読書マラソン二十選! 167号


2020年開催第16回全国読書マラソン・コメント大賞の応募コメントより、今回の二十選は小説を中心に集めました。
 


  • 『歌うクジラ 上・下』
    村上龍/講談社文庫購入はこちら >
      「移動が、すべてを生み出すのだ」、これで救われたように感じたのは2020年6月だった。COVID-19に伴う外出自粛で新宿や渋谷から人が消え、経済は停滞し、入学式と新歓が消滅してキャンパスは封鎖された。太平洋戦争やバブル崩壊を知らない僕は3.11をも凌ぐ初めての閉塞感に征服されかけた。しかし村上龍は凄惨な未来社会を描き尽くした後に、移動せよと書いた。暴力を繰り返し見たが目的地へ動き続けた主人公は最後に旅自体と出会いに希望を見出したのだ。小説は殴りつけるように希望を与えうるのだと、僕は初めて知った。

    (東京大学/大熊洸)


  • 『ジャイロスコープ』
    伊坂幸太郎/新潮文庫購入はこちら >
     本短編集のうち最も気に入っているのは、「一人では無理がある」の章だ。パッと見ドジで仕事にいつもミスが出てしまう松田が、例にもれず発注ミスをしてしまうも、思いがけない形で最高のプレゼントを提供できている。この、自分では意識していない形で他者にしあわせを届けているという構造がとても良い。一人で出来ることは限られているが、それぞれが与えられた仕事をこなす裏で、皆の仕事の結晶が素晴らしいグランドデザインをなしている。こんな仕事をしてみたいし、こんな形で幸せを届けてみたい。

    (東京大学/3days ago)


  • 『AX アックス』
    伊坂幸太郎/角川文庫購入はこちら >
     そんなわけない。最強の殺し屋は恐妻家。そんなことあるわけない。そう懐疑の心で読み始めた。殺しの仕事をテキパキ始末する兜。奇襲攻撃もすぐに処理してしまう凄腕。でも家では妻のご機嫌取り。息子にも呆れられる日々。もし人生をやり直せるとしても全く同じでないとつらいと考える兜。そんな兜がある日突然自殺する。その後、兜の部屋の整理で出てきたのは、初めて妻にもらったチラシと息子がクレヨンで書いた絵。それをずっと大切にしていた兜。兜は恐妻家ではなく、愛妻家だ、と思った。こんなにも心が淋しくなる愛の物語は初めてだ。

    (法政大学/ちろるちょこ)

 

  • 『最後の医者は桜を見上げて君を想う』
    二宮敦人/TO文庫購入はこちら >
     自分が死に迫られた時を想像した。しかし、どう思うか、どうするかなんてちっともわからなかった。生まれた限りいつか死ぬ。その最後の最後まで、食べたいものを食べて、行きたいところに行って、会いたい人に会って、後悔なく過ごしたいと思った。
     この本に元気な今出逢えたことに感謝する。

    (武蔵大学/素子)


  • 『卵の緒』
    瀬尾まいこ/新潮文庫購入はこちら >
     一人で歩く帰り道、考えすぎて眠れない夜、、、ふと寂しくなることはないだろうか。そんなときに、この本を読んで欲しい。君子さんが育生に愛を伝えるまっすぐな言葉のひとつひとつは、絶対に読者を一人にしない。
     私は瀬尾まいこさんの小説を読むといつも、悲しいわけでもないのに涙がぽろぽろこぼれてくる。私は温かい気持ちを知っている、ひとりぼっちじゃない、そんな自信が湧いてくるのだ。彼女の本を読んでたくさん泣くと、お腹がすく。そして、「大切な誰かと一緒にごはんを食べよう」。そう思って今日も前を向ける

    (法政大学/ちか)


  • 『私小説』
    市川拓司/朝日新聞出版購入はこちら >
     この人が見る世界はどうなっているんだ?
     小説家であり、発達障害で、愛妻家。過剰な病弱気質でもある市川拓司によるエッセイ。生まれつきか、それともその障害からなのか、常識的な価値観は彼には当てはまらない。植物に欲情し、人一倍不安を感じやすい極端な平和主義者。そしてその世界は柔らかくて、優しくて温かい。が、少し風変わりだ。その世界は彼以外、誰の目からも映されない。
     そんな彼の過ごす30時間をこの私小説で感じてみるのはいかがだろうか。

    (愛知教育大学/小倉)


  • 『サラバ! 上・中・下』
    西加奈子/小学館文庫購入はこちら >
     生きているうえで何気なく感じていた己の喜びや悲しみ、怒り、醜さ。これらの感情が主人公の気持ちを通して、共感或いは戒めとなって心に積み重なっていく。この本はそんな小説だ。物語は一人の男の0歳から37歳までの人生を描いたものである。私は19歳の時にこの本を手に取ったので、特に中学・高校時代の主人公の心情に寄り添えた。話の鍵を握るのが主人公の姉だが、彼女の言動が、今までの己の恥と向き合えるきっかけになった。以前の自分と読後の自分の人生観の違いに戸惑いを隠せない。そんな小説にあなたも出会いたくはないか。

    (西南学院大学/イヴ)


  • 『熱源』
    川越宗一/文藝春秋購入はこちら >
     この物語は何色だったとか、そんな陳腐な言葉でこの物語を表現することはできない。場面、場面で色が濃く、深く変化していく。彼らの汗と、涙が混ざり込んだ熱を淡白な文字で表すなどしてはいけない。
     熱源では辞書に書いてある文字の説明の羅列など意をなさない。弱者は強者が決める言葉の意味に準じ、強者はそんな弱者を見下し支配を強いる。しかし、そんな世の中でヤヨマネクフは一つの答えに辿り着いた。世界の在り方を変えた訳でもない、国の主導者になった訳でもない。そんな彼の突き動かされた生き方に、涙が止まらなかった。

    (東京農業大学/パフィ)


  • 『ひと』
    小野寺史宜/祥伝社文庫購入はこちら >
     大学生は自由の身であるとよく言われるけれど、実際は色々なものを背負って生きている。後々返さなくてはいけない奨学金や、就職に対しての不安。大学の四年間を有意義に使わなければならないというプレッシャー。そんなことを考えていると、途端に何かやらなくてはいけない気がして焦ってしまうけれど、この本はそんな人に大切なことを教えてくれる。大丈夫、焦りすぎたって何にもいいことはない。果てしもない不安があったって他のすべてを諦めてしまうことはないのだ。荷物が重くても、ギターは捨てなくていい。

    (釧路公立大学/おふろ)


  • 『ミッキーマウスの憂鬱』
    松岡圭祐/新潮文庫購入はこちら >
     本当に面白い。この本を一言で表すならこの言葉に尽きる。「ミッキーマウスの憂鬱」なんて暗いタイトルだけれど、読み切った後の爽快感とこれからの主人公への期待感はピカイチだ。主人公の仕事はきらびやかな夢の王国とは程遠い、バックステージでの重労働。空回りしながらも懸命に走り回る主人公を見ていると、なぜかこちらまで活力が湧いてくる。自分もここまでの情熱を持てる日が来るのだろうか。こんなコメントは読まなくてもいいから、この本を読み始めてみてほしい。きっとあなたもディズニーランドの世界に惹き込まれるはずだ。

    (名古屋大学/さみ)


  • 『屋上物語』
    北森鴻/祥伝社文庫購入はこちら >
     子供の頃に訪れた百貨店の屋上階にはペットショップがあって、そこに行くたびに犬や猫を飽きもせず眺めていたなと懐かしく思いながら読み始めたが、どうやらデパートの屋上というのは幼い私が考えていたよりもずっと波乱万丈な物語で溢れていたらしい。すっきりとした幕切れをもたない事件は現実世界をより正確に写し取っているようで、新聞を読んでいるかのような説得力を持って眼前に迫ってくる。屋上という社会の縮図の中で、さくらおばさんが巻き込まれる事件に動じることなく留まり続ける理由とは消化よりも共生を要するものだった。

    (大阪大学/はっさく)


  • 『ナナメの夕暮れ』
    若林正恭/文藝春秋購入はこちら >
     ついつい忘れ物をしてしまう、初対面の人と話すのが少し苦手、そんな日常のふとした1コマがきっかけで「あ、私はちょっと普通の人とはズレている」と思うことがある。そんな時に「気にするな」とか「こうした方が良いよ」というアドバイスを投げかける人よりも、欠点に見える些細な部分も「いいね」とか「面白いね」と“個性”として認めてくれる人が近くにいるだけで、少し生きやすくなるんじゃないかなと思う。

    (慶應義塾大学/エディ)

 

  • 『コウモリであるとはどのようなことか』
    トマス・ネーゲル〈永井均=訳〉/勁草書房購入はこちら >
     「あなたの生命にはかけがえのない価値があります。だから−」嘘だ。僕に価値なんてない。もちろん、てめえにもだ。馬鹿なんじゃないのか? 糞食らえ。
     ヨブのように全てを神への信頼に帰することは僕にはできないから、世界に反逆する。くちびるを噛み締めながらシーシュポスたらんとする僕を、ネーゲルは「ロマンチックで少々自己憐憫的である」という。自分の人生の傍観者としてアイロニーをもって自らの卑小さを凝視せよと。やはりここまで諦めることは僕にはできそうもないと、そう思う。

    (東京大学/のうがん)


  • 『さよならクリームソーダ』
    額賀澪/文春文庫購入はこちら >
     命の大切さ、というものは年齢を重ねるにつれて身に染みてくるものだと思う。そして、多くの若者は、理解しているつもりでも、まだいのちの大切さを理解しきれていないと思う。なぜなら、今日寝たら、明日、起きるのが当たり前だから。思い切り運動して疲れても、数日休めばすぐに元気になるから。今日も明日も、その次の日も自分は健康であることが、当たり前だと思っているから。そんな若者には、生きることに対する姿勢は少しだけ、雑なものでいいのではないか。「大切な命だから、生きよう」ではなくて、「死ぬまで生きてやるよ」。

    (信州大学/夜光杯)


  • 『田舎の紳士服店のモデルの妻』
    宮下奈都/文春文庫購入はこちら >
     読書中、何度も母親に思いを馳せた。言語も使えない、泣くことでしか感情を表現できない私を育てるために、彼女は何をどれくらい犠牲にしてきたのか。働くことの喜び、女性としての美しさ、自分のためだけの時間。彼女を母にしたのも、してしまったのも私なんだ。この本に出会わなかったら、こんなこと考えなかっただろう。帰省した時、母に読んでみてと、この本を渡した。母のためにこれから生きようとおもったとか、彼女の何かを犠牲にしたことに負い目を感じたとかじゃない。ただ、私がこの作品に触れて感動したことを伝えたかった。

    (金沢大学/コウヘイ)


  • 『音楽ってなんだろう?』
    池辺晋一郎/平凡社購入はこちら >
     大学に入って始めた合唱。練習にあまり参加せず、初めのころの熱意が冷めかけていた時期があった。だけど、もう一度合唱に向き合ってみようとこの本は思わせてくれた。自粛期間で集まって歌えない中、無性にみんなと歌いたいと思った。活動が再開した時、歌う楽しさ、声を合わせる楽しさをしみじみと感じた。「合唱には人を勇気づけたり何かを主張する力がある。」音楽は、人に力を与える何かを持っているのだ。

    (愛知教育大学/リーリー)


  • 『白の闇』
    ジョゼ・サラマーゴ〈雨沢泰=訳〉/NHK出版購入はこちら >
     コロナ禍において、カミュの『ペスト』以外の本も読みたい、そんな人にお薦めです。『白の闇』も伝染病に町全体が感染してしまう物語です。完全なフィクションなのに恐ろしいくらいのリアリティがありました。なぜこんなリアリティがあるのだろう。それは極限状態に置かれた人々がとる行動の野蛮さ、残忍さ、自己中心さ、弱さ、愚かさ、苦しさ、悲しみ、そうしたものが、私たちが現実に持っているものと変わらないからだと思いました。文化的、理性的な面の下にある、原始的でお世辞にも綺麗とは言えない人間の一面がまざまざと描かれます。

    (大阪大学/マリ)


  • 『月の光』
    ケン・リュウ=編、劉慈欣ほか=著〈大森望ほか=訳〉/早川書房購入はこちら >
     「ブレインボックス」は誰かが死ぬ直前、何を考えていたのかを追体験出来る技術だ。他者はどのような思考回路で意思決定しているのか、私が常々気になっていたこととちょうど重なっていた。
     しかし他人に見られることが前提となった思考は、他人に良く見られたいという誰しも持つ欲求によって歪み出し、自己不信を招いた。「私の思考は本当に私のものなのか。取り繕っただけの、偽物の思考ではないのか」と。常に自分の思考を疑わずにいられない、その様に薄寒さを覚えた私自身のためにも、私の疑問は解消されるべきではないのだろう。

    (東京外国語大学/かた)


  • 『月と六ペンス』
    サマセット・モーム〈金原瑞人=訳〉/新潮文庫購入はこちら >
     タイトルに惹かれ、この本を読んだのは十九歳の最後の日のことであった。二十歳はずっと遠くにある、特別なものだと思っていた。それがどうだ、目前にして感じたのは高揚感ではなく、不安であった。私には、夢がある。それを叶えるべく追い求めている。しかし、もし叶わなかったら? そんなことを思うと、怖くなる。逃げたくなる。そんな時は「成功の意味は一つではない」というこの本の言葉を思い出す。他の道にも成功がある、人生の逃げ道は弱さばかりか支えにもなることを教えてくれた。二十歳の初夜は月が綺麗で、心は満たされていた。

    (京都大学/めんとす)


  • 『死にたいけどトッポッキは食べたい』
    ペク・セヒ〈山口ミル=訳〉/光文社購入はこちら >
     私が人生で一番つらいときに引き寄せられるように手に取った本書。私は冒頭部に出てくる「今日という日が完璧な一日とまではいかなくても、大丈夫といえる一日になると信じること。一日中憂鬱でも、小さなことで一回ぐらいは笑うことができるのが生きることだと信じること」という言葉に心から救われた。そんな「大丈夫といえる日」が一週間となり一ケ月となり一年となり人生になっていく。とびきり良い日ばかりではなくても大丈夫なのだ。そう信じることができれば、憂鬱な日もクスリと笑える小さな良いことを探して生きていける。

    (徳島大学/ちりすーぷ)

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