、持った時の印象も違うのでびっくりした。万年筆を購入するときには、ぜひ試し書きをしたらよいと思う。ネットで買うのもいいが、見ているだけと実際使ってみるのでは、全く違う。自分の好きなデザインの服を買うのと自分に似合う服を買うのは違う、みたいな感じだ。実際に試着すると、すごく心惹かれた服でも、これは着れないなぁと買うのを断念する。そんな経験ないだろうか。
 持ちやすい物、持ちにくいものは手の大きさによると思う。私は相棒メトロポリタンの、細くて手に収まる感じが気に入って、これを選んだ。

 ペン先も、様々だ。よく想像する万年筆のかっこいいペン先。この装飾にもいろいろあるし、ペン先によって文字の太さが変わるので、一度試し書きをしてから選ぶとよい。私の行った本屋さんは、瓶を持ってきてインクをつけて渡し、試し書きをさせてくれた。書いた後は水で洗って戻す。こういう一つ一つの手入れが大事なんだなと感心しながら見ていた。
 また、インクの出し方にも、種類がある。インクを吸い取る式と、カートリッジ式がある。ヨルシカのMVにもあったように、インク瓶から吸い取って書くのは憧れたが、今回は簡単なカートリッジ式にした。ここも迷った所だった。

 ペンの色、太さ、ペン先、インクなど、万年筆を選ぶ時の、色々な基準を紹介した。まだ私の知らない基準もあると思うので、もしあったら是非教えて欲しい。私の決め手は本体の細さだったが、皆さんも自分の好きな基準をもって、一本持ってみてはどうだろうか。

 あなたからの返事を待っています。
かしこ
 
P r o f i l e

品田 遥可(しなだ・はるか)

金沢大学理工系3年生。岩石・鉱物の勉強をしている。幼いころから本を読むのが好きで、好きな作家さんは宮下奈都さん。美しい文章にドキドキします。就活の波に絶賛揉まれ中。画像は金沢市のHIMITO。

※「気になる! ○○」コーナーでは、学生が関心を持っている事柄を取り上げていきます。


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