何を「美しいなあ」と感じるかは、人によって違うものです。例えば外を歩いているときに、ふと見上げた空を美しいと感じる方もいるでしょうし、道端に咲いている小さな名も知らぬ花を美しいと感じる方もいるでしょう。また、そのどちらにも特に心が動かされない方もいると思うのです。ひとりひとり美しいと感じるものは異なりますので、時には自分の美の世界が理解されないこともあります。そのようなときにはほんのり寂しさを感じますが、そもそも人と人とは分かり合えないものなので、それも致し方ないこと。自分の美の世界は自分の中で、ひっそり楽しめば良いのです。
わたしのささやかな部屋には、隅っこに壁面ラックがあります。その壁面ラックには二段の棚がついていて、ちょっとしたものを置くことができるようになっています。その棚をわたしは「趣味のための祭壇(宗教要素は無し)」と名付け、自分が美しいと思うものや、眺めていると心が嬉しくなるものを飾っているのです。わたしの部屋には当然わたししか入らないので、その「趣味のための祭壇」を目にするのは自分だけ。そのため人目を気にすることなく、自由に飾り付けることができます。
まず二段の棚部分には手芸店で買った布地とタッセル付きブレードを使って自作したクロスのようなものを敷いています。クロスを自作したのはこだわり故……というわけでは実はなく、棚のサイズが小さすぎて(奥行は文庫本程度しかありません)ぴったり合うクロスが市販になかったため。棚に敷くクロスを自作するために、クローゼットの肥やしとなっていたミシンを引っ張り出したのは良い思い出です。棚にクロスを敷くと、ぐっと特別な場所らしい雰囲気が漂います。
二段の棚のうち上段には、愛してやまない抒情画家の中原淳一さんのポストカードを収めたフレームと、お気に入りのピアスを飾りながら収納するためのハープ型のピアススタンド、そして季節外れをものともしないジャック・オ・ランタンの置物があります。自分のためだけの祭壇なので、この際季節感は関係なく、わたしの部屋は一年中ハロウィンな雰囲気が漂っています。
下段には、キャンドルのようなデザインの間接照明(デザインがキャンドル風というだけでLEDライトが灯る)と、愛してやまないイラストレーターの今井キラさんの絵を収めたフレーム、瓶詰にした鉱物が複数個並んでいます。鉱物は瓶に入れると標本のようになって愛らしいです。
この「趣味のための祭壇」はわたしが部屋にいるときにもいないときにも、眺めているときにもそうでないときにも、ずっと部屋の隅に存在しています。自分がすきだと思うもの、美しいと思うものだけを集めた場所が確かに存在しているというだけで、しみじみ嬉しく、日々のお仕事やこの原稿の執筆も頑張ることができるというものです。
森茉莉
『私の美の世界』
新潮文庫 定価605円(税込)
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