新連載 音楽のいずみ①

60年以上も走り続けるアーティスト、 ポール・マッカートニー

Stuck inside these four walls
Sent inside forever
Never seeing no one nice again……..
If I ever get out of here
Thought of giving it all away to a registered charity
All I need is a pint a day if I ever get out of here
If we ever get out of here…
 これは、ポール・マッカートニー&ウイングスというバンドが1971年にリリースした楽曲「Band on the run」の一節です。気の遠くなるような時間の中で誰にも会えないのは耐えられない、早くこの狭い空間から抜け出したい……。このような歌詞ですが、なんとなく昨今の私たちの状況と似たものを感じますね。
 さて、コロナウイルスの影響で世界が混乱に陥る中で、ポール・マッカートニーは昨年12月に新アルバム『McCartneyⅢ』を発表しました! ということで、今回の新連載第1号は生けるレジェンドの半生をご紹介していきます。
 1962年、ポールはビートルズのメンバーとしてデビューをし、ビートルズ解散までの8年という短い期間の中でたくさんの名曲を世に送り出してきました。「Hey Jude」や「Yesterday」は今でも歌い継がれていますよね。1970年、ビートルズが最後のアルバム『Let it be』をリリースする中、ポールはソロアルバム『McCartney』を発表。ここからソロアーティストとしてポールの第2章のキャリアがスタートします。
 ビートルズ解散後、彼は奥さんのリンダと他のミュージシャンと共に、ポール・マッカートニー&ウイングスというバンドを結成し、再び音楽活動をスタートさせます。そして3作目のアルバム「Band on the run」が大ヒット! この作品には、閉塞感のある現状から打破しようとする「Band on the run」、そして疾走感のあるロックチューン「Jet」とウイングスの定番曲が詰まっています。彼らはその後も飛ぶ鳥を落とす勢いでヒットを飛ばし続け、ポールはまたしてもバンドで成功を掴むことになるのです。オススメは1976年の全米ライブツアーを収録した映像集『Rock show』。これを見ればあなたもウイングスが当時どれだけ人気を集めていたのかが分かるはずです! ここではウイングスのヒット曲だけでなく、「The long and winding road」や「Lady Madonna」などのビートルズ時代の名曲も歌っています。そして、極めつけは7作目のアルバム『Back to the egg』。レッド・ツェッペリンやザ・フーなど、英国ロックを代表するバンドのメンバーが集結した「Rockstra Theme」、この時代では最先端であったディスコサウンドを取り入れた「Arrow Through Me」など、聞き応えのある楽曲が収録されています。そして、同時期にリリースしたシングル「Wonderful Christmastime」はクリスマスソングとして今でも有名ですね。70年代を彩る名曲を生み出してきたウイングス。しかし『Back to the egg』がウイングス最後の作品となってしまうとは誰も予想していませんでした…。その原因の舞台となったのが日本。1980年1月16日、ウイングスの公演のために成田空港に到着したポールは、なんと大麻所持で現行犯逮捕されてしまいます。この報道でポールファンは大激震。なぜなら、この公演はポールにとって14年ぶりの来日公演であり、ウイングスとしても念願の初来日公演であったのですから。もちろん公演は全てキャンセル。彼は東京の留置所で2週間ほど過ごした後、強制送還となりました。ウイングスはその後すぐに解散してしまったことで、ウイングスの来日公演は幻と化してしまいました。さらに、悲劇はここに留まらず、ビートルズ時代のソウルメイト、ジョン・レノンが銃弾で倒れ、突然帰らぬ人に。ウイングスとして成功を掴んできたポールの第2章は混沌とした状況の中で終わりを迎えることになります。
 そして、1980年にリリースされたソロアルバムが『McCartneyⅡ』です。『McCartney』をリリースしてちょうど10年が経っていました。80年代以降のポールはビートルズやウイングスといったような固定のバンドを組むことはなく、ソロとして音楽活動を続けていきました。そして、“King of Pops”ことマイケル・ジャクソンとのコラボ曲「Say say say」や天才メロディメイカーのスティービー・ワンダーとのコラボ曲「Ebony and Ivory」は大ヒットを記録。90年代に入ってから、最愛の妻リンダや元ビートルズメンバーのジョージ・ハリスンらの死を迎えますが、その苦しみにも決して屈することはなく、御年78歳となる現在に至るまで、現役の音楽家として精力的な楽曲制作とライブで世界中を駆け回ってきました。
 彼の半生を駆け足で紹介してきましたが、ここまで読んでくださった方は『McCartneyⅡ』から40年を経てリリースされた『McCartneyⅢ』がどれだけファンを驚かせるものであるのか、分かったことでしょう。この作品はコロナ禍のロックダウン中に製作されたということもあり、なんと全ての楽器をポール1人で演奏して製作しています。なかなか家から出られない日はゆっくりこちらのアルバムを聴いてみるのはいかがでしょうか。
 最後に、冒頭で紹介した「Band on the run」の続きの歌詞を紹介します。
Well, the rain exploded with a mighty crash As we fell into the sun
And the first one said to the second one there
“I hope you’re having fun”
Band on the run
 やがて長い縛りから解かれて、雨に打たれながら仲間たちと最高の気分で走り続ける……。
 私たちにもそんな日が早く来ると良いですね。
 
P r o f i l e
戸松 立希(とまつ・たつき)

慶應義塾大学3年生。クラシックピアノが趣味ですが、聞いている音楽は英国ロック、ジャズ、J-POP……といわゆる雑食系。最近はYMOをよく聞いてテクノサウンドに魅了されています。


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