新連載 おいでませ、フランス文学の世界へ①

「Qui rit guérit.
〜笑う門には福来たる〜」

Bonjour! Comment allez-vous?
 さっそくですが、皆さんは、フランスっていうと何を思い浮かべますか? フランス料理、紅茶、ワイン、ファッション、芸術、豪華な建築物……大方、オシャレで豪華なイメージが出てくると思います。ではでは皆さん、フランス文学といえば何を思い浮かべますか? うーん、あんまり連想できない方が多いと思います。じゃあ、どんなイメージ? なんだかおしゃれそうだけど小難しそう、読みにくそう……私はフランス文学専攻ですが、研究室に配属されるまではフランス文学を殆ど読んだことがなく、イメージ上でなんだか敷居の高い存在でした。しかし読み始めてみたら意外や意外、フランス文学はただ華麗なだけじゃなく、とーっても面白い作品で溢れかえっていました! 面白さも多種多様に笑える喜劇・活劇から切なく美しい恋物語、心理描写がリアルすぎる人間劇、気づきに溢れる哲学小説……多すぎて書き尽くせないほどです。そんなこんなで皆さんにご紹介したいフランス文学は溢れんばかりにございますが、今回は記念すべき連載第一回ということで、「笑って楽しむフランス文学」をご紹介したいと思います。数ある名作の中から、誰でも気軽に読める作品を選んだので、ぜひご一読いただきたいです。
 さて、それではさっそく参りましょう! 一冊目はアンリ・ミュルジュール作の『ラ・ボエーム』です。この本はなんと500ページ弱もあるのですが、連載小説を文庫化したため中身は一話完結の小エピソードに分かれています。ギャグ漫画の単行本みたいなイメージです。主人公は四人のボヘミアン(画家・詩人・文学者などの「放蕩者」を指します)、彼らはその日暮らしの生活で、稼いだ大金は一日で使い果たし、借金は滞納しまくり、恋人を作ったと思うと次の章では別れている……という無茶苦茶ぶり。どうしようもないのに、なんだか憎めないし笑っちゃう、そんな彼らはフランス版の「こち亀」両さん、といったところでしょうか。笑いの中に見え隠れする、彼らの人情に時たまホロリとなるのも魅力的です。ちなみに、この作品を元にした同名のオペラがありますが、そちらは小説とは全く雰囲気が異なった号泣ものの物語です。オペラの元ネタとなったエピソードが小説内にありますので、比較してみると面白いですよ。オペラを見たことがある人は、真っ新な気持ちで小説を読んでくださいね!
 お次の一冊は、フランスエンタメ界の巨匠、ジュール・ヴェルヌ作の『八十日間世界一周』です。舞台はまだ飛行機もない時代。冷静沈着で有名なイギリス紳士のフォッグ氏は、トランプ仲間とある賭けをします。それは「80日間で世界一周する」という内容。仲間たちが絶対無理だという中、フォッグ氏は大金を賭けて、お伴の青年パスパルトゥーと旅に出ていきます。一方、ロンドンでは強盗事件が発生し、犯人が逃亡を続けていました。警察は、なんとフォッグ氏を犯人だと勘違いし、捕まえようと彼らの後を追いかけてきます。フォッグ氏は誤認逮捕されずに80日で帰還することができるのか。アフリカ・インド・香港・日本・北米・南米……行く先々でトラブルに巻き込まれたり、厄介事を引き起こしたりのパスパルトゥーと、いつも冷静だけど、時折かなり強引な手を使って計画通り旅を続けようとするフォッグ氏のコンビにハラハラしつつわくわく憧れてしまいます。また、旅先で出会う人々とのやりとりには、ユーモアや人情味が溢れており、この無茶苦茶な旅が二人の人間性によって成り立っていることが窺えます。なかなか海外旅行に行けない皆さんも、この本を読むときっと世界中を冒険しているような気分になれるでしょう。
 最後にご紹介するのは、喜劇の大家、モリエール作の『人間ぎらい』です。主人公のアルセストは世間知らずとも言うべき純真な青年貴族。社交界の嘘八百な人間関係に嫌悪感を持つ彼は、つい正直にものを言いすぎて次々と敵を作ってしまいます。そんなアルセストは皮肉にも社交界の悪の華、超八方美人で軽薄な未亡人のセリメーヌに恋してしまい、自分の信条とセリメーヌへの思いの狭間で苦しみます。終始アルセストは大真面目に生きているのですが、彼の極端すぎる思想や行動はなんだか笑いを誘います。アルセストを取り巻く人々も非常に魅力的で、大半が軽薄な人物に見えるのですが、とても人間味があって憎むどころか親近感が持てます。ちなみに作者は執筆時、40歳前後だったようです。彼が青年時代に体験した人間関係の苦楽が作品に詰め込まれているのでしょう。本作は単なるコメディではなく、人間関係の真理を追求した心理劇であり、登場人物たちの言葉にはハッと気づかされることが多いと思います。
 今回は面白くて楽しいフランス文学を紹介してみました。どれもすぐ読めるので、お気軽に手に取ってみてくださいね。
Merci beaucoup,à bientôt♪
 

今回ご紹介した本


  • アンリ・ミュルジェール〈辻村永樹=訳〉
    『ラ・ボエーム』
    光文社古典新訳文庫 定価1,760円(税込) 購入はこちら >

  • ジュール・ヴェルヌ〈鈴木啓二=訳〉
    『八十日間世界一周』
    岩波文庫 定価1,177円(税込) 購入はこちら >

  • モリエール〈内藤濯=訳〉
    『人間ぎらい』
    新潮文庫 定価473円(税込) 購入はこちら >
 
P r o f i l e
岩田 恵実(いわた・めぐみ)

名古屋大学4年生。最近は隙間時間で水彩画に取り組んでいます。アナログ作業は基本やり直しがきかないのですが、かえって楽しいです。描き始めると時間を忘れて別世界に没頭できるのですが、そのまま埋もれて現実逃避しそうです……。


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