卒業生のひとりごと
14.小説入門におすすめの短編集


  色々な小説が詰まった短編集は、アソートチョコレートみたいで、表紙をひらく前からなんだかわくわくします。最初から順番に読んでいくのでも、なんだか心惹かれたタイトルの物語から読むのでも、ちょいちょいつまみ読みをするのでも、自由です。その自由さが、わたしはとてもすきで、昔から短編集を愛しています。
 また「読みやすい」というのも、短編集の良さです。ひとつひとつの物語が短いので、ちょっとした時間に読むことができます。寝る前のリラックスタイムのお供にしたり、電車の中で頁をめくったりするのにもぴったりです。また読書にあまり慣れていなくて「長編小説を読むのは大変」という方でも、短い物語なら比較的容易に読むことができるのではないでしょうか。というわけで、小説入門としても短編集はおすすめなのです(個人の意見です)。

  『ようこそ地球さん』
「SF」というと、なんだか小難しくてとっつきにくい……そのような印象を持っている方もいらっしゃるかもしれません。そのような方に読んでみていただきたいのが『ようこそ地球さん』(星新一/新潮文庫)です。『ようこそ地球さん』は、星新一さんの珠玉のショートショートがぎゅっと詰まった最高のショートショート集。ごくごく短い物語が42編収録されています。すこし不思議で、皮肉で、どうしようもなくユニークな短い物語たちは、読み手をあっという間に未来や宇宙空間や違う惑星に連れて行ってくれます。
 42編の中で特にお気に入りなのが「殉教」という作品です。死後の世界にいる者と会話ができる機械が発明され、死に対する不安がなくなったとき、人間は迷わずに死を選ぶ——そのような光景が描かれています。もしも自分の目の前に死後の世界にいる人々と会話ができる機械があったとして、既にこの世の人ではない知人と話をしたとして、その結果死への恐怖や不安がなくなったとして。そうなったとしたら、一体どのような選択をするのでしょうか。銃で心臓を打ち抜いた警官や、靴下で首を締めあげた女性と、同じようなことをするのでしょうか。それとも、「生き残り」になるのでしょうか。死後の世界に思いをはせたり、自分の選択について考えたりしながら、この物語を楽しんでみてください。

『儚い羊たちの祝宴』
 お嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」にまつわる物語が収録された短編集『儚い羊たちの祝宴』(米澤穂信/新潮文庫)は、全体に漂うほの暗さが魅力の作品。どこか不穏な空気が漂っていて、後味がほんのり悪い。そのような作品に惹かれる方に読んでみていただきたい一冊です。それはそうと夢想家のお嬢様方が集って書物に関するおしゃべりを繰り広げる優雅な「バベルの会」、叶うのであれば参加してみたいものですね。
 収録作品の中で特に印象的だったのは「玉野五十鈴の誉れ」という短編です。「玉野五十鈴の誉れ」は、やんごとなき家に生まれた少女の純香と、使用人である玉野五十鈴の物語。タイトルにもなっている「『玉野五十鈴の誉れ』とは一体何だったのか」を考えながら読み進めると、色々な読み方ができるかと思います。一見すると純香と五十鈴の強い結びつきの話のように思えますが、はたして。

『僕はかぐや姫/至高聖所』
僕はかぐや姫/至高聖所』(松村栄子/ポプラ文庫)の表題作「僕はかぐや姫」は2006年のセンター試験・国語の問題として出題されたので、一部を過去問等で読んだことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。わたしが初めて読んだのもセンター試験の過去問と向き合っていたときで、とても印象的な物語だったことを覚えています。
「僕はかぐや姫」は、地方の女子校が舞台の、自分自身を「僕」と称するのがごく自然だと感じている高校生たちの物語です。どこか自分にも覚えがある過剰とも思える自意識や変化していかなければならない自分自身との葛藤に身悶えしつつも、置かれた場所でもがくしかなかった「あの頃」のことを思い出して、愛おしい気持ちになりました。「あの頃」のことを忘れてしまわないためにも、大人になってもそばに置いて、定期的に読み返したいと思う、そんな作品です。

 

P r o f i l e
門脇みなみ(かどわき・みなみ)
『読書のいずみ』卒業生。昔から短編集がすきです。ちいさな物語がたくさん詰まっていて、わくわくするからです。

「卒業生のひとりごと」記事一覧


ご意見・ご感想はこちらから

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ